アーティストのフィレレイ・バエズは、「ショーンバーグ黒人文化センター」が保管するゾラ・ニール・ハーストンやマヤ・アンジェロウといった著名な女性たちに関する資料に心を動かされて、一連の最新作品を制作した

BY TESS THACKARA, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

 ある日の午後、ファインアーティストのフィレレイ・バエズは、ニューヨーク市のハーレムにある「ショーンバーグ黒人文化センター」で、詩人のマヤ・アンジェロウがタイプライターで打った花の注文書をめくりながら、ていねいに目を通していた。すぐそばに、アンジェロウが書いた手紙やメモが山積みになっている。アンジェロウは毎年、母の日になるといろんな人に花を贈るのが好きだった。彼女の事務所から花屋「デイリー・ブロッサム・フローリスト」に送られた注文書には贈り先の女性たちのリストがあり、相手ごとに頼みたいブーケのアレンジが記されていた。

 たとえば1994年の5月には「春をイメージした花」をエリア・コナリーへ、「ティーカップのような小ぶりのアレンジメント」をヴィオラ・スターリングへ、そして「愛情あふれるブーケ」を“マザー・ボールドウィン”(小説家のジェイムズ・ボールドウィンの母)に贈るように指示されていた。それ以外にも、少なくとも6人の女性がその年、この詩人から花を受け取っている。ひとつひとつの花束には、「喜びを。マヤ・アンジェロウより」と書かれたメッセージが添えられていた。

画像: フィレレイ・バエズの『Joy Out of Fire』の展示風景。2018年11月24日までショーンバーグ黒人文化センターで展示された PHOTOGRAPH BY JOHN LUSIS

フィレレイ・バエズの『Joy Out of Fire』の展示風景。2018年11月24日までショーンバーグ黒人文化センターで展示された
PHOTOGRAPH BY JOHN LUSIS

 バエズはドミニカ共和国生まれで、現在ニューヨークに拠点を置く36歳の画家だ。彼女は歴史上の有色人種の女性たちとの関係性を自分なりに構築する方法を見つけ出し、昨年末にニューヨークで展示された最新の絵画作品の中で、その結果を表現した。何カ月もの研究の成果としてバエズが作り上げた展覧会は、これらの女性に捧げられた殿堂のようだ。

ハーレムにある「スタジオ・ミュージアム」の依頼でキュレーションを手がけたのは、同美術館に所属しているハリー・リングルだ。『Joy Out of Fire』(炎の中から生まれる喜び)と名づけられたこの展覧会によって、「ショーンバーグ黒人文化センター」(ニューヨークの公共図書館の一部で、黒人文化の資料が保存されているアーカイブ)の膨大な文化資料を代表する、アフリカ系アメリカ人とアフリカ系カリブ人の女性たちが一堂に会することになった

その中には、『彼らの目は神を見ていた』を書いた作家のゾラ・ニール・ハーストンなど、知名度の高い人物もいる。一方で、1960年代の著名なパイロットで、教育機会の乏しい子どもたちに航空産業や航空宇宙産業を紹介したアイダ・ヴァン・スミス、1940年に『ザ・ニューヨーカー』がライターのジョセフ・ミッチェルによる記事で取り上げた“神童”ことフィリッパ・スカイラーなど、あまり知られていない人物も含まれている。

画像: 自身のスタジオで撮影したフィレレイ・バエズ PHOTOGRAPH BY SAVONNE ANDERSON

自身のスタジオで撮影したフィレレイ・バエズ
PHOTOGRAPH BY SAVONNE ANDERSON

 バエズは、アーカイブを整理するために用いられている「ショーンバーグ黒人文化センター」の構造にインスピレーションを得て、自分の絵に登場させる何十人もの女性を、西アフリカのヨルバ族の神殿の色調に基づいて色分けした。先見性のあった政治家や学者は淡い青で描いたのは、神話に登場する海の女神イェマヤの“母性”を表現したのだという。芸術に携わる女性たちは、黄色の中にたゆたっている。これは“官能的で世故にたけ、肉体的な精神を持った”女神オシュンをイメージしたもの。そして活動家は、戦士の精神をもった女神オヤの色である炎のような赤の中に描かれた。

これらの作品は、「ショーンバーグ黒人文化センター」の1階にあるギャラリーで無料で展示された。円筒状のギャラリーの窓からは、地下にある資料室の自習室が見下ろせる。そのギャラリーの壁は天井から床までびっしりと、歴史上の人物たちによって繰り返し上書きされた羊皮紙のように、いくつも重ねられた絵画で埋め尽くされている。それらの絵は、周囲を取り巻く色彩の中から、まるで記憶のように、浮かび出ては遠ざかっていくように見える。

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