アーティストのフィレレイ・バエズは、「ショーンバーグ黒人文化センター」が保管するゾラ・ニール・ハーストンやマヤ・アンジェロウといった著名な女性たちに関する資料に心を動かされて、一連の最新作品を制作した

BY TESS THACKARA, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

 マヤ・アンジェロウは、オプラ・ウィンフリー、ボールドウィン、そして歌手のロバータ・フラックとの親密な文通を交わしている。バエズはアンジェロウの走り書きの文字から、派手にくるくると輪を描くような特徴的な線と同時に、ある種の簡潔なラインを見出した。それはアンジェロウが唐突に意を決したかのように引いた“t”の横棒に表れている。「ショーンバーグ黒人文化センター」の展覧会では、こうした身体的な痕跡がバエズの作品の骨組みとなっている。バエズは以前の作品では表面に抽象的な模様を描いていたが、今回の最新作ではそれに代わって、アンジェロウとデイヴィスの筆跡を真似て絵の具で描いた文字が施されている。

画像: 監禁されていた活動家、アンジェラ・デイヴィスに送られたハガキ。「人種差別と政治的弾圧に反対する国民同盟」の記録室で所蔵されている PHOTOGRAPH BY NICHOLAS CALCOTT

監禁されていた活動家、アンジェラ・デイヴィスに送られたハガキ。「人種差別と政治的弾圧に反対する国民同盟」の記録室で所蔵されている
PHOTOGRAPH BY NICHOLAS CALCOTT

 有色人種のアーティストがお互いを絵画で描くことによってその存在を残すという行為は、西洋美術史の中で長い歴史をもつ。たとえばジャック・ウィッテンの《ブラック・モノリス》は、著名なアフリカ系アメリカ人に捧げた一種の記念碑的作品群だ。また、それほど有名ではないが、ディンガ・マッキャノンというアーティストは、黒人の女性のポートレートを描いたり編んだりすることで、彼女らに歴史上の居場所を与えた。

また、女性アーティストがほかの女性のためにパフォーマンス性のある架空のディナー・パーティーを開き、“テーブル”で意見を述べる機会を与えてきた歴史もある。ジュディ・シカゴの《ザ・ディナー・パーティ》や、今も継続中のエリア・アルバの《ザ・サパー・クラブ》はその顕著な例だ。

今回のインスタレーションのコンセプトを練る際、バエズの頭の中にはこうした伝統があった。「ジュディ・シカゴによる《ザ・ディナー・パーティ》はすばらしい作品だけれど、あくまで彼女のフィルターを通した作品です」。白人女性を中心的に表現したその作品について、バエズはこう語る。「より多くの声を(人種や女性にまつわる)“話し合い”に加えることで、その会話はもっと微妙なニュアンスを含んだものになりえるのよ」

画像: マヤ・アンジェロウと歌手のロバータ・フラックとの手紙のやりとり PHOTOGRAPH BY NICHOLAS CALCOTT

マヤ・アンジェロウと歌手のロバータ・フラックとの手紙のやりとり
PHOTOGRAPH BY NICHOLAS CALCOTT

 数々の先駆者たちの声と遺産を前面に押し出すことによって、バエズの絵の中にはその人物像がはっきりと浮かびあがった。しかし「ショーンバーグ黒人文化センター」がアーカイブを所蔵する女性たちの多くは、近親者である男性たちの資料に埋もれてしまっている。たとえばライターのマリッチャ・リモンド・ライオンズの未公開の回顧録は、叔父であり、黒人のフリーメイソンであったハリー・A・ウィリアムソンの資料の中に保管されている。

まさにこのアーカイブスの存在価値とでもいうべきこれらの女性たちの記憶は、バエズがこの展覧会を通じて投げかけたような、ある種の気づきに依拠している。すなわち、歴史というものは常に手入れを怠らず、常に再検討され、常に磨きをかけることが必要だということだ。

そして今度は、バエズ自身の声と手腕がその歴史の集積に加わった。「ショーンバーグ黒人文化センター」の保管担当者がバエズの今回のプロジェクトに関連する資料を集め、美術作品と工芸品を扱う部に保管することになったのだ。ちょうどバエズが自分の絵について述べたとおり、その様子はまるで“全宇宙が一体になった”かのようだった。

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