アーティストのフィレレイ・バエズは、「ショーンバーグ黒人文化センター」が保管するゾラ・ニール・ハーストンやマヤ・アンジェロウといった著名な女性たちに関する資料に心を動かされて、一連の最新作品を制作した

BY TESS THACKARA, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

 保管されているアーカイブの中でバエズにとって印象的だったのは、ミタ・ワーウィック・フラーに関する資料だ。その中には、ハーレム・ルネサンス(NYマンハッタン区ハーレムにおけるアフリカ系アメリカ人文化の全盛期)の彫刻家で詩人としても活躍した彼女が、1938年から1952年までメモを書きつけた小さな黒い日記帳があった。1938年1月1日、フラーはまず、自分が日記をつけることについての説明から書き始めている。「自分の人生の記録を残す価値があるのは偉大な人物だけだと考える人がいる。でも、もしも誰もがこうした考え方に支配されていたら、本当に偉大な人の記録は決して残ることがないだろう。そういう人は往々にして、自分自身の偉大さに気づいていないものだから」

また、フラーは来客のリストを作成し、頻繁に手紙を書いた。これらも資料として残っており、バエズはその中に、当時の他の著名人とフラーとのあいだに密接なつながりがあった証しを見つけた。「彼女は“社会的な接着剤”のような存在だったんです」とバエズは言う。「当時のクリエーターや進歩的な考え方をもった人はみんな、彼女の家、彼女のアトリエを訪れているの」

展示された黄色い絵画のうちのひとつ、下のほうにフラーが描かれている。フラーの近くには、アフリカ系アメリカ人の彫刻家オーガスタ・サベージと、現代のファイバー・アーティスト、ゼノビア・ベイリーもいる。いずれも、それぞれの分野の第一人者だ。彼女たち3人から放射状に、ベイリーのかぎ針編みの作品を彷彿させる円形の曼荼羅が描かれている。

画像: (左上より時計回りに) アンジェラ・デイヴィスがエリカという名前の囚人に当てた1971年の手紙。航空業界の先駆けアイダ・ヴァン・スミスの写真。彫刻家ミタ・ワーウィック・フラーのポートレート写真。フラーの日記。女優で歌手であったパール・ベイリーがマヤ・アンジェロウに当てた手紙 PHOTOGRAPH BY NICHOLAS CALCOTT

(左上より時計回りに)
アンジェラ・デイヴィスがエリカという名前の囚人に当てた1971年の手紙。航空業界の先駆けアイダ・ヴァン・スミスの写真。彫刻家ミタ・ワーウィック・フラーのポートレート写真。フラーの日記。女優で歌手であったパール・ベイリーがマヤ・アンジェロウに当てた手紙
PHOTOGRAPH BY NICHOLAS CALCOTT

 バエズは“視覚的な言語”に関心をもっている。手や身体は、さまざまな方法で何らかの痕跡を残すことができる。それは少々難解ではあるが、私たち自身を明確に表す要素を伝達するのである。アンジェラ・デイヴィスが書いた文章を見たバエズは、その正確で均一な彼女の文字に、この人権活動家が抱いていた確固たる平等主義的な信念を見出した。

「あなたが今どのような経験をしているか、私にはよくわかります」――デイヴィスは1971年、同じく囚われの身にあったエリカに宛てて手紙を書いている。「でも、あなたに『強くあれ』なんて言う必要はないこともよくわかっている。あなたは力そのものなのですから。それでも、私が最後まであなたと共にあることを伝えたいのです。そして、あなたを解放するために、私自身ができることすべてをやるつもりだということも」。デイヴィスの筆跡はとても読みやすく、文字の間隔も均一で、その誠意のこもったメッセージがなければ、どこかリハーサルされたパフォーマンスのようにさえ見えるほどだ。

「私はずっと、活動家というものは抑えきれないパッションを持っている人だと思っていたの」とバエズは言う。「でも、デイヴィスには強い自制心があり、それが筆跡にも及んでいる。強調された部分も控えめな要素もない。彼女は一貫して、平等というものを信じているんです」

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