BY MASANOBU MATSUMOTO
『北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美』|東京都庭園美術館
ルネ・ラリックは、2つの時期に2つのジャンルで、新しい装飾スタイルを開拓した芸術家だ。1886年から1910年ごろまでは、アール・ヌーヴォースタイルのジュエリー作家として活動。特に1900年、第5回パリ万国博覧会のジュエリー部門でグランプリを獲得すると、その名は世界的に知られるようになった。その後、50歳を迎えた1910年ごろにガラス工芸家に転身。1925年の「アール・デコ博覧会」で大規模な出展を行い、アール・デコの象徴的存在となった。

(左)花瓶《ナディカ》1930年 北澤美術館蔵
PHOTOGRAPH BY TETSURO SHIMIZU
(右)香水瓶《彼女らの魂》ドルセー社 1914年 北澤美術館蔵
PHOTOGRAPH BY TAKAO OGATA

香水瓶《牧神のくちづけ》モリナール社(右から3番目)ほか香水瓶各種
1928年 北澤美術館蔵
PHOTOGRAPH BY TETSURO SHIMIZU
ラリックのガラス工芸家時代における初期から晩年まで、約220点を一堂に会した本展は、とりわけ彼の後半生にフォーカスした内容だ。しかし、ジュエリー作家時代のラリックは、高価な石を使うのではなく、デザイン表現で価値を与えることをポリシーにしており、すでに貴石に代わる新素材としてガラスを使用していたという。つまりラリックのなかで、ジュエリーとガラス工芸は密接に関わっているものであり、いわばラリックの装飾的芸術のハイライトが本展で楽しめる。
ラリックのガラス工芸の特徴は、「ラール・ド・ヴィーヴル(生活の芸術)」。日々の生活に寄り添う品々に、ガラスを応用したことだ。花瓶、香水瓶、グラスや器などのテーブルセット、また当時1910年代は電気が街を彩った時代であり、電気の光を美しく見せるテーブルランプやシャンデリアなども制作。ガラス製品を空間演出に広げていったのも、ラリックでもあった。

(左)旧朝香宮邸正面玄関ガラスレリーフ扉(部分)1933年 東京都庭園美術館蔵
COURTESY OF TOKYO METROPOLITAN TEIEN ART MUSEUM
(右)東京都庭園美術館・大客室に飾られているシャンデリア《ブカレスト》
PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO
その意味でも、ラリック、アール・デコとゆかりのある東京都庭園美術館で、そのガラス作品を鑑賞するのは格別だろう。この美術館の前身は朝香宮家の邸宅。朝香宮夫婦は、ちょうどラリックが活躍していた時代のパリに滞在しており、1925年の「アール・デコ博覧会」も訪れている。この邸宅の設計が進められたのは、その帰国後のことで、朝香夫婦はフランスの装飾芸術家に主な部屋の内装を依頼し、アール・デコのスタイルを取り入れたのである。その正面玄関のガラスレリーフ扉はまさにラリックにオーダーして作らせたもので、大客室と大食堂のシャンデリアもラリック製だ。
また、ラリックの作品には、光のあたり方で色あいがさまざまに変化する、乳白色のオパルセント・ガラスを使ったものも多い。本展では、極力カーテンを開き、自然光で作品を鑑賞できるように工夫されており、同じ作品でも朝、昼、夕方と違った表情が楽しめる。