さまざまな問題意識を抱え、アートへと昇華させる4人の女性アーティストたち。若き彼女たちを駆り立てる創作の原動力とは。第2回は川内理香子をフィーチャー

BY JUN ISHIDA, PORTRAIT BY KOHEI OMACHI

RIKAKO KAWAUCHIーー捉えどころのない身体をつかむ、一本の線

 身体の中に隠れているものがその外にあふれ出す、そんなグロテスクさと繊細な美しさが同居するのが川内理香子の絵画の魅力だ。

──「身体」に興味を抱いたきっかけのようなものはありますか?

 幼い頃から、食べると身体が変わる感覚がすごくありました。おなかがいっぱいになって、それまでスムーズに思考できていたのに急に遮断されたり。最初は食べることに関心があるのかなと思っていたんですけど、制作する中でいろいろ探っていくうちに、「身体」だということに気づきました。身体の中の見えない臓器の活動は自分でコントロールできないけれど、それが自分を成り立たせている。そうしたことに関心があったんです。

画像: 《rabbit’s play》(2021)。『神話論理』をモチーフとした「Mythology」シリーズの作品。絵の中のボールは生命の象徴。「兎が森で血の塊を見つけて、ボールみたいにして遊ぶ話があって。運動を与え続けていると、手足や頭が生えてきてそれが心臓になり、一人の少年が出来上がる。動きこそが生命を成り立たせているという解釈ができるかなと思って描きました」(川内) 《RABBIT’S PLAY》2021 OIL ON CANVAS, 2273Б~1818㎜ PHOTOGRAPH BY SHINTARO YAMANAKA AT QSYUM! ©RIKAKO KAWAUCHI, COURTESY OF THE ARTIST AND WAITINGROOM

《rabbit’s play》(2021)。『神話論理』をモチーフとした「Mythology」シリーズの作品。絵の中のボールは生命の象徴。「兎が森で血の塊を見つけて、ボールみたいにして遊ぶ話があって。運動を与え続けていると、手足や頭が生えてきてそれが心臓になり、一人の少年が出来上がる。動きこそが生命を成り立たせているという解釈ができるかなと思って描きました」(川内)
《RABBIT’S PLAY》2021 OIL ON CANVAS, 2273Б~1818㎜
PHOTOGRAPH BY SHINTARO YAMANAKA AT QSYUM! ©RIKAKO KAWAUCHI, COURTESY OF THE ARTIST AND WAITINGROOM

──自分の中に他者がいるような感じですか?

 自己と他者の境目のなさみたいなものを常に感じています。

──その感覚を作品で表現している?

 作品は「もの」であって、自分の身体や思考の痕跡として捉えています。身体や思考は常に変わり続け、時間の流れの中にあるものだと思うのですが、作品にはその瞬間のものが凝固しているような感覚です。

──近作はレヴィ=ストロースの著作にインスピレーションを受けたとのことですが。

 食に関する本を探していたときに出会ったのですが、『神話論理』の1 巻目が『生のものと火を通したもの』というタイトルで、そこに惹かれて購入しました。彼によると、人間の文化の始まりは料理にあり、それは生のものに火を通すことだというんです。神話の中に出てくる動植物や事象が、食や身体の持つ抽象的な意味に置き換えられてゆくのですが、そうした分析に共鳴し、食や身体を考えるときに、神話のイメージが出てくるようになりました。それを作品に還元していったのです。

──描く際にスピード感を大切にされていると伺いました。

 自分の意識が追いつかないくらい速く描く、みたいなことを大切にしています。手の思考としか言いようがないんですけど、手が考えて描いているところがあって。そういうときは、自分の意識を超えた無意識的なものが出ている感覚がすごくあります。

──針金やネオン管を使った作品を発表されていますが。

 いずれも絵画から出てきた「線」として捉えています。自分がやっていることはすべて絵画だと思っているので、そこからは絶対に離れたくない。線は自分にとってすごく重要な要素で、線を引くところからすべてが始まっている。線にはそのときの手の動きだったり身体の動きだったり、その人の呼吸が如実に表れます。そのときの身体が表れ出ているように思えて、捉えどころのない身体だけど、線はそれをつかめる感じがするんです。

画像: 川内理香子(RIKAKO KAWAUCHI) 1990年東京都生まれ。2015年多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業。2017年同大学大学院修了。身体への関心をテーマに、ドローイングやペインティングから、針金、ゴムチューブ、ネオン管などを用いた作品を制作。2015年第9回「shiseido art egg」賞、2022年「Mythology」シリーズの《Raining Forest》でVOCA賞を受賞した。2020年、初のドローイング作品集『Rikako Kawauchi drawings 2012-2020』を刊行している

川内理香子(RIKAKO KAWAUCHI)
1990年東京都生まれ。2015年多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業。2017年同大学大学院修了。身体への関心をテーマに、ドローイングやペインティングから、針金、ゴムチューブ、ネオン管などを用いた作品を制作。2015年第9回「shiseido art egg」賞、2022年「Mythology」シリーズの《Raining Forest》でVOCA賞を受賞した。2020年、初のドローイング作品集『Rikako Kawauchi drawings 2012-2020』を刊行している

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