今月は、世界各地で好評を博した「テート美術館展」、大規模な個展は日本では27年ぶりとなる「デイヴィッド・ホックニー展」、国内外で知られる彫刻家「三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions」展の見どころを紹介する

BY MASANOBU MATSUMOTO

『テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ』|国立新美術館

「光」というかたちのないものをどう表現するか。これは長らくアーティストたちの重要なテーマだった。本展は、英国・テート美術館のコレクションから、18世紀末から現代まで約200年間におよぶアーティストたちの「光」にまつわる挑戦と実践を紹介する企画展。すでに中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドで開催され、各都市で好評を得た展覧会でもある。

画像: ジョン・ブレット《ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡》1871年 PHOTO: TATE

ジョン・ブレット《ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡》1871年
PHOTO: TATE

「光の画家」の異名を持つウィリアム・ターナーや風景画の名手ジョン・コンスタブルなど英国画家たち、また、クロード・モネら光の描写の追求した印象派の画家たち、またバウハウスの写真家たちによる光を使った実験的作品、さらにジェームズ・タレル、オラファー・エリアソンらの現代アーティストの視覚体験型の作品にも目を向ける。絵画から写真、彫刻、素描、キネティック・アート、インスタレーションまで、「光」というひとつのテーマに焦点を当てつつ、多様なメディア、表現に触れられるのも本展の面白さだ。

画像: ジェームズ・タレル《リーマー、ブルー》1969年 ©️2023 JAMES TURRELL.PHOTOGRAPH BY FLORIAN HOLZHERR.

ジェームズ・タレル《リーマー、ブルー》1969年
©️2023 JAMES TURRELL.PHOTOGRAPH BY FLORIAN HOLZHERR.

『テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ』
@国立新美術館 企画展示室2E
開催中。10月2日(月)まで。
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『デイヴィッド・ホックニー展』|東京都現代美術館

 2018年に開かれたオークションで、自身の作品が約9000万ドル(当時のレートで約102億円)で落札され、大きな話題となったデイヴィッド・ホックニー。マーケット的なニュースに目が向かいがちだが、“現代でもっとも革新的な画家”と称される彼の、約60年にわたる画業はいかなるものなのか。日本では27年ぶりとなる大規模な本個展は、その独創性を改めて知ることができる場として、じつに有意義だ。

画像1: 『デイヴィッド・ホックニー展』|東京都現代美術館

 展示作品は、初期の作品から近作まで約120点。たとえば、1942年にロサンゼルスに移住したのち、強烈な光と人工的なプールに惹かれ、揺れる水面や水しぶきを独自に捉えた風景画シリーズ、親しい人たちの肖像画、ふたりの人物を画面の中に配置した「ダブル・ポートレート」シリーズ、絵画的な透視図法の解体と再構築を試みたフォトモンタージュなど。目玉のひとつは、ホックニーの故郷、イギリスのヨークシャー東部で制作した、幅10m、高さ3.5mの油彩画《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》だろう。またコロナ禍に、iPadを使って、移ろいゆくノルマンディの自然を異時同図法で描いた《ノルマンディーの12ヶ月》も日本初公開。全長90mにもおよび、ホイックニーの“見る”という行為への問題意識と瑞々しい色彩感覚が身体で体験できる作品だ。

画像2: 『デイヴィッド・ホックニー展』|東京都現代美術館

『デイヴィッド・ホックニー展』
@東京都現代美術館
開催中。11月5日(日)まで。
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『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』|千葉市美術館

 クスノキから掘り出され、油絵の具で彩られた等身大の動物たち。三沢厚彦は、この「アニマルズ」シリーズなどを中心に国内外で知られる彫刻家だ。千葉市美術館で開かれている個展では、同シリーズに加え、動物の絵画、流木などを寄せ集めて制作された「コロイドトンプ」シリーズ、また初期の未発表作品などを見ることができる。

画像: 三沢厚彦《Animal 2020-03》2020年 ©MISAWA ATSUHIKO COURTESY OF NISHIMURA GALLERY

三沢厚彦《Animal 2020-03》2020年
©MISAWA ATSUHIKO COURTESY OF NISHIMURA GALLERY

 三沢は、幼少期に京都や奈良の仏像に親しむなかで、彫刻の魅力に惹かれ、東京藝術大学で彫刻を学んだ。親しみやすく愛らしいこの「アニマルズ」シリーズも、おそらくボリュームの表現の仕方や素材の必然性、デフォルメや省略、またモノと空間の関係性といった近現代の彫刻的問題を引き受けているのは間違いないが、日本の彫刻のひとつの源泉である仏像的な要素がどこか含まれていると考えながら鑑賞しても面白いだろう。本展では、キメラやペガサスなど空想上の動物をモチーフにした近作も加わり、エントランスやエレベーターホールなど展示室以外のスペースにも、動物の彫刻たちが待ち受ける。サイトスペシフィックな展示もひとつのみどころだ。

画像: 三沢厚彦《Animal 2011-01》2011年 ©MISAWA ATSUHIKO COURTESY OF NISHIMURA GALLERY PHOTO BY UCHIDA

三沢厚彦《Animal 2011-01》2011年
©MISAWA ATSUHIKO COURTESY OF NISHIMURA GALLERY PHOTO BY UCHIDA

『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』
@千葉市美術館
開催中。9月10日(日)まで。
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