「色自体に空間がある」とフランシス真悟は言う。探求し続けてきた「色と空間」をテーマとした日本における初の回顧展が開催される彼に話を聞いた。

BY NAOKO ANDO, PHOTOGRAPHS BY YASUYUKI TAKAGI

画像: 鎌倉の海のそばのアトリエにて「Infinite Space」シリーズの前で。 フランシス真悟(ふらんしす・しんご) ●1969年カリフォルニア州サンタモニカ生まれ。現在はロサンゼルスと鎌倉を拠点に制作。2023年、銀座メゾンエルメス フォーラム「インターフェアレンス」展に参加し、6×7 mの壁画を制作。多くの美術館、企業、個人コレクターに作品が所蔵されている。

鎌倉の海のそばのアトリエにて「Infinite Space」シリーズの前で。

フランシス真悟(ふらんしす・しんご)
●1969年カリフォルニア州サンタモニカ生まれ。現在はロサンゼルスと鎌倉を拠点に制作。2023年、銀座メゾンエルメス フォーラム「インターフェアレンス」展に参加し、6×7 mの壁画を制作。多くの美術館、企業、個人コレクターに作品が所蔵されている。

 以前、フランシスが行なったとある展覧会で、彼の作品を「怖いから観たくない」といってかたくなに観ようとしなかった男性がいたという。それはなぜだろうか。
 フランシスの作品は、どれほど深く濃くとも澄んだ色合いの、光と空間を感じさせる抽象画だ。この色、この線、この質感が表現するものは?と尋ねれば、コンセプトやそのときの思考、読んだ本からの引用など明快な答えが返ってくる。けれども、鑑賞者がそれを読み取ったり理解したりする必要はないし、彼自身もそれを望んではいないだろう。何が描かれているのかは、鑑賞者の印象次第。観る人に自分との対話をうながす鏡のような作品だともいえる。
 だからこそ、「怖い」と感じる人がいるのかもしれない。しかし、作品を目にすれば、そう思う人すら包み込むようなやさしさと温かさが宿っていることがわかる。
 フランシス真悟は、フランスのアンフォルメル(非定型の前衛芸術)やアメリカの抽象表現主義における巨匠サム・フランシスを父に、メディアアーティストの出光真子を母にもち、アメリカと日本で育った。幼い頃は、父がアトリエ内に用意した自身専用のデスクと画材で、一緒に絵を描いたという。「父からは、よく"茶色くしてはいけないよ" と言われました。このことは、とてもよく覚えています」。作品がたたえている濁りのない透明感は、幼い頃から培われていたものなのかもしれない。

 日本における初の回顧展は、『Exploring Color and Space─色と空間を冒険する』と名付けられた。「色と空間は、私がずっと探求してきた大きなテーマです。色そのものにも空間があり、作品自体にも空間があって、それが美術館という空間に展示されます。そこでは作品同士がつながり、対話します。それは、常にある冒険、終わらない冒険なのです。鑑賞者にとっては、まるで"絵の中に入る" ような体験となるでしょう」
 パンデミック中に描き始めたという「Daily Drawing」シリーズも展示される。「毎日、制作の最後に、手近にある紙に描きます。これで、"今日もいい一日だった" と思えるのです」。先が見通せない状況に直面しながら、日々の締めくくりとして自由に筆を動かした作品には、自身を"今、ここ" につなぎ止める無垢な祈りが宿っているかのようだ。

画像: パンデミック中、アトリエでの日々の作業を終えてから、水彩で描くことが習慣になったという「Daily Drawing」シリーズ。

パンデミック中、アトリエでの日々の作業を終えてから、水彩で描くことが習慣になったという「Daily Drawing」シリーズ。

下記の記事では、見る角度や光の角度によって色が変化する、フランシス真悟の代表作「Interference」シリーズについて、その制作過程なども含めて詳しくご紹介しています。

https://www.tjapan.jp/art/17684171

日本における初の回顧展『Exploring Color andSpace ―色と空間を冒険する』が、茅ヶ崎市美術館にて開催される。初期作から最新作にいたるまで一挙に展示される。
期間: 3 月30日(土)~ 6 月9 日(日)
公式サイトはこちら

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