枝編み細工の高級家具を生み出す技術は、今や絶滅の危機に瀕している芸術だ。そんな中、ヨーロッパにある3つの工房が古代から伝わる伝統を継承しようと力を尽くしている

BY DEBORAH NEEDLEMAN, PHOTOGRAPHS BY DANILO SCARPATI, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

ラーション・コリーマーカレ
<スウェーデン・ストックホルム 1903年創業>

画像: ラーション・コリーマーカレはヨーゼフ・フランクと1930年代にパートナーシップを組み、フランクのデザインは今もここで手編みによって作られている

ラーション・コリーマーカレはヨーゼフ・フランクと1930年代にパートナーシップを組み、フランクのデザインは今もここで手編みによって作られている

 ストックホルムの旧市街の狭い道沿いにある古い建物に、創業114年を誇るラーション・コリーマーカレの作業場がある。スウェーデンに残る唯一の籐職人の工房だ。地下にある隣のドアを開けると、49歳のエリカ・ラーションが、曾祖父が始めた一族の伝統を今も受け継いでいる姿を見ることができる。彼女はオーナーであり、同社の唯一の職人でもある。籐を火で熱したり、曲げて形を作ったりという体力仕事もこなし、その手助けをするのはアシスタントひとりだけだ。この工房の歴史、今も存続しているのには、スウェーデンの偉大なデザイナー、ヨーゼフ・フランクに負うところが大きい。職人でありデザイナーであったラーションの祖父は、1930年代にフランクとパートナーシップを結んだ。フランクのデザインによる、装飾を最小限に抑えたシンプルな枝編みのソファと椅子を、ラーションはストックホルムの有名なインテリアデザイン専門店スヴェンスク・テンに卸すために今も作り続けている。

画像: 腰かけるシートの部分を編み込む過程。籐の枝の皮でできた繊維が使われる

腰かけるシートの部分を編み込む過程。籐の枝の皮でできた繊維が使われる

 ラーションが家業を継ごうと決めたとき、父親は彼女をマレーシアに送り、6カ月間、見習いとして籐の収穫とその精製の工程を経験させた。彼女は自分の11歳の娘がもし家を継ぐと決めたら、同じ体験をさせようかと考えている。シンプルで優れたデザインを愛するスウェーデンらしく、ラーション・コリーマーカレの椅子作りは、ほぼ太い籐の枝だけを使用して、複雑な編みの手法はほとんど使わないスタイルだ。ラーションが作る作品の多くは骨組みの目立つ、はちみつ色をした二人がけのソファや肘掛け椅子で、ゆるやかなループ状のパターンが織り込まれている。これはフランクか、彼女の祖父が考案したオリジナルのデザインからきている。「私の祖父は昨年、80歳で亡くなったその年まで、ほとんど目は見えなくなっていたけれど家具を作り続けていました」と彼女は言う。「祖父の指には、知識がしみ込んでいましたから」

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