自宅時間が増え、お気に入りの家具と過ごすことは心豊かな時間につながると実感する昨今。だからこそ家具を選ぶ際に知っておきたいのは、デザイン性だけでなく、持続可能性に対するメーカーの理念や取り組みだ。欧米における家具業界の今と未来を探る

BY KANAE HASEGAWA

 同じくイタリアのカルテル社は、1960年代、空間に彩りを与え、リビングの主役になる軽量なプラスチック製家具を世に送り出し、安っぽい、壊れやすいというプラスチックのイメージを一蹴したブランドだ。半世紀にわたってプラスチック家具を製造してきた同社においても、循環型のものづくりは経営の根幹をなす。「プラスチックを使い続けるという認識を育てていく必要があります」と前述のミラノサローネ国際家具見本市の代表であり、カルテルのCEOであるクラウディオ・ルーティは言う。そもそもプラスチックと一言で言っても厳密には耐熱性、耐衝撃性などの違いによって多くの樹脂が存在する。たとえばカルテルの家具に多く用いられるポリカーボネート樹脂は乱暴に扱わないかぎり、数十年の耐久性を備えているという。ゆえにリサイクルに回すプラスチックの量そのものが食品の容器や包装材に使われているプラスチックと比較にならないほどに少ない。その裏付けとして、一般社団法人プラスチック循環利用協会がまとめた2018年度の「プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況」によると、使用済み廃プラスチックの排出量891万トンの内、もっとも多い割合を占めるのが包装・容器で47.4%。次に多いのが電気・電子機器・ケーブルで19.7%。家庭用品・家具は6.7%と格段に少ない。

画像: カルテル「コンポニビリ・ビオ」<全4色>¥30,700 生分解性プラスチックを使用。(左から)イエロー、ピンク、クリーム、グリーン COURTESY OF KARTELL

カルテル「コンポニビリ・ビオ」<全4色>¥30,700
生分解性プラスチックを使用。(左から)イエロー、ピンク、クリーム、グリーン
COURTESY OF KARTELL

 一方で、プラスチックに替わる素材の開発は進んでいる。カルテルは素材メーカーとの業務提携によって、100%植物由来の生分解性バイオプラスチック素材を開発した。人間や動物の食用には適さない農業廃棄物(糖蜜や廃棄ジャガイモ、使用済み食用油など)を原料に有機的な処理を行うことで、プラスチック原料と同様のバイオマスができる。これを射出成形することで、カルテルの既存のプラスチック家具と品質的にも見合う製品ができるという。この新素材のバイオプラスチックは、粉末状にすれば微生物による自然分解が可能。カルテルから1967年に登場し、半世紀を経た今でもヒット製品である収納キャビネット「コンポニビリ」に採用され、「コンポニビリ・ビオ」は世界初の完全に循環するプラスチック家具となった。

画像: カルテル「A.I.」チェア<全4色>¥32,400 ※ブルーは未発売 100%再生熱可塑性樹脂を使用。(左から)グレイ、グリーン、ホワイト、オレンジ カルテル東京 TEL.03(5411)7511 COURTESY OF KARTELL

カルテル「A.I.」チェア<全4色>¥32,400 ※ブルーは未発売
100%再生熱可塑性樹脂を使用。(左から)グレイ、グリーン、ホワイト、オレンジ
カルテル東京
TEL.03(5411)7511
COURTESY OF KARTELL

 さらに今後、その活用に期待がかかる人工知能(A.I.)とともにサスティナブルな家具も開発している。「A.I. 」チェアは、家具、自動車、家電、梱包材といった様々な分野の産業廃棄物からできた再生プラスチック材をもとに、人工知能とともに作った椅子だ。デザインと構造上の要件を満たすと同時に、製造時のCO2排出の削減につながることがわかり採用した素材だという。試作品の製作、椅子の構造テストを含めた様々な工程に人工知能が関わることで、完成までの期間を短縮できた。

画像: メーター「ノヴァ シー」<H38cm>¥71,000~ 座面には、96%再生フィッシュネット、再生プラスチック、スチールフレームを使用 スカンジナビアリビング 東京ショールーム TEL.03(5789)2885<平日10:00~18:00> 関西ショールーム TEL.078(327)7732<平日10:00~17:00> COURTESY OF SCANDINAVIAN LIVING

メーター「ノヴァ シー」<H38cm>¥71,000~
座面には、96%再生フィッシュネット、再生プラスチック、スチールフレームを使用
スカンジナビアリビング
東京ショールーム
TEL.03(5789)2885<平日10:00~18:00>
関西ショールーム
TEL.078(327)7732<平日10:00~17:00>
COURTESY OF SCANDINAVIAN LIVING

 新しいブランドは、より強い意識で循環するものづくりに取り組んでいるといえる。デンマークの家具ブランド、メーター社は2006年の創業時から循環するものづくりを打ち出してきた。どこで、どのような管理の森林から伐採されたのか、来歴を追跡可能な木材のみを使い、デンマークのカールスバーグ社のビール醸造過程で出る廃棄物、海洋プラスチックを使った家具づくりを行っている。この取り組みで2020年には19トンの海洋プラスチックゴミを回収し、大企業の産業廃棄物の削減にも寄与することになった。

 持続可能性の観点から家具を選び、長く使うことことが、現実的にゴミや廃棄物の削減につながる。消費者の意識がさらに高まり、社会全体でそうした仕組みが整う日も遠くないだろう。

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