BY EMI ARITA, PHOTOGRAPHS BY MAKOTO NAKAGAWA
20代後半から30代にかけて3年間のパリ暮らし、さらには無類の旅好きとして、これまで50カ国以上を旅してきた古牧さんの部屋は、家具やオブジェなど世界各地で出会った素敵なものたちで溢れている。中でも食卓を彩る器は、ほとんどが旅先で揃えたものだと言い、北欧、中近東、南米、アジア……と、あらゆる国の個性豊かな器が揃う。
その器たちが収められているキッチンカウンター前の食器棚から、「これはモロッコ、こっちはウズベキスタン。旅先の蚤の市や現地の人が食器を揃える“普通の店”で買ったもので、どれもかわいいでしょ」と、目にも鮮やかな器たちが次々とテーブルに並べられていく。それはまるで古牧さんの旅の軌跡を辿っているようでもあり、眺めているだけでとても楽しい。
「真っ白の無地の器が好きな人もいるけど、私は柄物が好き。あと形がいびつだったり、少しゆがんでいたり。有機的で“人の手”を感じるような器がいいんです」
緻密な絵付けやハンドメイド感のある独特なフォルムと、それぞれの器には、量産品にはない各国のクラフトマンシップが息づき、色とりどりのフルーツを盛り付ければ、より一層華やぎを増す。旅の思い出が詰まった器たちが描くその景色を眺めながら、「次はどこへ行こうか」と新たな旅への思いを馳せるのが、古牧さんの日々の楽しみだ。
中には、スティグ・リンドベリが製作した希少なヴィンテージの器もある。裏には1940〜1950年代のリンドベリデザインの器に見られる手描きのハンドサインが入っており、コレクターにとっては垂涎の品だ。「リンドベリの器はスウェーデンで買ったもので、縁が少し欠けているから安くしてもらったの。愛用しているうちに、私も少し欠けさせちゃったんだけどね(笑)」
例えば骨董の器や奮発して手に入れた器と、“特別”と感じる器はついつい大事にしすぎて普段使いに取り入れることを避けがちだが、古牧さんは「好きなものとか、良質なものとか、“いいもの”を常に使い続けることがを大事だと思っています」と言い、水はバカラで飲むと決めている。
工芸品のように美しい旅の器も、ヴィンテージのリンドベリの器も、バカラのグラスも、暮らしの中で使うために生まれたもの。だからこそ仕舞い込まず、常に使い続けることこそが、本当の意味で“ものを大事にする“ということなのだと気付かされる。そして、“いいもの”との暮らしが、何気ない日々の中で心を満たしてくれるのだろう。
「あと、うちにあるものはほとんどが古いもの。古い器が持つ風合いと、バカラのクリスタルガラスの光沢が奏でる美しさ、それらがテーブルの上で一緒になって、みんな仲良しな感じを愛でるのがいいんです」
古牧ゆかり
スタイリスト/ビジュアルディレクター。ファッション誌で活躍後、渡仏。パリに暮らす。帰国後『エル・ジャポン』のファッションエディターに。現在はフリーでファッション、インテリアのスタイリングや動画制作のビジュアルディレクションを手がける。本誌ファッション特集でも活躍中。
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