数々の斬新な舞台を手掛け、いま世界が最も熱い視線を注ぐ演出家イヴォ・ヴァン・ホーヴェ。東京初上陸となる自身の舞台、『オセロー』について語った

BY NATSUME DATE, PHOTOGRAPHS BY JAN VERSWEYVELD

 ジュリエット・ビノシュの『アンティゴネ』をパリで(2015年)、ベン・ウィショーの『るつぼ』をニューヨークのブロードウェイで(2016年)、ジュード・ロウの『オブセッション(郵便配達は二度ベルを鳴らす)』をロンドンで(2017年)演出。そうそう、デヴィッド・ボウイが『地球に落ちてきた男』の続編として音楽を手がけた、遺作ともいえる音楽劇『ラザルス』(2016年)の演出家に指名したのもこの人、ベルギー出身のイヴォ・ヴァン・ホーヴェだった。

とにかく、いま世界の演劇界でもっとも注目されている逸材。この大人気演出家の作品が、ついに東京に初上陸する。シェイクスピアの『オセロー』を、現在、私たちの隣りで起きている出来事としてヴィヴィッドに描き切る、その天才的な発想と表現方法について、アムステルダムで話を聞いた。

画像: イヴォ・ヴァン・ホーヴェ

イヴォ・ヴァン・ホーヴェ

―― モダンな軍服のオセローとノースリーブのカットソーにシルクのワイドパンツのデスデモーナ。こうした古典劇の現代化のために、戯曲の内容を変えたりすることはあるんですか?

イヴォ・ヴァン・ホーヴェ(IVH) いいえ。『オセロー』については、一編の詩を加えただけです。あとは原作を注意深く読み込み、詩的でアラブ世界の雰囲気が伝わる、新しい翻訳を仕上げてもらいました。これを前にしてスタッフと、現代の人々の共感を呼ぶ舞台にするにはどうすればいいかを考えました。私に言わせれば、「すべての演劇は現代劇であるべき」なのです。古典だからといって、博物館に陳列するような古めかしいだけの作品にはしたくありませんし、過去に使われた手法や、(原作の時代設定に忠実に従うような)本来そうあるべき、といった手法も好きではありません。すべての要素について、現在の世界に置き換えると何を意味するかを考えて創るのが、私のスタイルです。

画像: オセロー役は、トネールグループ・アムステルダムの名優ハンス・ケスティング

オセロー役は、トネールグループ・アムステルダムの名優ハンス・ケスティング

『オセロー』は、ヴェネツィア公国の軍が舞台になっています。軍隊という、厳格な規則が存在し、それに違反した人間は厳しく罰せられる硬直した世界であることが、作品の中でとても重要な意味を持っています。そこで、オセローやイアーゴーの衣裳として、ヴェニスでもキプロスでも違和感がないような、架空の新たな軍服を調製しました。こういうこと、私はわりとよくやるんですよ。始めのうちはあまり認めてもらえませんでしたが、徐々にこういうやり方は理解されるようになってきました。

画像: あくまでもモダン&スタイリッシュな舞台空間 美術・照明:JAN VERSWEYVELD

あくまでもモダン&スタイリッシュな舞台空間
美術・照明:JAN VERSWEYVELD

――『オセロー』が現代にコミットする重要な要素として「ゼノフォビア」(排他主義)を挙げておられますね。

IVH この作品は、ゼノフォビアがあらゆる人間の、心の深い部分に潜んでいることを明示しています。これは特定の人種や文化に限ったことではなく、人が2人以上いれば、必ず起きてしまうもの。残念なことですが、われわれのDNAに組み込まれているもの、と言ってもいいでしょう。私たちはつねに、自分という存在や自分の考えに他者を適合させようとしますが、他者はどこまでも他者のままなのです。なのに、人間はこの事実に、なかなか適応できません。この作品は、人間が他者と調和することはほとんど不可能であることを、明確な形で表しています。他者とは、歴然とした違いが認められる人のこととは限りませんよ。あなたによく似た隣人だって、他者なのです。

ムーア人のオセローは、自身の高貴な出自に誇りを持っており、戦功を立てたことでヴェネツィアでも歓迎されます。この作品は、他者を受け入れる社会という、希望に満ちたイメージで始まりますが、そこはじつは排他的な社会であったことが、後に判明します。成功者である限りはモロッコ(=ムーア)人でも受け入れられますが、過ちを犯したことで、掌を返したように完全に、オセローはこの社会から排除されてしまうのです。

画像: 「大きな岩のようなオセローが、小さな羊のようなデスデモーナを殺してしまうのです」とヴァン・ホーヴェ

「大きな岩のようなオセローが、小さな羊のようなデスデモーナを殺してしまうのです」とヴァン・ホーヴェ

 一方、オセローがデスデモーナを殺してしまうのは、イアーゴーがとても情緒的な嫉妬の感情を、オセローに焚きつけたことによります。イアーゴーは実に巧妙に、それをやってのけます。おかげでオセローは、まるで心に悪魔が宿ってしまったかのように、変わってしまいます。優秀な軍人で人格者でもあったのに、まんまとイアーゴーに吹き込まれた通りに、世界を見るようになってしまう。もう本来のオセローではなく、別の人間になってしまうんですね。しかし物語の最後になって、彼は自分がしてしまったことの重大さに気づき、自ら命を絶つことを決意します。

 ここまでオセローに嫉妬心を植え付け、歯止めをかけなかったのは、確かにイアーゴーの仕業です。が、妻を殺してしまったことはオセロー自身の失敗であり、誰でもない、彼自身の行いの結果です。周囲の人々が「デスデモーナは疑われるようなことは何もしていない」とサインを送っているのに、それが見えなかったわけですからね。『オセロー』は、他者を排斥せずにはいられない人間の物語であると同時に、自信に満ちた勇将をもそんな状態に陥れてしまう「嫉妬」という、何とも厄介な感情についての物語でもあります。


 他者排撃は他人ごとなのか。する側される側双方の心理が赤裸々に表出し、観客を傍観者の安全地帯から引きずりおろす。嫉妬が魔物であることは確かだが、嫉妬に狂わされた人間自身の行動に、情状酌量の余地はない――。圧倒的に怜悧な視線で人間を、そして世界を見つめるイヴォ・ヴァン・ホーヴェ。自らが芸術監督をつとめるオランダの劇団トネールグループ・アムステルダムの名優たちによるスタイリッシュ&アグレッシブな舞台を、見逃すわけにはいかない。

イヴォ・ヴァン・ホーヴェ
ベルギー出身、現在はオランダをベースに活動する舞台演出家。シェイクスピア作品をはじめ、イングマール・ベルイマンやジョン・カサベテスといった監督による映画作品の舞台化など、多くの演劇・オペラ演出のほか、映画やテレビドラマも手がける。ローレンス・オリヴィエ賞ほか受賞も多数

『オセロー』日本初演
会期:201711月年3日(金・祝)~5日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
住所:東京都豊島区西池袋1-8-1
料金:S席¥6,000、A席¥4,500、高校生以下¥1,000
25歳以下(A)¥3,000円、65歳以上(S)¥5,000

問い合わせ先
東京芸術劇場ボックスオフィス 
TEL. 0570-010-296(休館日を除く10:00~19:00)
※オランダ語上演日本語字幕付き
公式サイト

 

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