大地の力強さ、人の強さ、愛の強さを信じる

BY RYOKO SASA

画像1: ©CVB / WIP / TAKE FIVE - 2016 - TOUS DROITS RÉSERVÉS

©CVB / WIP / TAKE FIVE - 2016 - TOUS DROITS RÉSERVÉS

 この映画の配給プロデューサー、奥山和由さんは、登場人物の魅力をこう語る。「松村さんも、震災直後は絶望したことがあったはずです。前向きに生きたからといって、その先にいい兆しがあるわけではなく、状況が好転するわけでもない。しかしその中でも、大地に根ざして生きている人が前を向こうとする息遣いを感じます。松村さんの言葉に、こんな象徴的な言葉があります。『この町は完全に一度は死の町 になる。それはしかたがない。でも何十年もたったら生き返る』。その信念が、生きることそのものを表している。絶望の底で、ふっと自分の魂が俯瞰的になって、ひとつの真理が見えてきたとき、生きるエネルギーが強く湧き出てくることがある。どんな状況でも人は強く生きられるし、どんな年齢でも、人を思う心や、希望をもつことは可能なんだろうと思います。彼らの腰の据わった強さと明るさ。これはすごく重要なことで、彼らの人生を、僕はいい人生だと思います」

 人がいなくなってしまった町に吹く風の音、山々にやわらかく降る雨の音、無数 の鳥の声、土を踏みしめる音。それら「大地」の声が印象に残る。ローランは、最後まで声高に主張もせず、怒りもせず、静かに人と大地のささやく声に耳を澄ませている。その映画の在り方が、観客にとっての救いとなる。震災の映画は、怒ることや悲しむことを観客に強いることが多い。だが本作は、どう受け取るかをただ観る者に委ね、ありのままの現実に寄り添っている。
 震災から6年、日本人の多くは、意見の異なる周囲の人たちとの摩擦を恐れて原発のことを口にしなくなった。だが、ここに映し出される大地の力強さが、立場の違いを超えて、見る者の胸を打つだろう。
 いっさい音のしない無人の商店街をゆっくりと映し出すシーンは、特に印象的だ。その沈黙の中に、にぎやかだった頃の人々のさざめきが聞こえてくるようで、じっと耳を傾けているジル・ローランの気配が濃厚に漂ってくる。

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