新たなコンサートホールの建設やジョン・ノイマイヤー率いるバレエ団で人気のドイツの都市、ハンブルク。世界の演劇に造詣の深いジャーナリスト、伊達なつめさんによる現地レポートの「後編」

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画像: 第二次大戦時の爆撃で舞台部分を残して焼失し、1955年に再建されたハンブルク州立歌劇場。オペラ、バレエ、フィルハーモニーの3団体が交替で公演を行っている ハンブルク州立歌劇場 Staats Oper Hamburg 住所:Dammtorstrasse 28 D-20354 Hamburg 公式サイト © WESTERMANN

第二次大戦時の爆撃で舞台部分を残して焼失し、1955年に再建されたハンブルク州立歌劇場。オペラ、バレエ、フィルハーモニーの3団体が交替で公演を行っている
ハンブルク州立歌劇場 Staats Oper Hamburg
住所:Dammtorstrasse 28 D-20354 Hamburg
公式サイト
© WESTERMANN

 KQから東の方角、街の中心部に位置するアルスター湖方面に向かって15分ほど歩くと、外壁にマーラーのレリーフが掲げられたハンブルク州立歌劇場(ハンブルク特別市は州と同一の行政権を持つので、慣例的に"州立"の呼称が用いられる)が見えてくる。第二次世界大戦時に爆撃を受け、1955年に再建された現在の歌劇場は、大きなガラス窓が目を引く現代建築だが、前身となるオペラハウスの創立は1678年までさかのぼる。領主による宮廷劇場ではなく、ハンザ同盟で中心的役割を担っていたハンブルクの商人たちの手でつくられた、ドイツで最初の民衆による民衆のための歌劇場だ。

 州立歌劇場である今も、上から与えられたものではなく、自分たち市民が支えている、という誇りに陰りはない。マーラーの時代から約120年を経た現在の音楽監督はケント・ナガノ(2015年~)で、就任後さっそくKQにも姿を見せたと、博物館スタッフが嬉しそうに話していた。

 17~18世紀以降、多くの重要な音楽家を生み育て、経済力を得て台頭した市民がそれを支えることで形成された「音楽の街」ハンブルク。現代において、その伝統が息づいているのを如実に感じさせてくれるのが、この州立歌劇場を本拠とするジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエ団の存在だ。

画像: 毎年シーズン最後に2週間にわたって開催される「ハンブルク・バレエ週間」。2018年のオープニングを飾ったのはノイマイヤー振付の新作『ベートーヴェン・プロジェクト』。若手のアレックス・マルティネスがベートーヴェンの心象をみずみずしく表現した ハンブルク・バレエ団 Hamburg Ballett Johon Neumeier 電話: +49 (0)40 35 68 68 公式サイト PHOTOGRAPH BY KIRAN WEST

毎年シーズン最後に2週間にわたって開催される「ハンブルク・バレエ週間」。2018年のオープニングを飾ったのはノイマイヤー振付の新作『ベートーヴェン・プロジェクト』。若手のアレックス・マルティネスがベートーヴェンの心象をみずみずしく表現した
ハンブルク・バレエ団 Hamburg Ballett Johon Neumeier
電話: +49 (0)40 35 68 68
公式サイト
PHOTOGRAPH BY KIRAN WEST

 今や押しも押されもせぬバレエ界の重鎮である偉大な振付家ノイマイヤー(79歳)がハンブルク・バレエの芸術監督に就任したのは、30歳そこそこだった1973年のこと。以後、バレエ学校を設立してダンサーの育成に努めながら、コンスタントに優れた新作を発表し続けて、バレエの可能性を広げる豊かなレパートリー群を創出。ハンブルク・バレエを、世界中のバレエ・ファンやバレエ・ダンサーらから熱視線を注がれる唯一無二の魅力的なバレエ団に成長させた。

 毎年6月末から7月にかけての2週間は、ヴァラエティに富むレパートリーの日替わり上演や新作の世界初演、附属バレエ学校の生徒によるパフォーマンスなど、ハンブルク・バレエの全貌を凝縮させた祭典「ハンブルク・バレエ週間」が開催され、世界中からつめかけた観客でにぎわう。今年は、ノイマイヤー就任45周年かつ、バレエ団附属ハンブルク・バレエ学校の創立40周年。恒例の世界初演となる新作として、ベートーヴェンの楽曲と人物にフォーカスした『ベートーヴェン・プロジェクト』を発表したノイマイヤーは、これと連動するように、最年少7歳からなるバレエ学校の生徒総勢190名のために『ベートーヴェン・ダンス(Beethoven Dances─40 Dances for 40 Years)』を新たに振り付け、ハンブルク・バレエ学校の40周年を寿いだ。

画像: ハンブルク・バレエ学校の総勢190名が出演した『ベートーヴェン・ダンス』終演後のカーテンコールで、生徒から花束を贈られるノイマイヤー PHOTOGRAPH BY KIRAN WEST

ハンブルク・バレエ学校の総勢190名が出演した『ベートーヴェン・ダンス』終演後のカーテンコールで、生徒から花束を贈られるノイマイヤー
PHOTOGRAPH BY KIRAN WEST

 この一夜限りの『ベートーヴェン・ダンス』が上演された6月25日の客席は、生徒の家族や、長年ハンブルク・バレエを支え、誇りにしてきた市民が多いとみえ、劇場は晴れ晴れとした笑顔と、あたたかい拍手に包まれていた。
「ハンブルクは、人に称号を与えることを好まない気質だけど」と、今回の取材で出会った市民のひとりが言っていた。これは2007年にハンブルクの名誉市民となったアメリカ出身のノイマイヤーの功績と、市民が彼に対して抱く敬愛の深さは別格、という意味にほかならない。

 かつての栄華をしのばせる古城がない代わりに、過去から現代まで、経済も文化も躍動し続けている証として、異形の城のようなエルプ・フィルハーモニーを築いてみせたハンブルク。歴史的建造物は戦争で破壊されても、各時代の芸術家と、経済力ある市民が築いてきた音楽のインフラは不滅。再建された教会や元防空壕、モダンなホールやオペラハウスを訪ねることで、そんなハンブルクの芸術的底力を感じることができる。

伊達なつめが見た、ハンブルクとクラシックの現在 <前編>

 

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