BY MAKIKO HARAGA, PHOTOGRAPHS BY AKINORI ITO, STYLED BY FUSAE HAMADA, HAIR BY ASASHI(OTA OFFICE ),MAKEUP BY NOBUKO MAEKAWA(PERLE)
カメラの前に立つと、MIYAVIは舞踏家のように動き始めた。整えられた体軀が繰り出す、静と動。しなやかな所作はまさに雅(みやび)だ。 素朴な疑問をぶつけてみた。なぜMIYABIじゃなくて、MIYAVIなのか? 「根本に『人と違っていたい。人と違っていていい』という思いがあるんです。普通はBだけど、Vにすることによって、すべてが直線になる。それは自分の音のイメージでもある」
サムライ・ギタリスト。世界の人々は、彼をそう呼ぶ。ピックを使わずに、指で弦をたたいたり弾いたりする独自の奏法は超絶技巧。曲線的なリズムやニュアンスが息づく西洋のグルーヴの中で自分だけの音を追い求め、がむしゃらに弾き続けて確立した。その音色は、三味線や太鼓のようにも聴こえる。「自分にとって、ギターは音の刀。その刃筋というか、直線で勝負していたい」。その胸には「音」「刀」の二文字がタトゥーで刻まれている。
日本を飛び出し、自らに垣根を設けず果敢に挑んできた。俳優として、アンジェリーナ・ジョリーの監督作『不屈の男アンブロークン』などの映画に出演。モデルとしてランウェイに登場したこともある。環境に配慮したグッチのカプセルコレクション「グッチ オフ ザ グリッド」のグローバルキャンペーンにも起用された。
“世界に衝撃を与えたい”という表現者の気概は、ずっと持ち続けてきた。「親になり、未来に何を残せるかを意識するようになった。持続可能な社会にしていくためのインパクトを生み出したい」。精力的に人道支援活動を続けるジョリーの導きで世界各地の難民キャンプへ足を運ぶようになり、2017年に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の親善大使に就任。音楽と流暢な英語で国際社会に発信し続ける姿は、ロックな“地球市民”だ。
最初に赴いたのは2015年、レバノンのシリア難民キャンプ。いつ銃弾が飛んでくるかわからず、車の窓は開けられない。「『生きるか、死ぬか』という人たちのところにギターなんか担いでいって、邪魔にならないか」と不安を抱えながら足を踏み入れた。「子どもたちの前でギターを弾き『わぁ、なんだ、これ!』と彼らが目を輝かせた瞬間、『あ、やれることがあるかもしれない』と感じたんです」
どの難民キャンプでも、子どもたちは無邪気だ。だが彼らを育む環境は、よくなってはいないと言う。たとえば、タイにはミャンマーから逃れてきた人々を保護するキャンプが、1980年代から存在する。
「ひとつの町というか、コミュニティになっていて、そこで生まれ育った子どものほうが、もはや多かったりする。そうなると今度は、『どこへ帰るの?』という話になる。傷口が膿み続けて治り方を見失っているような状況があるんです」。コロナ禍で現地に行けない状況が続く。“自分の家が火事のときに、他人の火事を消せない”という世界の現状がもどかしい。「難民キャンプではもっと大きな火事が起きている。それを忘れてはいけない」