急速な進化を遂げ、私たちの日常に溶け込み始めたAIやロボット。その開発者や研究者が思い描く、人とロボットがともに在る未来とは?

BY NORIO TAKAGI, PHOTOGRAPH BY YASUYUKI TAKAGI, ILLUSTRATION BY QUICK OBAKE, EDITED BY MICHINO OGURA

分身ロボット「OriHime」の開発者・吉藤オリィ

遠隔操作で距離を超え、人と人とをむすびつける分身ロボット

 東京・日本橋にある「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」の店に入ると、体長120㎝ほどのロボット〈OriHime-D〉が「ようこそ、いらっしゃいませ」と出迎えてくれる。4人掛けの各テーブルでは、体長約21㎝の〈OriHime〉がメニューを紹介し、オーダーを取っている。注文したドリンクをテーブルまで運んでくるのは、また別のOriHime-Dだ。2種類のロボットは、高度なAIが備わり接客をしている……のでは、ない。どちらも日本各地、さらにスウェーデンやオーストラリアで暮らす何らかのハンディキャップで外出が困難な「パイロット」(ロボット操作者)たちが遠隔操作しているのだ。カメラ、マイク、スピーカーを通し、会話も交わしている。自分に代わり離れた場所で働いてくれるから、分身ロボット。その開発者である吉藤オリィは「このカフェは、分身ロボットの実験場」だと語る。

「分身ロボットが巻き起こす、世界初の失敗を見せるカフェでもある。失敗には価値があり、失敗を検証することでロボットたちのレベルが上がってゆく。そして“できないこと”を蓄積しておくと、新しい技術を見つけたときに、解決のためにすぐ応用できるのです。できることより、できないことや失敗が、新たな創造の源泉となる」

画像: 吉藤オリィ 1987年生まれ。高校時代に電動車椅子の新機構を開発し、高校生・高専生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞、インテル国際学生科学技術フェアでもグランドアワード3位に輝く。高専で人工知能を学び、早稲田大学在学中に分身ロボット〈OriHime〉を開発し、オリィ研究所を設立。2016年に「Forbes誌が選ぶアジアの30歳未満の30人」に選ばれるなど、世界的に注目されている

吉藤オリィ
1987年生まれ。高校時代に電動車椅子の新機構を開発し、高校生・高専生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞、インテル国際学生科学技術フェアでもグランドアワード3位に輝く。高専で人工知能を学び、早稲田大学在学中に分身ロボット〈OriHime〉を開発し、オリィ研究所を設立。2016年に「Forbes誌が選ぶアジアの30歳未満の30人」に選ばれるなど、世界的に注目されている

 こうして進化する二つの分身ロボットに吉藤が託したミッションは、17歳のとき決意した「人間の孤独の解消」。背景には、小学5年生から中学2年生まで不登校だった自らの孤独の経験がある。「孤独の解消には『移動』と『対話』、そして『役割』が必要です。移動と対話はOriHimeが代わってくれます。そして役割を生む場が、カフェです。人は役割があることで他人にも話しかけやすくなり、関係性が生まれる。パイロットは、遠隔操作でカフェのスタッフという役割を得た瞬間に、孤独な患者ではなくなる」

 誰かに何かをしてもらったとき、お返しができることが対等性である。役割はそのためのツールだ。一方的に何かをしてもらい「ありがとう」を言い続けねばならないつらさを、不登校だった吉藤は知っている。だからOriHimeは、「入院などで学校に行けない子どもたちに使ってほしいというのが、そもそもの開発の始まりでした」。授業を受けるだけならテレビ電話やZoomでも可能だが、スマートフォンやPCを使って遠隔操作するOriHimeなら、自分の意思で顔や手を動かしたり、目の色を変えて感情表現もでき、その場にいるかのようなコミュニケーションがかなう。そんなOriHimeが大きく進化したのは、2013年。きっかけは、筋肉の萎縮が進行する難病ALSの患者との出会いだった。吉藤は彼らのために、視線の動きだけでWindows PCが操作できる〈OriHime eye+Switch〉を開発。さらに翌年、運命の出会いが訪れた。4歳のときに事故で首から下が動かせなくなり、20年以上寝たきり生活を続ける、のちに吉藤の親友となる故・番田雄太がSNSを通じてコンタクトをとってきたのだ。

「番田は顎を使って、ペンマウスを操作してネットを通じて外部とつながる術をもっていました。やがて彼が操作するOriHimeと一緒に、全国で講演をするようになったのです。彼が自身の生活を話すと、多くの人が心動かされ、勇気づけられた。“寝たきり”の人が、社会に参加する可能性を見いだしてくれたのは、番田でした」

画像: ベッドから起き上がれない状況でも、OriHime-Dを視線や脳波入力で動かして自分自身を介護し、家族や友人が訪れたらもてなして、ともに楽しいときを過ごす。憧れの「老後の先」の未来予想図

ベッドから起き上がれない状況でも、OriHime-Dを視線や脳波入力で動かして自分自身を介護し、家族や友人が訪れたらもてなして、ともに楽しいときを過ごす。憧れの「老後の先」の未来予想図

 一方で、障がい児の母親から「講演なんて特別な人がやれることで、社会経験がないうちの息子には到底無理」との声も聞かれた。「だったら肉体を使うことが難しい人たちに肉体労働をしてもらい、社会経験を積んでもらおう」と、カフェ構想がスタートした。自分で移動できないOriHimeに続き、自走可能なOriHime-Dの開発を進めるも、その途中で番田が逝去。心は折れかけたが、彼の遺志を未来につなぐべく研究を再開し、カフェ開業にこぎつけた。

「カフェを続けていくと、パイロットたちの後輩が入ってくる。そして1機のOriHime-Dに新人と一緒に入って、研修を行い始める先輩パイロットが出てきた。これはまったく予想外の出来事。彼らパイロットがOriHimeの可能性を広げ、自身の可能性も広げている」

 吉藤は、パイロットたちを敬愛を込め“寝たきりの先輩”と呼ぶ。「カフェで働く寝たきりの先輩らが憧れの存在になれば、同じ境遇の人たちが外に出る一つのきっかけになります。またほとんどの人は、老後の先に寝たきりになる。年金生活に憧れる人はいるけど、寝たきりの老後に憧れる人は現状ではまだいません」

 老後の先の寝たきり生活を憧れにすべく、吉藤が構想しているのが「自分で自分を介護できる」新OriHime-Dの開発である。「朝、目覚めたらOriHime-Dを操作してカーテンを開け、離れて暮らす家族が遊びにきたら玄関まで出迎え、お茶をふるまう。自分のことは自分でできる、憧れの老後の先を実現したい」

分身ロボットカフェ DAWN ver.β
住所:東京都中央区日本橋本町3-8­-3 日本橋ライフサイエンスビルディング3 1F
メール:dawn@orylab.com
公式サイトはこちら

豊橋技術科学大学情報 知能工学系教授・岡田美智男

かまわずにはいられない、つい手助けしたくなる〈弱いロボット〉たち

 東京・お台場の日本科学未来館で開催中の特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」では、さまざまなコミュニケーションロボットと触れ合える「こころって、なんだ?」のゾーンが親子連れに人気だ。ここには岡田美智男研究室のロボットが、7種類展示されている。その一つ、〈トーキング・ボーンズ〉が語る昔話に、母娘が熱心に耳を傾けていた。頼りない外観と同様に語り口もたどたどしく、「えーと、なんだっけ?」と登場人物やエピソードを忘れたりする。そのたびに母親は「おばあさんね」「しば刈りだよ」とロボットにやさしく教え、娘は「なんで忘れちゃうの、キャハハ」と笑い声をあげていた。

「音声の研究や仕事をする中で、人が言い直したり、言いよどむ、非流暢な話し方に関心をもったのです。そんな中で、人の行為は脳だけで決定されるものではなく、環境との関係で成立しているとする生態心理学に出会った。歩行は実は地面からの支えによって、歩かされている。紙とペンの間の摩擦が、人に字や絵を書かせている。会話も同じで、不完全な状態のまま相手に投げかけ、委ね、相手の反応や表情などを認識して、次の言葉を発する。つまり人は、言い直すことを前提として発話しているのではないかと考えたのです」

画像: 岡田美智男 1960年生まれ。東北大学大学院工学研究科博士課程修了。NTT基礎研究所情報科学研究部で音声認識や自然言語処理、生態心理学に基づく発話生成機構の研究を行う。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)を経て、2006年に豊橋技術科学大学情報・知能工学系教授に就任。『弱いロボット』(医学書院)、『〈弱いロボット〉の思考わたし・身体・コミュニケーション』(講談社現代新書)などの著書がある

岡田美智男
1960年生まれ。東北大学大学院工学研究科博士課程修了。NTT基礎研究所情報科学研究部で音声認識や自然言語処理、生態心理学に基づく発話生成機構の研究を行う。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)を経て、2006年に豊橋技術科学大学情報・知能工学系教授に就任。『弱いロボット』(医学書院)、『〈弱いロボット〉の思考わたし・身体・コミュニケーション』(講談社現代新書)などの著書がある

 言い直し、言いよどむ人の会話の検証は、岡田にとって重要な研究テーマの一つであり、トーキング・ボーンズに先駆けて1999年には初期の代表作〈む~〉が誕生している。水滴のような形をした柔らかな素材で作られた一つ目のロボットで、人が近づくと体を震わせて反応し、その名のとおり「む~」と言葉を発する。音声認識装置も搭載され、話しかければ、言葉足らずに応えてもくれる。

「これを展示会に持っていくと、“どんなセンサーがいくつ入っているの? 何ができるの?”と、スペックばかりを尋ねられ、周囲の反応も悪かった。でも子どもたちのところに持っていったら、人気者になったんです。そしてあまりにポンコツだから、子どもたちがお世話をし始めた。これは予想外でショッキングな出来事でした」

画像: 一つ目ロボット〈む~〉のつたない会話や、骨がモチーフの〈アイ・ボーンズ〉のおどおどしたしぐさは、ついついお世話がしたくなる。〈ゴミ箱ロボット〉がゴミを探す様子は、実にけなげ。〈弱いロボット〉は子どもたちの関心とやさしさを引き出し、協働を生み出す

一つ目ロボット〈む~〉のつたない会話や、骨がモチーフの〈アイ・ボーンズ〉のおどおどしたしぐさは、ついついお世話がしたくなる。〈ゴミ箱ロボット〉がゴミを探す様子は、実にけなげ。〈弱いロボット〉は子どもたちの関心とやさしさを引き出し、協働を生み出す

 コミュニケーションを生み出すのに、ポンコツであることは一つの強みとなる。そう気づいた岡田はある日、キャスターつきの椅子に置かれたむ~を見て「椅子を押してどこかに連れていって」と言っているように感じ、“他力本願”なロボットという発想に至った。「自分ではできなくても、周りの人を巻き込んで何かを成し遂げられる。そうした発想から生まれたのが、〈ゴミ箱ロボット〉です」

 車輪で自走し、センサーでゴミを見つけるが自分では拾えず、その前で止まって“モコー、モッコモー”と意味のない言葉を発する。「ゴミを拾ってください、という明確な言葉だと、命令されているように感じる。しかし意味のない言葉であれば、ゴミを拾ってほしいの?と相手が勝手に解釈して、実際に拾ってもらえる」

 明確な言葉を発しないコミュニケーションロボットは、それ以前にもあった。動物型がその典型で1999年発売のソニーの犬型ロボット〈AIBO(アイボ)〉は、その代表例。また癒やしをもたらす福祉用具としても重用されるアザラシ型の〈PARO(パロ)〉も、1993年から研究開発と臨床試験が進められてきた。これらはいずれもペット代替、パロはさらに世界初のロボット・セラピーの実現を目指し開発された。対して岡田は「どんなことができるかを、開発の目的としていない」と語る。

画像: 〈PARO(パロ)〉癒やしを与えてくれるロボットで、日本ではペット代替や福祉用具として、海外ではさらに向精神薬を低減する医療機器として導入される。¥420,000~/知能システム フリーダイヤル:0120-86-1842 COURTESY OF NATIONAL INSTITUTE OF ADVANCED INDUSTRIAL SCIENCE AND TECHNOLOGY (AIST)

〈PARO(パロ)〉癒やしを与えてくれるロボットで、日本ではペット代替や福祉用具として、海外ではさらに向精神薬を低減する医療機器として導入される。¥420,000~/知能システム
フリーダイヤル:0120-86-1842
COURTESY OF NATIONAL INSTITUTE OF ADVANCED INDUSTRIAL SCIENCE AND TECHNOLOGY (AIST)

「たとえばぺこりと頭を下げられると、お礼をされた気になる。おはようと言葉を発しても、相手が応えてくれなければ宙に浮く。相互行為というのは実に巧妙で面白い。そしてコミュニケーションを成立させるために人間がやっている、私にとっては“面白いこと”を理解するために検証する手段が、たまたまロボットなだけなんです」

 そして検証による結果は、往々にして岡田の予想の域を出る。「複数のゴミ箱ロボットを子どもたちの遊び場に放つと、最初はちょっと乱暴にゴミを放り込んでいたのが、しばらくすると、これはペットボトル用、などと丁寧に分別して拾ってくれるようになったんです。自分ではゴミを拾えないロボットは、それゆえに人のやさしさを引き出してともに何か事を成し遂げ、幸せな感情を生み出す。予想していた以上のコミュニケーションが、そこに育まれたのです」

“他力本願”なロボットによるコミュニケーションの検証を続ける岡田が、2012年に上梓した著書のタイトルは『弱いロボット』。ひとりでは完結できないが、何らかの手段で人の関心を引き、共同で目的を達成する。そんなコミュニケーションを生み出すロボットをわかりやすく言語化したのだ。今では人とロボットの共生を考えるうえで、〈弱いロボット〉は重要なキーワードの一つになっている。それは、コミュニケーションロボットにおいてに限らない。

画像: 〈LOVOT(らぼっと)〉名前を呼ぶと寄ってきて、触れ合うほどに懐いてくれる。ともに過ごす中で成長し、家族のようになる愛されロボット。¥349,800(別途月額サービス料あり)/LOVOTコンシェルジュ TEL. 0800-333-0880 COURTESY OF GROOVE X, INC.

〈LOVOT(らぼっと)〉名前を呼ぶと寄ってきて、触れ合うほどに懐いてくれる。ともに過ごす中で成長し、家族のようになる愛されロボット。¥349,800(別途月額サービス料あり)/LOVOTコンシェルジュ
TEL. 0800-333-0880
COURTESY OF GROOVE X, INC.

画像: 〈NICOBO(ニコボ)〉寝言も言うしオナラもする、同居人のような〈弱いロボット〉。パナソニックと岡田美智男研究室との共同開発成果がクラウドファンディングで実現。販売未定 ncb-project@ml.jp.panasonic.com COURTESY OF PANASONIC ENTERTAINMENT & COMMUNICATION CO., LTD.

〈NICOBO(ニコボ)〉寝言も言うしオナラもする、同居人のような〈弱いロボット〉。パナソニックと岡田美智男研究室との共同開発成果がクラウドファンディングで実現。販売未定
ncb-project@ml.jp.panasonic.com
COURTESY OF PANASONIC ENTERTAINMENT & COMMUNICATION CO., LTD.

「人工知能やロボットは不完全なところを隠しがちです。しかし弱い部分を開示すると、人との関係性が広がる。たとえば自動運転システムが弱音を吐くと、運転者の能力も同時に生かされ人馬一体のようになれる。完全自動化のための高信頼性を目指す開発は高コストですが、弱さをさらけ出し人が補完する設計なら低コストになる」

 高性能・高速・大容量の技術革新はロボットの進化には不可欠。岡田は、弱いという情感によって、また異なる進化と共生を促す。

認知発達ロボティクスの第一人者・浅田稔

AIとロボットの倫理と法を考察しながら、科学技術で平和を築く

 開催中の「きみとロボット」展では、汎用人型重機「零式人機(れいしきじんき) ver.1.2」の操縦体験にいつも列ができている。その指先を握る紳士は開発者ではなく、同展の総合監修を務めた浅田稔である。日本ロボット学会前会長にして、国際的ロボット競技大会ロボカップの創設者のひとり。浅田が思い描く、右のイラストにもあるような“人とロボットが共生する近未来”は、会場に展示されるロボットや義肢、デジタルクローンなどを見ると夢物語ではないように思える。

「工学系の研究・開発者の多くは、利便性や機能を高めることに労力を使います。そしてロボットに人と同じ能力を求めるようになる。それを実現するためには、現状ではまだまだ技術が足りていません。たとえばセンサーも、人の視覚や聴覚に匹敵するまでには至っていない。一方で、ここ10年でAIは、長足の進歩を遂げています。深層学習やデータサイエンスも含め、かなりの膨大なデータを集めて解析する、ある種の自動化技術が発達し続けている。それはロボット以外のさまざまな分野で使われています。また音声認識、音声合成が実用化されたことで、AI技術の有用性はより高まりました」

画像: 浅田 稔 1953年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。同大学工学部教授などを経て、1997年に同大学大学院工学研究科教授に就任。現・同大学特任教授。認知発達ロボティクスを推進し、国際的ロボット競技大会ロボカップを共同で創設。2019年に日本ロボット学会会長就任(任期は2020年度まで)。2021年4月からは国際工科専門職大学の副学長も兼任する

浅田 稔
1953年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。同大学工学部教授などを経て、1997年に同大学大学院工学研究科教授に就任。現・同大学特任教授。認知発達ロボティクスを推進し、国際的ロボット競技大会ロボカップを共同で創設。2019年に日本ロボット学会会長就任(任期は2020年度まで)。2021年4月からは国際工科専門職大学の副学長も兼任する

 AIは家電に使われ、人の暮らしに溶け込んでいる。音声認識、音声合成も、日常のあちらこちらにある。それらと同じように、ロボットが当たり前のように人と共生するために研究が進められ、浅田が「今、ホットな分野」というのが、ソフトロボティクスである。

「今は硬い素材のロボットが多いですが、人と共生するにはぶつかっても害を与えない柔らかい素材であるほうがいい。またアクチュエーター(動作をつかさどる機械装置)は、今は電気モーターとギアの組み合わせが主流ですが、これは制御しやすいけれど動物のようなダラ~んと弛緩した動きができない。それに代わるゴムや空気圧を使ったアクチュエーターの開発も進んでいて、これだと人に似た柔らかな動きをロボットができるようになり、より親密になれる」

 ロボットに用いられる技術は多岐にわたり、それらは専門家にとってはまだまだ進化の途中にあるのは事実であろう。しかし素人目には、驚くほどの速度で発達していると感じる。そしてロボットの進化に伴い、議論の俎上にたびたび上がるのが、倫理の問題である。

「ロボットに限らず、科学技術の進展には利便性と同時にリスクもあります。それでも人は、多くの科学技術を使いこなしてきた。そして若い研究者には、人工物は利便性、機能性だけを求めて設計してはダメだと、設計したものが世に出たときに、それが社会に対してどんな影響を与えるのかまで考えるべきだと、常々伝えています」

 設計者に倫理観を求める浅田は、ロボット自体にも倫理観をもたせられないかと、痛みを感じるロボットの研究を進めている。「痛みが不快であることをロボットが知れば、自分がやられたくないことは他人もやられたくないという、モラルが生まれる。また人との共感も高まります。ただ痛みにはさまざまな状況が関わっているので、それをロボットに埋め込むのは、非常に難しい。データサイエンスで集約できるのだろうか? 僕にとって大きなチャレンジです」

画像: ロボットアームやロボット脚でレジャーを楽しむ人、見守りロボットと外出する高齢者、アバターで世界中の仲間と会話を楽しむ人。緑の中、人とロボットが共生する近未来の日常風景

ロボットアームやロボット脚でレジャーを楽しむ人、見守りロボットと外出する高齢者、アバターで世界中の仲間と会話を楽しむ人。緑の中、人とロボットが共生する近未来の日常風景

 ロボットに、特に人工知能に倫理を求めるのであれば、それに伴う法整備は不可欠である。浅田は「科学技術の進化に、法整備は全然追いついていない」と嘆くだけでなく、京都大学法学部の教授らとともに、人工知能に関する法律の研究にも取り組む。

「たとえば自動運転で事故が起きた場合、ドライバーが悪いとなると誰も買わなくなる。メーカーが責任をもつとしたら開発を萎縮させる。もしかしたら、自動運転車自体に責任の一端があるかもしれない。では人工物に事故の責任を問う場合、どういう形になるのか? まず事故の原因を徹底的に解明することを大前提とし、保険などでカバーすることで、メーカーが開発を萎縮せず、ドライバーが大きな責任を負わない状況をつくり出す。こうした技術の進展に適応した法整備ができないかと議論を続け、働きかけをしています」

 倫理や法整備までを含め、人とロボットとの共生社会のあり方は、「みんなで一緒に考える必要がある」と、浅田は語る。「ドラえもんに象徴されるように、日本には“ロボットは家族”という感覚が根づいています。日本人がもつ、ロボットと人の親和性の高さを世界に広げていきたい」と言う。そして「戦争が現実となっている今、人と人とが共生できていない。ロボットやアバターが介在することで、国境を超えて人と人とをつなげ、思いやりのある社会を構築できないか?と願い続けてきました。小学生から高校生が参加するロボカップジュニアの出場者たちは将来、研究者になるかもしれないし、政治家になるかもしれない。ロボット開発という原体験を共有する彼らの活躍に期待します」

特別展『きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?』
国内展覧会史上最大規模となる約90種130点のロボットが大集結。ロボットを通じて「人間とは何か?」を考える。一部のロボットとは実際に触れ合ったり、操縦体験もできる。
会期:~ 8月31日(水)
会場:日本科学未来館 
住所:東京都江東区青海2-3-6
開館時間:10:00~17:00 (入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜(7月26日~8月30日は開館)
入場料:大人(19歳以上)¥2,100、中人(18歳~小学生)¥1,400、小人(小学生未満~3歳)¥1,400
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイトはこちら

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