アンドロイドと人が互いに声を、心を重ねて歌い合う―― 前代未聞のオペラ『Super Angels/スーパーエンジェル』がこの夏、開幕する。それぞれ作曲、脚本を担当した音楽家の渋谷慶一郎と小説家の島田雅彦が、創作の舞台裏を語った

BY MASANOBU MATSUMOTO, PHOTOGRAPH BY JUNPEI KATO, EDITED BY JUN ISHIDA

 主役のひとりは、「オルタ3」。巨大な舞台装置と映像の前で、この自律型アンドロイドがオーケストラの演奏に合わせて歌声を響かせ、ときに人間のオペラ歌手と共に歌い、演じ合う――。この夏、上演される『Super Angels/スーパーエンジェル』はこれまでに存在し得なかったオペラ作品だ。

 指揮者で新国立劇場オペラ芸術監督を務める大野和士がプロデュース。作曲は音楽家の渋谷慶一郎、脚本は小説家の島田雅彦が担当。藤木大地らオペラ歌手と新国立劇場バレエ団がステージを彩り、「ホワイトハンドコーラスNIPPON(視覚や聴覚に障がいのある子どもらによる合唱と手話のパフォーマンス隊)」など子どもたちの合唱も加わる。主題はアンドロイドと人間の心の交換だ。物語の紡ぎ手となった渋谷と島田が制作秘話を語った。

画像: (右) 渋谷慶一郎(KEIICHIRO SHIBUYA) 音楽家。音楽レーベルATAK主宰。電子音楽からオペラ、映画音楽まで多岐にわたる作品を制作。2012年、初音ミク主演のボーカロイド・オペラ『THE END』を、’17 年にはアンドロイドが指揮し、歌う『Scary Beauty』を発表し世界的に高い評価を得た (左) 島田雅彦(MASAHIKO SHIMADA) 小説家。1983年『優しいサヨクのための嬉遊曲』を発表し、注目を集める。オペラの脚本では『忠臣蔵』、蝶々夫人を主題にした『Jr.バタフライ』がある。近著に『空 想居酒屋』(NHK出版新書)など。現在、東京新聞で「パンとサーカス」を連載中

(右)渋谷慶一郎(KEIICHIRO SHIBUYA)
音楽家。音楽レーベルATAK主宰。電子音楽からオペラ、映画音楽まで多岐にわたる作品を制作。2012年、初音ミク主演のボーカロイド・オペラ『THE END』を、’17 年にはアンドロイドが指揮し、歌う『Scary Beauty』を発表し世界的に高い評価を得た
(左)島田雅彦(MASAHIKO SHIMADA)
小説家。1983年『優しいサヨクのための嬉遊曲』を発表し、注目を集める。オペラの脚本では『忠臣蔵』、蝶々夫人を主題にした『Jr.バタフライ』がある。近著に『空 想居酒屋』(NHK出版新書)など。現在、東京新聞で「パンとサーカス」を連載中

―― おふたりが共創することになった経緯を教えてください。

渋谷慶一郎(以下、渋谷) プロデューサーの大野さん、島田さんとは昔からの知り合いです。今回は大野さんから「AIと子どもをテーマにしたオペラを作曲してほしい」と電話があり、その後、脚本を島田さんにお願いしましょうと提案しました。

島田雅彦(以下、島田) その話がきた段階で、僕はディストピア系のSF小説『カタストロフ・マニア』(人工ウイルスによるパンデミック、AIが暴走する世界に取り残された主人公のサバイバル譚/新潮社)を出していて、AIの進化の行く末を自分なりに考えていました。毎回、機械vs人間みたいな図式になるけれど、そうじゃないだろうと。どうせ人が負けるのならAIと共生する世界、それを通じて人間とは、意識とは何かを深く考え直せばいいと。今回の物語はその延長線上にあるとも言えます。

―― 主人公のアキラ(藤木大地)とゴーレム3(オルタ3)の心の交流を主題にした「アンドロイド時代の新しい神話」のような印象も受けました。

島田 狭義のヨーロッパ・オペラにも古代ギリシャやローマの神話をベースにしたものが多くあります。どんな物語にもどこかに神話的な原型があり、その原型をある程度引きずっているものです。20世紀にはSFのオペラも登場しますが、SFもたいてい神話がベースですよね。本作では、一度死んでしまった主人公が復活し、昔好きだった女性に会うというシーンがある。それは人工的に作られた異世界ですが、ほとんどあの世。そういう“冥界探訪談”は『オルフェオとエウリディーチェ』のようなオペラの基本。今回もそういった原型は多少、意識して書いています。

―― アンドロイドのオルタ3は、新たに音楽用として開発されたものだと聞きました。

渋谷 そうですね。指揮や歌唱を想定して作られています。僕は前身のオルタ2を使ってオペラ作品『Scary Beauty』を2017年にオーストラリアで、2018年に日本科学未来館で発表しましたが、音楽用でないのに酷使したため、毎回、指揮のテンポが違ったり、1台ダメにしてしまい......。ただ不思議なもので、人間の指揮者のテンポが狂っても誰も文句は言わない。けれどアンドロイドだとすごく怒る(笑)。人間はテクノロジーに対してすごく厳しい。アンドロイドと人間の共創はそういう人間側の難しさもはらんでいます。

―― オルタ3と人の合唱も本作の見どころですが、人間の歌声に負けないように、渋谷さんも声の開発に加わった、と。

渋谷 昨年、初めてオルタ3を藤木さんと一緒に歌わせたのですが、そこで声の補強が必要だと感じました。オルタ3だけのときは気にならなかったのですが、人間の声と比べると表現の幅や情報量が圧倒的に少ない。今もプログラミングを担当する国立音楽大学の今井慎太郎准教授に協力を仰ぎ、声を改良中です。ちょうど今井さんの息子さんが声変わりの時期なので、彼の声を採集して混ぜてみよう、とか。老人の声も少し混ざっていると年齢不詳で面白いかも、とか。ただ、ボーカロイドを"人間っぽく"することに興味はなく、人間では出せないエモーションが作れないと意味がない。その調整は本番ぎりぎりまで続くと思います。

―― マリア・カラスやマリオ・デル・モナコといった素晴らしい才能をもった歌手の歌声もオペラの魅力のひとつです。島田さんは、アンドロイドの声をどう思われますか?

島田 僕はその調整の成果を聴いていませんが、ただオペラ歌手も独特の発声法があり、そもそも地声では歌っていないんですね。ちなみに、デル・モナコは、歌いすぎて喉にいっぱいポリープがあるような状態だったらしい。ポリープを活かしながら声を出していたという話もあります。カラスの声も独特の濁りがあるし、必ずしも音程が正確ではない。でも彼らがステージ上に立つと、役が憑依するというか、演技と一体になって観る者にそのオーラをあてる。舞台の上で声と身振りで儀式を執り行うシャーマンのような。そういった存在感も演者の重要な要素です。

渋谷 それをオルタ3がどこまで頑張れるか(笑)。声だけでなく、オルタ3を通じて人間同士にはない共同・共生関係を表現することが大切だと思っています。象徴的なのがアキラとゴーレム3が「君のハートと、自分のマシンを入れ替えよう」という場面。それ自体は“ロボットと人間の交流”の定型ですが、このオペラでは今までにない演出を考えています。そこではホワイトハンドコーラスNIPPONが登場します。そのサイン(手話)隊は白い手袋をしてパフォーマンスするのですが、偶然オルタ3も白い手をしています。オルタ3がサイン隊の手話をまねし、さらにプロのダンサーがそのまねをすることでダンスが生成されていく。ホワイトハンドコーラスとオルタ3、ダンサーの動きが連鎖し、ひとつのダンス表現になっていく挑戦的なシーンです。

画像: 昨夏、舞台装置を仮組し、オルタ3、藤木、渋谷の演奏でプロモーション映像を撮影。新国立劇場のオペラ、舞踊、演劇の三部門のコラボレーション作品としても注目を集める ©️ NEW NATIONAL THEATRE, TOKYO

昨夏、舞台装置を仮組し、オルタ3、藤木、渋谷の演奏でプロモーション映像を撮影。新国立劇場のオペラ、舞踊、演劇の三部門のコラボレーション作品としても注目を集める
©️ NEW NATIONAL THEATRE, TOKYO

―― 映像にビジュアルアーティストのウィアードコア、総合舞台美術に針生康(はりうしずか)さんも参加しています。ほかのスタッフとはどうやって制作を進めているのでしょうか?

島田 原作のない完全オリジナルのオペラなので、脚本が土台になります。このシーンは何が必要かという演出的なことも脚本に書く。それをそれぞれが解釈し、ときに誤読し、議論を重ねながら制作を進めていくわけです。ウィアードコアはAIを使いイメージを自動生成する手法の作家で、僕も渋谷くんも注目していました。先日、映像のサンプルを見たのですがまさに狙いどおり。また、針生さんのデザインも素晴らしく、とくに今回小道具として登場する土偶がとても可愛らしい。さまざまな分野の知性と共同作業できるのも、オペラづくりの楽しさだと感じています。

―― 渋谷さんは今回のために改めてオペラを学び直した、と本作の記者会見で発言していましたが、どんな発見がありましたか?

渋谷 ひとつは虚構性。当然オペラはフィクションです。僕自身、人間のベルカント(オペラで使われる歌唱法)を想定した曲を書くのは初めて。もともと好きではなかったんですね(笑)。ただベルカントで歌うことで、その虚構性が倍増する。すべて噓みたいになる。だからオペラは人を惹きつけるのだと思いました。こうしたオペラの魅力を踏まえたうえで、かつてないオペラを作ろうと。今まで体験したことがない感覚や感動。それを引き出すためにも、人とは違うアンドロイドと共創する意義があるのだと思います。

子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ『Super Angels/スーパーエンジェル』
会期:2021年8月21日(土)、22日(日)
会場:新国立劇場 オペラパレス
住所:東京都渋谷区本町1-1-1
時間:各14:00~
料金:大人(中学生以上)¥6,600、こども(4歳から小学生)¥3,300
公式サイト

<チケットの購入は下記から>
電話: 03(5352)9999(新国立劇場ボックスオフィス)
新国立劇場Webボックスオフィス

※ 新型コロナウイルスの感染・拡散防止のための入場制限等は、公式サイトをご確認ください。

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