「一番好きな料理はイタリアン。お菓子は、あんこよりも断然クリーム派。趣味は「旅」でも、国内旅行は仕事で訪れる撮影ロケ地くらいの経験値。日本の伝統文化や和の作法に触れないまま、マチュアな年齢となってしまった私ですが、この度、奈良の煎茶道美風流に入門させていただくことになりました。」そんなファッション・ディレクター、菅野麻子さんが驚きと喜びに満ちた、日本文化「いろはにほへと」の学び路を綴る。連載第二回目は、どのようにして尊敬する師匠にめぐり逢えたのか、「入門までのいきさつ(2)」です

BY ASAKO KANNO

 さて、煎茶道への興味が絶好調に高まったところで、次は学び舎のリサーチです。
鉄は熱いうちに打ちたい。けれど、どこの流派でもいいから門戸を叩くという気にはなれません。

画像: この夏、家元の運営する茶農園「瑞徳舎」の池に咲く蓮の花で手づくりされた「蓮花茶」。茶葉を蕾の中につめて、蓮の香りをうつすのだそう。何とロマンティックなお茶でしょう!

この夏、家元の運営する茶農園「瑞徳舎」の池に咲く蓮の花で手づくりされた「蓮花茶」。茶葉を蕾の中につめて、蓮の香りをうつすのだそう。何とロマンティックなお茶でしょう!

 今まで、茶道、華道、香道など、日本の伝統文化を学んでみたいと思ったことはあれど、いつも大きな壁となっていたのは、その高尚すぎて近寄りがたいイメージ。また、一度入門したら気軽に他の流派に移ることはできないとも耳にします。

 さらに、学びは長き道。尊敬できる師の元でなければ、続くはずもありません。
とはいえ、どのように師匠を探し出したらいいの? そんな素朴な疑問がいつも心にありました。

 そんなこんなで学びの機会を逃し続けてきたけれど、「パンデミックで日本から容易に出られない今、日本でしか学べないことに触れてみよう!」と一念発起。未来の師匠を求め、流派探しが始まったのでした。

画像: 煎茶道の急須や茶碗は、おままごとのように小さくて愛らしい

煎茶道の急須や茶碗は、おままごとのように小さくて愛らしい

 現在、全日本煎茶連盟に加入している流派は29流。非加盟の流派も全国に多数存在しているとのこと。

 最初は、区民センターの貼り紙にあった流派含め、都内に本部を置く流派のHPをつぶさに見ていきます。しかし、自分がそこで学んでいる姿が想像できる流派には出会えません。どの流派も“煎茶道”“文人趣味”によるgoogle検索で作り上げた、私の思い描くイメージとは少し違うようにも思えたのです。

 もう一度、自分が魅かれたキーワード的なメモ書きを眺めながら、「ま、東京でなくてもいいか。月1回くらいなら、お稽古がてら観光も楽しめちゃうかも」と、いっきにリサーチ範囲を全国に広げます。

[メモ書き]
・無為自然(宇宙のありかたにしたがって、自然のままであること)
・雅遊(詩歌・音楽・書画などを作ったり鑑賞したりして楽しむこと)
・清談(世俗的ではない、趣味・芸術・学問などの話を楽しむ)
・清風を感じ、気の合う仲間と語り合う
・自然と同化してお茶を味わい、天地宇宙を友とする
・総合芸術(文人花、水墨画、書、漢詩、盛り物飾り、篆刻、陶磁器や工芸品の観賞、文房具、香など)

 煎茶道の原点が、中国・明王朝時代に起源を発していたのは驚きですが、ここから日本独自の繊細な感性や美意識とあいまって発展していったかと思うと、壮大なロマンを感じます。

画像: 入門後、初めての盛り物飾りのお稽古。素材や色味のバランスを見ながら季節のものを飾ります。夏の思い出が香る記念すべき1枚

入門後、初めての盛り物飾りのお稽古。素材や色味のバランスを見ながら季節のものを飾ります。夏の思い出が香る記念すべき1枚

 その後、何時間ものネットサーフィンののちに、ふと目にとまったホームページ。それが、奈良の「煎茶美風流」でした。

 私のメモ書きのイメージを形にしてくれたような、美しい写真と活動内容に釘付けになり、すぐさまインスタグラムもかぶりつきでチェック。

 煎茶美風流四世家元は、仙人のような風貌で、奈良の山奥で自然とともに暮らし、さらさらと魔法のように筆を動かして水墨画を描く芸術家でもありました。

 煎茶美風流のように、お手前だけでなく、総合芸術としての煎茶道を教えてくれる流派は非常に珍しく、さらには、お家元の美意識や思索の深さにも感嘆。すぐに「この師匠から学ばせていただきたい!」と思ったのでした。

 しかも、本部は奈良。修学旅行で行ったきりだけど、年を重ねた今、古都・奈良をじっくり観光したいとかねがね思っていたので、一石二鳥!

画像: 修学旅行以来の訪問となった奈良は、壮大な歴史の宝庫であったことに気づかされます。学生の頃の記憶は鹿と大仏くらいでした…。猿沢池からのぞむ、興福寺の五重塔の夜景は幻想的

修学旅行以来の訪問となった奈良は、壮大な歴史の宝庫であったことに気づかされます。学生の頃の記憶は鹿と大仏くらいでした…。猿沢池からのぞむ、興福寺の五重塔の夜景は幻想的

 こんなにひとり盛り上がっても、美風流にて学べるか否かはまた別の話。
早速、メールをさせていただくことに。

 待つこと1日、3日、1週間……あれ、返事は届きません。
電話をしてみようかしらと思いつつも、
「やはり、そんな簡単に受け入れていただける世界ではないのだろうな……」と案じられるなか、電話などあまりに大胆すぎる行為かもしれません。

 もう、煎茶道はあきらめようかと思い始めた頃、ふと、お家元が主宰する月1回の「文人趣味WEBサロン」に参加してみようと思い立ちました。

 それはZOOMを使った2時間ほどのオンラインサロンで、例えば「吉祥」「老子・壮子・禅」など、毎回テーマごとの切り口で、お家元が文人趣味やお茶の話と紐づけながら、ご講義くださるよう。

画像: 文人趣味WEBサロンに申し込むと、資料とともにテーマにあったお茶が送られてきます

文人趣味WEBサロンに申し込むと、資料とともにテーマにあったお茶が送られてきます

「煎茶道の経験の有無、流派の違いなど関係なし。どなたでもご参加頂けます。」そんなコメントがあったので、私も参加してもよさそうです。
煎茶道熱に浮かされてから、はや一週間、ついに未知の世界への第一歩を踏み出しました。

 すると、なんということでしょう。申請後に、お家元からメールを頂戴する奇跡が起こったのです。

 メールは短くも、サロン申し込みを嬉しく思うというあたたかいお言葉とともに、私がどんな経緯でWEBサロン申請に至ったのか興味を持っていらっしゃるようでもありました。

 そこで、図々しくも、煎茶美風流に感銘を受けたこと、また奈良本部でお点前を体験したいこと、家元が教えていらっしゃる水墨画教室のことなどについて、何度かメールをやりとりさせていただくことに。その度に、丁寧に返信をくださるお家元の真摯な対応とお人柄に、さらに美風流のファンとなっていったのです。

画像: 文人趣味WEBサロンで送られてくるお茶は毎回、希少なものばかりで、とても楽しみ。お茶は沖縄ゴザ産の「菊花」。家元のお嬢様手作りのお茶菓子「すり琥珀」の美味しいこと! PHOTOGRAPHS BY ASAKO KANNO

文人趣味WEBサロンで送られてくるお茶は毎回、希少なものばかりで、とても楽しみ。お茶は沖縄ゴザ産の「菊花」。家元のお嬢様手作りのお茶菓子「すり琥珀」の美味しいこと!
PHOTOGRAPHS BY ASAKO KANNO

 ところで、私が最初に送った、あのメールの行方は?
実は、その答え合わせができたのは、ここから1年以上も先、美風流に入門したあとのことでした。

 なんと、私の送ったメールの宛先は、今は全く使われていないアドレスで、もはや誰も見ることができないとのこと。私があまりに検索を深掘りしすぎて、ずいぶん昔の情報までも拾ってしまったようでした。

 あの時WEBサロンに申請していなかったら、永遠にご縁は繋がれなかったかもしれません。何事も、あきらめてはなりませんね(笑)。

 次回は、入門までのお話(3)です。

菅野麻子 ファッション・ディレクター
20代のほとんどをイタリアとイギリスで過ごす。帰国後、数誌のファッション誌でディレクターを務めたのち、独立し、現在はモード誌、カタログなどで活躍。「イタリアを第2の故郷のように思っていましたが、その後インドに夢中になり、南インドに家を借りるまでに。インドも第3の故郷となりました。今は奈良への通い路が大変楽しく、第4の故郷となりそうです」

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