BY NATSUME DATE
昨年2月、オミクロン株が猛威を振るうなかで、アダム・クーパーは厳格な防疫措置を受け入れて来日。あの名作映画を舞台化したミュージカル『雨に唄えば』で当たり役のドン・ロックウッドを演じ踊り、コロナで沈みがちだった日本の観客に、歓喜の雨をもたらした。
英国ロイヤル・バレエ団のスター・ダンサーから、活躍の場を振付や演出、歌って踊るミュージカル俳優へと広げてきたが、今度はなんと、日本で演劇の舞台に立つという。相手役は天海祐希を始め、みな日本語話者だ。いったいどういうこと!?
「6年前から進めてきた企画なんですが、このオファーに魅力を感じた点は3つ。まず、(ダンスやミュージカルではなく)演劇であること。次に、上演場所が日本であること。そして、日本のキャストと舞台に立てるということ。自分にとって新しいチャレンジになる、この3点に惹かれたんです。さらに、ロイヤル・バレエ時代からの長い友人でもあるウィル・タケットが演出を手がける、という安心感も大きかった。まあ現時点でわかっていることは、僕には日本語のせりふも英語のせりふもある、ということくらいですが(笑)、ぜんぜん戸惑いはないですよ。もうワクワクして、今から楽しみでしかたがない」
彼が信頼を寄せるウィル・タケットは、偶然にも4月に新国立劇場バレエのための新作『マクベス』の振付を手がけたばかり。とはいえ、シェイクスピアの戯曲に忠実なストーリー展開だったバレエ版に対して、レイディマクベス=マクベス夫人をタイトルにした演劇版『レイディマクベス』は、かなり大胆かつリアルな設定になっている。
マクベスとレイディマクベスは、ともに戦場で活躍した優秀な軍人同士。愛し合い結婚して、レイディは娘を出産。その後軍に復帰するつもりでいたが、産後に体調を崩したため断念した。一方のマクベスは、国軍司令官として殺戮を繰り返すことへの疑念や、妻からのプレッシャー等で精神的に追いつめられ、塞ぎ込んでいる――。
結婚・出産とキャリアについて、生々しいまでの現実感に満ちた問題提起。これは女性だけでなく、パートナーの男性にとっても切実な内容に違いない。
「もちろんそうです。女性は女性であるというだけで困難を背負っているし、子どもがいると、さらにハードになるという現実がある。英国では、伝統的に『女性はキャリアを築くものではなく、従順なパートナーであるべき』という考え方が浸透していて、その規範にあてはまらない、強い個性や野心を持った女性は、ネガティブに見られる傾向があるんです」
ジェンダーギャップがG7でダントツ最下位のわが国ならともかく、長年にわたって女王が君臨し、女性の首相も珍しくない英国でも、そんな状態だなんて。
「確かに社会の認識は徐々に変わってきてはいるけれど、政治やビジネスの世界で活躍する女性をよく思わないところは、残念ながら変わっていないと思う。男性なら言われないことを、女性だと言われてしまう局面は多々ありますからね」
女性ダンサーが活躍するバレエ界では、さすがにそれはないですよね。
「まあね。でも振付家と演出家は、依然として男性ばかりですよ。クラシック・バレエの作品では女性ダンサーの方がいい役が多いけれど、それは女性が男性を脅かす存在ではない、という前提があるからだと思う。彼女たちは美しい。でも脅威ではないと。
一般的に女性のバレエダンサーには物静かなイメージがあって、自分の意見をあまり言わないと思われているんです。だから、たまにそうではない人が現れると叩かれる。かつてシルヴィ・ギエムが、パリ・オペラ座バレエから英国ロイヤルに活躍の場を移した時(1988年)がそうでした。彼女は自分の意見を持ち、多くの場でそれを明言したので、英国のプレスは彼女を攻撃して、“マダム・ノー”というレッテルを貼ったんですよ。現在は、当時からすれば状況は変わってきているし、変わらなければいけないと、強く思います。だから今回のように、女性の劇作家が女性の視点で描いた『マクベス』は素晴らしいと思う。女性が野心を持つことは悪ではないと、はっきり伝えるという意味でもね」
確かに原作におけるマクベス夫人は野心の持ち主で、それがよいイメージには描かれないことが多い。が、夫と同等の優れた能力とキャリアを持ちながら、出産により自分だけ道を絶たれてしまったという今回の設定なら、彼女の無念とそれを取り返そうとする野望には納得がゆく。そして、夫のマクベスが、戦場で人を殺し続けることに耐えきれず、心を病んで言葉を発さなくなり、表情と身体で想いを訴えるようになるというのも、アダム・クーパーのために用意された展開と察しがつく。
「今回のマクベスには、言葉を使わずに感情を表すという力が求められます。ウィルは僕のことを知り尽くしている振付家・演出家なので、その表現方法については、アイデアを出し合っていくつもり。そう、これはまさしく僕たちの得意分野。It's our world!なんです」
『レイディマクベス』
東京公演
上演期間:2023年10月1日(日)〜11月12日(日)
会場:よみうり大手町ホール
住所:東京都千代田区大手町1-7-1 読売新聞ビル
料金:13,000円(全席指定・税込)
U-25チケット6,500円(観劇時25歳以下対象、要身分証明書)
チケット一般発売:2023年7月15日(土)
チケット取り扱い/TBSチケット、チケットぴあ、ローソンチケット、イープラス、
読売新聞オンラインチケットストア
チケットに関する問合せ先/TBS チケット
京都公演
上演期間:2023年11月16日(木)~11月27日(月)
会場:京都劇場
住所:京都府京都市下京区烏丸通塩小路下ル 京都駅ビル内
料金:S席13,800円、A席12,800円(全席指定・税込)
チケット一般発売:2023年10月1日(日)
チケット取り扱い/チケットぴあ、ローソンチケット、イープラス、
CNプレイガイド、楽天チケット
関する問合せ先/キョードーインフォメーション 電話0570-200-888