BY JUNKO HORIE, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA
9月13日に初演を迎える、舞台『ロミオとジュリエット』。若者の、疾走する激しくもたった5日間の恋の結末を描く名作でロミオを演じるのは、着実にキャリアを重ねている高杉真宙。長年、蜷川幸雄氏の演出助手・演出補として、氏の手掛けるシェイクスピア劇を間近で体感してきた井上尊晶を演出に迎えた本作への意気込みを語った。
── 最近のご活躍はNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』や、CX『わたしのお嫁くん』などで印象強く、映画『東京リベンジャーズ2』シリーズ2作も大ヒットし、勢いが途切れることなくさらに増しているように感じられます。
高杉 ありがとうございます! 自分では、なかなかそういう勢いのようなものを自覚しておらず(笑)。でも、嬉しいです。ドラマ、映画、そして舞台へと、いい流れでお仕事させていただいている実感はあります。
── 高杉さんへ向けられた映画、演劇界の期待をご自身で背負っている感はない?
高杉 期待を……ということは、ないですね(笑)。僕はかなり気楽にやらせてもらっています。背負うのは作品だけで充分かな? それも楽しいですよ。『わたしのお嫁くん』、『東京リベンジャーズ2』だけをとっても、全然違うタイプの役をやらせていただいてますし。
── 幅広い役へ挑戦をされていますが、今後も攻めていきたいですか?
高杉 そもそも、僕の力や希望でいろんな役ができるわけじゃなくて。僕のことをご存知の方、役の特性を理解していらっしゃる方がいて、そこにマッチングがあって初めて、僕のチャンスになる。あくまでも現段階では、ほぼ受け身の仕事で、待つ仕事でもあるんです。だからこそ、こうしていろんな役をいただけることに感謝しかないですよね。
── この秋は、『ロミオとジュリエット』でのロミオ役という、多くの人が知る作品、役でのチャレンジになりますが、高杉さんの演技始めは、舞台ですよね?
高杉 舞台です! やはり演劇をやっていく上で、シェイクスピア作品に触れるのは、重要なことのひとつだと思っているので。演出の(井上)尊晶さん、プロデューサーの堀内(美穂)さんとお話したときは、シェイクスピア作品をするにしても、ロミオ以外にもやるべき役はあるよ、と言っていただいたんですよ。でも、今の僕の年齢で、今の時代に『ロミオとジュリエット』をやることが必要だ、って思いました。
── 確かに、舞台演劇は、映像よりも時代、国籍、年齢を超えやすいとは思いますが、ロミオのひたむきさには、やはり若き役者さんが似合いますね。
高杉 そうですよね。名作だからこそ『ロミオとジュリエット』をベースに現代版にしたりとアレンジした作品も多くありますが、今回は特に、原作を純粋に翻訳したもので、“どストレート”なシェイクスピアへの挑戦になります。シェイクスピアの台詞はかなり詩的なので、伝えたい感情を表現して、お客さんにどれくらい届くのか。それが結構、今は楽しみでもあり、課題でもあるなと。同じ物語でも本で文字として読むのと、音として聴くのは、違うものだと僕は思っているので。
── シェイクスピア劇は、詩を叫ぶようなものでもありますよね。
高杉 ひとりで本読みをし始めたときから、ずっと詩を叫んでいます(笑)。
── 演出の井上尊晶さんは、蜷川幸雄さんの演出助手や演出補として、シェイクスピア作品を作ってきた方ですが、蜷川シェイクスピアの独特で美しい世界観をおそらく受け継いでいらっしゃるだろうと。そこも楽しみです。
高杉 蜷川さんのシェイクスピア、ご覧になってらっしゃるんですよね? 羨ましいです!
── 劇場に足を踏み入れた瞬間から、蜷川演出の香りが漂ってきました。
高杉 セットからだけでも、違う世界観に惹きこむ力があったんでしょうね。
── その世界観の解読は難関ではありましたが(笑)、観客として、そこに挑むのも楽しかったですし、わからないならわからないままのも美徳かなと。
高杉 僕もそれでいいと思うんです。今、わかりやすく伝えようとする表現が多い中で、“わからない”もアリなんじゃないかなと……。“自分にはわからなかった”……ならば、僕はもっとこの作品について調べてみたいな、って思うタイプですね。
── “わかる”以上に、“感じる”に意味がある場合もありますよね。
高杉 だから僕、舞台を観に行くとき、絶対に事前に作品を調べたりしないんですよ。いつも、作品に対して“挑戦”する気持ちで観に行くんです。「今日は何が起こるかわからないけど、とにかくこの作品を劇場に観に来たんだ!」って。そのぶん必死に、何ひとつ漏らさないように観て聴いて……。
── すべては自分の感性で受け止める。脳をフル回転させながら。
高杉 毎回そのチャレンジをしているので、ひとつの作品を観るのにものすごく疲れます(笑)。僕、1作品だけ、蜷川幸雄さん演出の作品を観ることができたんですが……『ファウストの悲劇』だったかな? 当時、10代だった僕は必死に食らいついて観ましたが、本当にわからなかった(笑)。でも、今も感覚で覚えているんです。わかった、面白かったもいいんですが、ナマで受けた衝撃が残るほうが僕は好きで。
── わからないから忘れられない、囚われてしまう魅力もありますね。そこから学んで、自分の知識が舞台作品をきっかけに増えていくのも素敵なことです。
高杉 素敵です。だから、演劇は文化だと思うんです。
──自分で考えたり調べたりして、少し理解できた気になれることがまた、ワクワクしますよね。
高杉 はい。そういうことからしても、演劇はエンタメを超えて、文化を作っていると思うので。だから僕は、演劇が好きなんです。舞台は、時にはお客さんを置いて行ってもいい、って先輩方からお話を聞いたりもして、“そういうのもいいなぁ”って(笑)。
── とある難解で有名な演出家作品を取材したとき、役者さんも「最後までわからなかった」とおっしゃっていて(笑)。その役者さんが演出家に質問したら、「俺もわからない」と言われたとか(笑)。
高杉 アハハハ(笑)。わかればいいっていうものじゃなく、美術や音楽の力も相まって成立するのが演劇の魅力のひとつですよね。僕が出演した『カリギュラ』も、本当に難しくて。台本をめくる1ページの重みがすごかったです(笑)。そんな自分が悔しくて、『カリギュラ』について調べまくりましたね。『カリギュラ』を研究、考察している文章をたくさん読みました。ここについてはこの考察に賛成だな、こっちは僕とは違うと思うな、って。
── シェイクスピア作品の中では、『ロミオとジュリエット』は非常にわかりやすい骨組みの物語ですよね。
高杉 純愛ですよね。そういうの、羨ましいなと思います。
── ただ、“この恋こそすべて”過ぎて、現代の感覚だとぶっとんだ2人でもありますが。
高杉 恋愛って、それくらい心が動かないといけないんだろうなと思います。僕が最近すごく思うのが、映画やドラマ、舞台で心が彩るように、恋愛もそういうものじゃないかと。かつ人を成長させてくれる彩りだなと。ロミオとジュリエットの物語はたった5日間のことですが、純粋に信じ合い、愛し合った2人を羨ましく思いますよ。
── 5日間だからこそ美しい、知らなくていいことも知らずに終わったのかもしれない。
高杉 だって、ジュリエットと出会う前には、ロミオには憧れの年上の女性がいましたからね。2人の長い物語だったら、いろんなひと悶着、もっとありましたよね(笑)。でも、5日間だからこその物語で、それが2人の人生そのものなんでしょうね。そして大なり小なり、人生ってそんなものかな。どこで誰に出会って、何が起こるかわからない。それは現代に生きる僕らにもあり得ることだと思います。
── 高杉さんご自身は、運命的な出会いによって、人生を変えてしまう可能性はある? 恋愛に溺れる?
高杉 可能性で言えば、あるんじゃないですか?(笑) あらゆる可能性がゼロじゃないからこそ、恋愛って客観視しづらいものなんじゃないかと思いますね。
── 携帯電話の普及で、すれ違いが描きにくくなり、恋愛ドラマに重要な枷がひとつなくなったと聞きました。ただ、高杉さんのように多くの人に知られる人気者であることは、現代における恋愛の枷かもしれないですね。
高杉 ……そうか。そうかもしれないですね。僕もジュリエット探さなきゃ!(笑)
── 今は、『ロミオとジュリエット』で体感していただくことにして。
高杉 まずは役として味わってみようと思います。「ちょっと待って! もっと他にやれることあるじゃん!? そんなにジュリエットに対して盲目なの!?」って。あと、「もう数分待てたら違ったよ!!」って(笑)。
── 現代人には、“ちょっと待て!”って思えることも、演出と役者さんの魅力で成立させ、涙を溢れさせるのも『ロミオとジュリエット』の魅力ですね。
高杉 確かにそうですね。お客さんに納得していただけるものにできたらいいな。僕は、この作品はただの悲劇だとは思ってなくて。笑えるなと思うところもあるんですよ。心を動かしながら、楽しんで演じたいですね。とりあえず、毎日、祈りを捧げてみようかなと思います。
── 最前線の映像でご活躍中だけに、高杉さんにとって「舞台で演じる」こととは?
高杉 できることしか、できない。だから好きですね。
── なるほど。あとから編集、付け足しとかできないナマモノですもんね。
高杉 はい。その道のプロのスタッフさんの力もお借りして、映像技術で作品も役も出来上がるのは映像の魅力なんです。だから、何でもできたりする。けど、舞台は本番が始まったら、出演者とお客さんとで作り上げる世界。ごまかしも効かない、その純粋な協力体制で成り立つ関係性が僕は好きですね。今の自分にできる全てを、見直すきっかけにもなるのが舞台だと思います。
高杉真宙(たかすぎ・まひろ)
1996年7月4日生まれ、福岡県出身。2009年より活動をはじめ、2012年には映画「カルテット!」で初主演を務める。2014年、映画「ぼんとリンちゃん」で第36回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞。近年の主な出演作に【舞台】『カリギュラ』(演出:栗山民也)、『ライフ・イン・ザ・シアター』(演出:千葉哲也)、【TV】「PICU 小児集中治療室」(CX)、「舞いあがれ!」(NHK)、「わたしのお嫁くん」(CX)、【映画】「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編」など。2024年大河ドラマ「光る君へ」(NHK)に出演予定。