2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では三浦義村を演じ、大きな話題を呼んだ山本耕史。確かな歌唱力とダンスの実力を備えた彼が、“幻の浅草芸人”を演じる注目の舞台が開幕した

BY SHION YAMASHITA, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA

画像1: 山本耕史がレジェンド役に挑む
ーー運命に導かれて出会った
浅草の師弟の物語

 ビートたけしの青春を綴った自伝小説「浅草キッド」は、1988年、2002年にドラマ化され、2021年にはNetflixで映画化されて話題となった作品。今回、初となる舞台化は深い洞察力で人物を描き、心を打つ台詞で観客を魅了する福原充則が脚本・演出を手がけ、音楽劇として上演される。
 山本耕史が本作で演じるのは、ビートたけしの師匠・深見千三郎。長い経歴の中で作品の要となるさまざまな役柄を体現してきた彼は、この人物を通してどんな物語を見せてくれるのだろうか。

──『浅草キッド』の舞台作品にはどのような世界が描かれていますか?

 今回の舞台では、ビートたけしさんがまだ無名だったときから「オレたちひょうきん族」が流行り始めた頃まで、皆さんの記憶がまだ色褪せていないギリギリのところが描かれています。小さな世界観の中に、切なさがより切なかったり、手に届かないものがより届かなかったりといったことや長屋暮らしのような人と人との近しい距離感みたいなことが表現されているように思います。そしてムード歌謡やネオン街など、まだ子どもだった僕でさえも“あの頃って懐かしいな”と思える、誰しもが抱く明確な昭和の雰囲気みたいなものが作品の中に散りばめられているんです。
 当時は今よりも男尊女卑の傾向があって、“下品”な要素が強調されやすく、この時代を描くのであれば外せないところなんですが、そこをえぐったとしても今の時代の人が観た時にいい気はしないので必要ないかなと思って、初稿のときには僕からも指摘させてもらいました。決定稿にはそういう要素がなく、非常に品のある下品さが表現されていました。

──深見千三郎という人物をどのように捉えていますか?

 深見さんにはお目にかかったことがないので、僕は自分の想像で演じることができます。台本からの印象ですが、深見さんって、“いなせ”で“ナウイ”感じなのではないでしょうか?「うるせーよ」とか、話し方も丁寧ではないんですが、そう話す後ろ姿、その背中が格好いい。そういうイメージが出来上がっている感じがするので、その雰囲気を出せたらいいと思います。

──ご自身にとって“師匠”とはどんな方でしょうか?思い浮かぶ方がいらしたら教えてください。

 僕は“師匠”って、一人ではないと思うんです。この分野の師匠はこの方、あの分野の師匠はあの方というふうに、それぞれの分野に師匠がいるような気がしています。広く言えば親とか、あるいは妻や子どもにも、ある意味、師匠という面があると思います。
 僕が演じる深見さんも、僕の中で師匠という存在として何か感じるものがあります。こうして“師匠とは”ということを改めて考えてみると、師匠である深見さんがいたからこそ今のたけしさんがあるのではないかと思うんです。そういう意味で、もしかしたら、たけしさんを演じる林(遣都)くんよりも僕の方がたけしさんっぽく、寄せていった方がいいのかもしれないと考えています。なので、今の僕にとっての師匠は、まさに深見千三郎さんですね。

──師匠にとって、弟子とはどのような存在なのでしょうか?

 弟子に対して「お前は俺の弟子だ」という師匠はあまりいない気がしていて、弟子から師匠って呼ばれるから、必然的に師弟関係というものは成立するのではないでしょうか。ですから「今日から俺の弟子になれ」っていう師匠は、大したことがないんじゃないかと思うんです(笑)。自分は「もういいよ」って言っているのに「師匠!」ってついてくる人がいる、それが言うなれば“師匠と弟子”の世界なんだと思うんです。本作の会見で(松下)優也くんが、「師匠はコウジヤマモト」って言ってくれましたが、僕は彼と改まって師弟関係を結んだ事はありません(笑)。だけど、彼が僕を師匠と呼んでくれた時点で形式的には師弟関係という構図が成立しているのかな、と思うんですよね。
 今は、師弟という関係がなかなかない時代ではあるので、この作品を見て“これはこれでいいかな”って思っていただけたらいいですね。人を思いやることで距離感が少し離れることもあるし、近くにいて時にはちょっと踏み込んでしまうという人間らしさもあるので、作品を通してそういうことが伝わるといいなと思います。

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ーー運命に導かれて出会った
浅草の師弟の物語

──北野武役の林遣都さんとは初共演されますが、どんな印象をお持ちですか?

 林くんの活躍はもちろん見ていますし、すごくいい俳優さんだなと思っています。『浅草キッド』でご一緒するのが初めてだということが意外だと思うくらい、どこかで共演した気もしていましたが、やっぱり初めてでした。こういう師弟関係の作品で出会うということにも何か一つの縁を感じます。
 先日、初めて本読みをしたんですが、たけしさんとは風貌も全然違うのに、たけしさんの若い頃だと感じさせる何かがありました。立っている姿を見ているだけで、すでに面白いし、見応えがありました。僕は、演者が舞台に立っただけで何もしなくてもある程度できあがると思っているんですが、彼が台本を読み始めただけでぱーっとシーンを目で追えるような感じがしました。そのシーンがすでに出来上がっているということなので、これから稽古が進んでいくと、さらにステップアップしていく俳優さんなんだなと思いました。

 

画像: 山本耕史(YAMAMOTO KOJI) 1982年、東京都生まれ。87年『レ・ミゼラブル』の日本初演の少年革命家・ガブローシュ役で舞台デビューし、注目を集める。98年にはブロードウェイミュージカル『RENT』の日本初演で主演のマーク役を21歳で務める。主なドラマ出演作にはフジテレビ『ひとつ屋根の下』をはじめNHK大河ドラマ『新選組!』『平清盛』『真田丸』『鎌倉殿の13人』など多数。幅広く活躍する実力派俳優

山本耕史(YAMAMOTO KOJI)
1982年、東京都生まれ。87年『レ・ミゼラブル』の日本初演の少年革命家・ガブローシュ役で舞台デビューし、注目を集める。98年にはブロードウェイミュージカル『RENT』の日本初演で主演のマーク役を21歳で務める。主なドラマ出演作にはフジテレビ『ひとつ屋根の下』をはじめNHK大河ドラマ『新選組!』『平清盛』『真田丸』『鎌倉殿の13人』など多数。幅広く活躍する実力派俳優

──人を“笑わせる“ことには、どのようなお考えがありますか?

 僕は喜劇俳優という括りの俳優ではないので、“笑い”をそれほど語れるわけではありませんが、“人を笑わせるのは難しい”とはよく言われていますし、確かにそう思うところもあります。“笑わせる”、“笑われる”はもちろん違いますが、笑われた方が救いになることもあるし、笑わせようとしすぎると全く笑われないこともあります。
 深見さんの時代の方や、芸人として活動している人は“笑わせる”ことにフォーカスしている印象はありますね。しかし僕が役を演じるときは、人を笑わせるのではなく、自分が面白いと思うことを演ることにしています。僕はたとえ滑ったとしても、自分にとって面白いことを演るほうが、しっくりくるんですよね。
 以前、NHKのドラマで植木等さんを演じたことがありましたが、あのような役を演じる機会をいただいたことで、“笑い”というものにストイックに向き合っている喜劇俳優や芸人の方は、すごく過酷なのだろうと思いました。しかし同時に、観客の笑いによってその苦労がすべて報われるのだということも感じました。

──本作は音楽劇と銘打っていますが、音楽劇とミュージカルはどう違うのでしょうか?

 “音楽劇”と“ミュージカル”の違いって、わかりづらいですよね。会見でも今野(浩喜)さんが“ミュージカルの食わず嫌い”について触れていましたが、ミュージカルに対して“普通に話せばいいのに、どうして突然歌い出すのか?”というイメージって、誰にでもあるんじゃないかなと思うんですよ。歌わずに普通に話せばすぐに終わるのにと思うシーンもいっぱいあるじゃないですか(笑)
 僕は基本的には同じだけど、どう呼ぶかということなのかなと思います。例えば「ロックミュージカル」と呼ぶか、「ロックオペラ」と呼ぶか、あるいは「ストレートプレイ」と呼ぶか「演劇」と呼ぶかというだけのこと。強いて区別するならば、全部が歌で台詞がないのがクラシカルな“ミュージカル”で、お芝居の中に音楽が断片的に入るのが“音楽劇”だと思います。

──音楽劇である本作ではメインテーマとしてビートたけし作詞・作曲の名曲「浅草キッド」が使われるそうですが、ほかにはどんなオリジナルの楽曲が披露されるのですか?

 ポップで昭和歌謡みたいな曲もあれば、ジャズもあって、音楽的に楽しい曲がたくさん使われています。パッと聴いて格好いいと思うような曲や、どこかで聴いたことがあるような懐かしい感じの曲もあります。曲の世界観が時代背景とうまく合わさっているんです。聴いただけで、すぐにリズムが刻めたり、口ずさめたりする素晴らしい曲ばかりなので、ミュージカル嫌いな方にも楽しんでいただけると思います。

画像3: 山本耕史がレジェンド役に挑む
ーー運命に導かれて出会った
浅草の師弟の物語

──本作は“やることが多い”作品だそうですが、どんなことが求められるのでしょうか?

 音楽劇なので、歌ってお芝居するというだけでストレートプレイよりはやることが多いですし、いわゆるコントというか、劇中劇もあり、さらにタップダンスもあります。大体、ミュージカルでも歌ってお芝居するくらいなので、いつもよりやることは多いです。
 タップダンスは「こういう振りがつきます」といって、稽古初日に振りをつけていただいたんですが、そのときはトントンとかタンタタンとか、わりとゆったりとしたスピードだったので“これならできる”って、なんとなくわかった気でいました。ところが「では音楽でいきます」と合わせる曲が流れたら、最初の倍くらいのスピードで、自分ができると思ったトントンとタンタタンとはまったく違っていて、そんなに速かったのかと、話が違いすぎると思いました(笑)。でもこの思い出をいったん引き出しにしまって、稽古を重ねたいと思います。そして、このダンスができるようになったときは、僕が最初に曲合わせで受けた衝撃をお客さんに味わっていただけるのではないでしょうか。
 物事が上手くなるときのコツは、一つ一つを切り取ってゆっくりやっていくこと。そうすると、こういうことなのかと次第にわかっていって、ある瞬間にすっとできるようになるんです。その瞬間に辿り着くまでにどういう作業が必要なのかを考えて、立ち向かっている。簡単なものよりも、「コレできる?」っていうぐらいの方が挑戦しがいがありますし、達成感が得られます。今は稽古期間なので、そのど真ん中にいるという感じです。

──『浅草キッド』を舞台化することにはどんな意味がありますか?

 本読みをしたときに思いましたが、これはとても舞台に向いている作品です。演出の福原充則さんと音楽の益田トッシュさんの世界観が、「浅草キッド」にものすごく合致したんだと思います。福原さんの代表作になるのではないでしょうか。
 舞台の設定がフランス座なので、当時お客さんの前で演っていたことを劇中劇として演るんだから、一番しっくりくるんじゃないかなと思います。映像だと画面の中にいるお客さんを見ることになりますが、舞台であれば、実際に現場でコントを観ているのでその世界にどっぷり入り込めて、『浅草キッド』という舞台を観に来ているのと同時に、フランス座の中でフランス座の公演を観ているという瞬間も味わえると思います。だからいろんなことを体感できますね。 
 また、今回は主要メンバーだけでなく、そのほかの出演者の方それぞれが存在感を放つので、ある意味、僕たちがその世界観に埋もれるんです。主要メンバーを引き立てるのではなく、一人一人がすごく際立っているので、僕たちもそこを突き抜けることにやりがいがあります。一人一人を見て、一人一人の声が聞けて、一人一人の存在感を感じられるという群像劇の豊かさを、観客の皆さんが一緒に体感できるような気がするんです。期待している以上の良いものがきっとできると思います。

STYLED BY TOM KASAI, HAIR & MAKEUP BY KAZUHIKO NISHIOKA 

音楽劇『浅草キッド』

東京公演
会場:明治座
上演期間:2023年10月8日(日)〜22日(日)
問い合わせ:明治座チケットセンター
TEL. 03-3666-6666(10:00〜17:00)

大阪公演
会場:新歌舞伎座
上演期間:2023年10月30日(月)〜11月5日(日)
問い合わせ:新歌舞伎座テレホン予約センター
TEL. 06-7730-2222(10:00〜16:00)

愛知公演
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
上演期間:2023年11月25日(土)、26日(日)
問い合わせ:キョードー東海
TEL. 052-972-7466(月曜〜金曜12:00〜18:00、土曜10:00〜13:00)

原作:ビートたけし
脚本・演出:福原充則
音楽・音楽監督:益田トッシュ
出演:林遣都、松下優也、今野浩喜、稲葉友、森永悠希、紺野まひる、あめくみちこ、山本耕史ほか

画像: COURTESY OF KANSAI TV

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