発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための今月の新作を厳選!

BY REIKO KUBO

テニスを通してぶつかり合う、スリリングな愛のゲームが観客の価値観を揺さぶる『チャレンジャーズ』

画像: 主演は、若手実力派の地位を確立したゼンデイヤ(写真右) ©2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.

主演は、若手実力派の地位を確立したゼンデイヤ(写真右)

©2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.

『君の名前で僕を呼んで』の監督ルカ・グァダニーノと、『デューン 砂の惑星』など話題作への出演が続くゼンデイヤが強力タッグを組んだ『チャレンジャーズ』。本作は、テニスのランキング下位選手の登竜門的な大会”チャレンジャー”の決勝戦に挑むパトリックとアートが睨み合う姿で幕を開ける。そこから13年前へと遡る。同じテニススクール出身のルームメイトであるパトリックとアートは、ファイヤー&アイスと呼ばれるダブルスのペア。そんな二人が10代でグランドスラムの女王として君臨するタシ・ダンカン(ゼンデイヤ)と出会い、魅了される。3人が繰り出した夜の浜辺で、タシは二人に向かって言い放つ。 “テニスが楽しい自己表現だと? あなたたちはテニスをわかっていない。本当のテニスとはリレーションシップ。ボールを交わしながら相手を深く理解し、やがて二人で美しい世界へ至るの” 。この台詞が、トレント・レズナーとアッティカス・ロスによる劇伴を超えたダンサブルなサウンドと絡み合う激しいラリー、そして13年にわたる愛と欲望のトライアングルの中で響き続ける。やがて二人が至る美しい世界とは──!?

画像: パトリック役のジョシュ・オコナー(写真右)、アート役のマイク・フェイスト(写真左)も、余すところなく存在感を発揮 ©2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.

パトリック役のジョシュ・オコナー(写真右)、アート役のマイク・フェイスト(写真左)も、余すところなく存在感を発揮

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 ゼンデイヤ演じるセクシーかつストイックなタシを求め合うパトリックには、ドラマ『ザ・クラウン』でのチャールズ皇太子役や『墓泥棒と失われた女神』(7月19日公開)に出演のジョシュ・オコナー。アートには、『ウエスト・サイド・ストーリー』のリフ役で注目を浴びたマイク・フェイスト。3人の内面を浮かび上がらせる衣装を担当したのは、「ロエベ」や自らのブランド「JWアンダーソン」を手がけるジョナサン・アンダーソン。そしてこのスリリングな物語を書き上げた脚本家のジャスティン・クリツケスは、今年のアカデミー賞にノミネートされた『パスト ライブス/再会』の監督セリーヌ・ソンの夫であり、『パスト~』で描かれた三角関係のモデルの一人であるというのも興味深い。

画像: 映画『チャレンジャーズ』予告編 絶賛公開中 youtu.be

映画『チャレンジャーズ』予告編 絶賛公開中

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『チャレンジャーズ』
絶賛公開中
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『サイドウェイ』の名匠と俳優コンビが再タッグ!孤独なクリスマスに心が触れ合う『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

画像: 主演のポール・ジアマッティ(中央)は『サイドウェイ』(2004年)の演技で数々の映画賞を受賞した実力派 Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

主演のポール・ジアマッティ(中央)は『サイドウェイ』(2004年)の演技で数々の映画賞を受賞した実力派

Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

『サイドウェイ』(2004年)の監督アレクサンダー・ペインと、名優ポール・ジアマッティのコンビで再び今年のアカデミー賞を沸かせた話題作。舞台は1970年代。ボストン近郊の名門寄宿学校で古代史を教える教師ハナムは、堅物の嫌われ者。そんな彼が、クリスマスに家族のもとへ帰れない子供たちの指導教官を命じられる。「再婚相手と2人きりにして」と、母からカリブ海旅行の同行を断られたアンガスのほか、韓国からの留学生や宗教活動で両親不在の下級生など、総勢5人がハナムのもとに。ところがアンガス以外の学生は、父親がヘリコプターで迎えにきた金持ちの生徒に誘われてスキー・バカンスに行ってしまい、親と連絡が取れないアンガスひとりだけが残される。家族が集うクリスマス休暇に独りぼっちのハナムとアンガス、そして食堂の料理長メアリーが、寒々しい学校に“ホールドオーバー(残留)”することに。

 天涯孤独で、甘やかされた金持ち学生たちに反感を抱くハナム。大人びて反抗的な表情に家庭の問題や悩みを隠したアンガス。女手ひとつで育てた一人息子をベトナム戦争で亡くしたばかりのメアリー。愛想の悪い3人が他者の孤独を知り、心の傷に触れることで、少しずつ互いの距離を縮めてゆき……。

画像: メアリーを演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフ(中央)は、本作の演技でアカデミー賞助演女優賞を獲得 Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

メアリーを演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフ(中央)は、本作の演技でアカデミー賞助演女優賞を獲得

Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

 人はいくつになっても欠点や不満を抱え、平静を装った顔の下で怒ったり、葛藤したりしているが、人の痛みを知ることで見える景色が変わってゆく。監督アレクサンダー・ペインは、そんな厄介な心の機微を積み重ね、切なくもほろ苦い人間讃歌を紡ぐ名手だ。名優ジアマッティ演じるラストの旅立ちに胸震わされるドラマの中、アンガス役の新星ドミニク・セッサ、そしてアカデミー賞助演女優賞に輝いたダヴァイン・ジョイ・ランドルフのアンサンブルも光る。

画像: <6/21(金)公開>映画『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』90秒予告 youtu.be

<6/21(金)公開>映画『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』90秒予告

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『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
6月21日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
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韓国の鬼才ホン・サンス監督が想像力を掻き立てる、悩める男のタイムループ『WALK UP』

画像: 主演のクォン・へヒョは『冬のソナタ』のキム次長役をはじめ、数々の韓国映画&ドラマで幅広く活躍 © 2022 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED.

主演のクォン・へヒョは『冬のソナタ』のキム次長役をはじめ、数々の韓国映画&ドラマで幅広く活躍

© 2022 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED. 

 ミニマムなスタッフや常連俳優たちとハイペースで監督作を生み出し続ける韓国の鬼才、ホン・サンス。その長編第28作目となるのは、ホン・サンス映画の顔であるクォン・へヒョや、『あなたの顔の前に』のイ・ヘヨンらが共演の『WALK UP』。映画監督のビョンス(クォン・へヒョ)が娘ジョンスを伴って、インテリア・デザイナーのヘオクが所有するアパートを訪ねるところから始まる4章立ての物語だ。1階のレストランでの食事後、ヘオクは親子に4階建ての各フロアを案内する。別居中の妻と暮らしている娘・ジョンスからは「臆病者でまるで子ども」と低評価なビョンスだが、ヘオクは有名監督の彼を褒めちぎり、「近いうちに部屋が空くから、家賃半額でいいので越してきて」と誘う。

画像: 思うように映画が撮れずにいる映画監督と4人の女たちが繰り広げるモノクロームの世界が、想像力を刺激する © 2022 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED.

思うように映画が撮れずにいる映画監督と4人の女たちが繰り広げるモノクロームの世界が、想像力を刺激する

© 2022 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED. 

 時間が少し経過したらしい第2章では、ビョンスが久しぶりにヘオクを訪ねる。1階のレストランのシェフ、ソニが料理教室を主催する2階の部屋で、彼女を交えてワインを酌み交わす。ビョンスの大ファンだというソニは、「実物も素敵です!」と瞳を輝かせる。3階で繰り広げられる次章では、ビョンスとソニは同棲中だが、二人の間には早くもすきま風が吹いている。レストラン経営が苦しいソニは、映画が撮れないビョンスの戯言に付き合っていられないという様子。郵便を届けに来るヘオクの態度も冷ややかだ。最終章のビョンスは4階で休業生活を続けているが、小金持ちの新恋人が肉や焼酎持参でやってくる毎日。大家のヘオクはますます辛辣になった。

 エピローグでは、時は第1章に巻き戻る。果たしてこれは階段を“walk up”したら?と思いめぐらせたジョンスの妄想なのか。現実と理想、自信とその喪失、憧れ、心変わり、宗教、病……。韓国のエリック・ロメールと異名を取るホン・サンスの教訓話的一編は、美しいモノクロームの中、リアルな会話と沈黙の妙が際立つ。

画像: 映画『WALK UP』予告編|2024年6月28日(金)公開 youtu.be

映画『WALK UP』予告編|2024年6月28日(金)公開

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『WALK UP』
6月28日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、
Strangerほか全国順次公開
公式サイトはこちら

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