日本における韓流ブームの立役者で韓流エンタメのスペシャリストである田代親世さんが、韓国ドラマの魅力をさまざまな切り口でご紹介!今回は、現代ではない時代を背景に、芸に生きる女性たちの姿を描いたドラマをセレクト。芸事に打ち込む姿は、見る者の心を大きく揺さぶる。

TEXT BY CHIKAYO TASHIRO

'50年代に存在した国劇団での成長物語
『ジョンニョン:スター誕生』

 ウェブ漫画が原作の、1950年代に存在した女性ばかりの国劇団でスターを目指す女性の姿を描く物語です。田舎町で魚を売って商いをしていた少女が、実はパンソリ(朝鮮の伝統的民俗芸能)の天才で、歌劇団のスターに見いだされて国劇の世界に足を踏み入れ成長していきます。

画像: ジョンニョン役のキム・テリ。ⓒ 2024 STUDIO DRAGON CORPORATION & CJ ENM Co., Ltd.

ジョンニョン役のキム・テリ。ⓒ 2024 STUDIO DRAGON CORPORATION & CJ ENM Co., Ltd.

 歌が得意というだけで何も知らずに入団し、そこからライバルたちと競いながら芸に磨きをかけていくのですが、天才だけに、集中しすぎて尋常じゃなく役に入り込みすぎたり、舞台全部を飲み込んでしまうような舞台荒らし的な部分があったり、荒削りだけど目を離せない魅力があって、そんな姿はまるで日本の大人気漫画「ガラスの仮面」の北島マヤのようです。そして相対するライバルには、歌に演技に踊りにすべてうまいのに、有名なソプラノ歌手の母親に認めてもらえずどこかにコンプレックスを抱えている存在がいて、この2人の、最初は反発しあうも、芸の上ではお互いのことをリスペクトしていくようになる関係性がまたいいのです。

画像: ムン・オッキョン役のチョン・ウンチェ。ⓒ 2024 STUDIO DRAGON CORPORATION & CJ ENM Co., Ltd.

ムン・オッキョン役のチョン・ウンチェ。ⓒ 2024 STUDIO DRAGON CORPORATION & CJ ENM Co., Ltd.

 主人公ジョンニョンを演じるキム・テリの溢れる生命エネルギーが圧巻! パンソリという伝統歌唱の天才役だけに、3年間歌の勉強に励んで挑んだそうで、劇中でそれはもう見事な歌を聞かせてくれています。恋愛対象の男性が出てくるわけではないですが、ジョンニョンに目をかける歌劇団の王子役のチョン・ウンチェの男装の麗人っぷりがなまめかしくて、これまた素敵です。劇中劇で「春香伝」や「自鳴鼓」など国劇の舞台がいくつか出てくるのですが、この舞台も韓国の文化を体感するうえで大きな見どころになっています。夢に向かって試練を乗り越え、切実に生きる人物たちの胸が熱くなるドラマです。

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実在した妓生のドラマチックな人生
『ファン・ジニ』

 このドラマは16世紀、朝鮮随一の妓生(キーセン)として名をはせた、実在したファン・ジニのドラマチックな人生を描いた作品です。“酒席で男性の相手をする女”という妓生のイメージを完全に脱し、このドラマでは、詩の才能に秀で、優れた踊りで多くの人々を魅了し、執念ともいうべき芸への情熱を注いだ1人の芸術家としてのファン・ジニの生き様が描かれていきます。

画像: ファン・ジニ役のハ・ジウォン。Licensed by KBS Media Ltd. © KBS. All rights reserved

ファン・ジニ役のハ・ジウォン。Licensed by KBS Media Ltd. © KBS. All rights reserved

 芸ごとに魅せられた少女が、その情熱で才能を磨き、2つの大きな愛を体験しながら、師匠との愛憎入り乱れた葛藤を繰り広げます。私は芸に生きる人の厳しさが好きなので、ファン・ジニの師匠が芸妓の心得を説くセリフの一つ一つがツボで、風雅で珠玉のせりふの数々には胸が高鳴りました。ファン・ジニとそのライバル、そしてそれぞれの師匠たちのライバル関係も交えて、全身全霊を芸に捧げて生きている女たちの凄味、気迫に圧倒されます。

画像: ファン・ジニの初恋の相手役を演じたチャン・グンソク(一番右)。Licensed by KBS Media Ltd. © KBS. All rights reserved

ファン・ジニの初恋の相手役を演じたチャン・グンソク(一番右)。Licensed by KBS Media Ltd. © KBS. All rights reserved

 そしてファン・ジニを取り巻く男たち、初恋の相手を演じたチャン・グンソクのピュアなすがすがしさと、大人の恋を結ぶキム・ジェウォンの愛のかたちが、好対照で面白いんです。個人的にはキム・ジェウォンが演じたキム・ジョンハンの、女性の才能の成就のために、自分を犠牲にし、必死に気持ちを抑え、押し付けがましくなく、一歩引きながらも相手を深く想っている姿が良かったです。見ていて熱い感動がこみ上げてくる、そしてものの哀れを感じさせるような、非常に見ごたえのある傑作です。

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朝鮮時代の2人の天才画家の運命を描く
『風の絵師』

 18世紀、イ・サンこと正祖の時代、キム・ホンドとシン・ユンボクという朝鮮後期最高の画家として知られる実在の2人を主人公に、シン・ユンボクは実は女性だったという大胆奇抜な発想で描き出した同名のベストセラー小説のドラマ化です。歴史的な実在人物たちのビハインドストーリーをミステリーとして構成し、“ファクション推理時代劇”という独特なジャンルを誕生させた作品でもあります。

画像: シン・ユンボク役のムン・グニョン(左)とキム・ホンド役のパク・シニャン(右)。©SBS

シン・ユンボク役のムン・グニョン(左)とキム・ホンド役のパク・シニャン(右)。©SBS

 シン・ユンボクは父親の死の真相を明かすために、男装して宮廷の絵師となるのですが、男としても女としても生きられない悲しみを背負った人物として表現され、そんなユンボクが、絵を描くとはどういうことなのかを師匠のキム・ホンドを通じて学び取っていく芸術家としての成長物語が描かれます。一枚の絵によって秘めた情事が暴かれそうになったり、王の肖像画を巡って改革派と保守派の権力争いがおこったり、事件の中心にはすべて絵が存在し、それをさらに絵で解決していく構成が巧みです。

画像: シン・ユンボク役のムン・グニョン。©SBS

シン・ユンボク役のムン・グニョン。©SBS

 こんな風に現存する2人が残した名画の数々に、想像を膨らませたエピソードをフィクションで作り上げ、ストーリーの中に見事に溶け込ませてドラマチックな物語に仕上げていく手腕が素晴らしいです。師匠と弟子でありながら、互いの命を投げ出さんばかりの2人の天才画家の魂の交流と共感。そして一枚の絵から立ち上ってくる描き手の情熱と思い。ドラマの中で数々の名画を鑑賞する醍醐味もあり、その素晴らしさに心打たれながらも、風雅の漂う、秘めやかな恋しさが募る作品です。

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田代親世 韓流ナビゲーター 
韓流解説、韓流イベント司会の第一人者。公式サイト「田代親世の韓国エンタメナビゲート」やYoutube「ちかちゃんねる☆韓流本舗」「韓ドラ・マスター親世と尚子の感想語り」などで韓流情報を発信しているほか、会員制のコミュニティ【韓流ライフナビ】を主宰。ツアーやイベントを企画・開催している。


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