黒澤明の名作『醉いどれ天使』に主演として挑む北山宏光。新たな一歩を踏み出した彼のもとに届いたオファーは、俳優としての覚悟を揺さぶった。「超えていく」――その決意の裏側に迫る。

BY JUNKO HORIE, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA

画像1: 北山宏光が舞台主演に挑む!
黒澤明の名作『醉いどれ天使』
俳優としての覚悟と現在地――

――黒澤明×三船敏郎、初タッグの名作『醉いどれ天使』の舞台版で主演を務めるというお話が決まったときの心情をお聞かせください。

北山宏光(以下、北山) 2年前くらいにお話をいただきました。ちょうど僕の仕事の環境的にも慌ただしく新たなスタートを切った頃で、確か、いちばん最初にいただいたお仕事だったと思います。そんなご縁を感じましたし、作品も知っていたし……。僕、『羅生門』とか『七人の侍』とか、“黒澤映画を観よう!”っていう時期があったんですよ。『醉いどれ天使』はしっかりと観てはいなかったんですが、タイトルは記憶に残っていました。改めて拝見したら、なんて無骨な、ちゃんと人が生きていると感じさせる物語なんだと。そんな作品がこのタイミングで僕に舞い込んできたということに、本当にご縁を感じました。“俺、あんな骨太な感じじゃないけど、大丈夫かな?”と思いましたけど(笑)。

――いやいや、北山さんは漢気ある方だと認識しております。

北山 でも、なんといっても映画は三船さんですし、それに比べたら僕はライン的に弱いかもと(笑)。お話をいただいたことは素直に嬉しかったんですが、その分、自分はちゃんと応えられるかな……って。そんなふうに弱気になると同時に、“そこ、超えていかなきゃダメだろ!”って自分を鼓舞しましたね。

――腹を決めてから、実際に動きだすまでは十分に時間はありましたか?

北山 ツアーやドラマなど、ほかのお仕事もありましたから。自分の中で切り替えて、『醉いどれ天使』に向き合えたのは今年の9月ぐらいですね。いただいていた台本を改めて読み返して、キャストが生きていると思いました。想像してみて、どの役も言わなそうな台詞というものがない。無理がなく、ちゃんと生きている台本なんだなと。

――動きも見えましたか?

北山 躍動感を感じました。文章として読んでも動きが感じられて、すごく納得できる本だったんですよね。

――台本、拝見しましたが、本当にそこで人が生活しているような情景、日常が浮かびました。

北山 何なんだろう……嘘がない感じ、というのかな。日常が見えますよね。とは言え舞台だから。舞台作品としてきちんと咀嚼してやっていきたいと思いますね。

画像2: 北山宏光が舞台主演に挑む!
黒澤明の名作『醉いどれ天使』
俳優としての覚悟と現在地――

――北山さんが演じる松永は、敗戦後の東京で、帰る場所を失った人々が流れ着く闇市の顔役。多くを背負っている男ですね。

北山 最初、渡辺(大)くんと稽古場に入って、“せーの!ドン”で一緒に動き出した(笑)。

――渡辺大さん演じる真田は、闇市界隈の人々を診る町医者。酒に溺れ口は悪いが、心根は優しく一流の腕の持ち主。

北山 稽古への入り方はいろいろあるんですけどね。それぞれの役を個々に細かく読み解いてから合わせたりするときもあるし。『醉いどれ天使』も作品としての歴史と、戦争と戦後の闇市の歴史と、そんな勉強会が先にあってね。で、本読みして、“せーの!ドン”(笑)。

――“せーの!ドン”で入れましたか?

北山 基本的にはスッと入れたかな?“大ちゃん、そっちいくんだー”“じゃ俺、こうするねー”みたいな。“こっちの絵のほうがカッコよくないっすかー”“じゃあ、そうしよっか”と、フレキシブルにやれました。

――自分で作っていったものでスッと入ったわけじゃなく、やはり相手あってこそ?

北山 そう……結局、自分である程度作っていっても、ほかのキャストさんがそれぞれに肉付けしてくるから、その肉付けによって僕が考えていた松永も変わってくる。深作(健太)さんの演出は台本に加え、サブテキストがあって。そこにもいろいろ手がかりがあるから、自分ではザックリとしか決めないですね。それは、作品とかその形態によりますけどね。自分はこう作ってきました、って明確に提示するほうがいい場合もある。今回は毎回、稽古のたびに変わっていくようで、松永の本質、根っこの部分は変わらない、という感じかな。あとは、戦後の闇市という、おそらく騒がしい空間のなかで、どう声を出すか。ある部分は、つか(こうへい)さん舞台のような声の大きさでもいいし、また違う部分では、現代劇のようでもいい。物語全体のなかで、その声のバランスを選択していけばいいだろうなと思っています。

画像3: 北山宏光が舞台主演に挑む!
黒澤明の名作『醉いどれ天使』
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――北山さんが現時点で捉えている、松永の本質とは?

北山 想像するに、幼少期の松永は泣き虫で。だけど、戦後という時代を生き抜くために強くならなきゃいけなかったんだろうな。それでどんどん反社会的な道へと歩んでいく。恵まれた時代なら、ごく普通の男だったんじゃないかと思うんですよ。でも、強くならなきゃ、グレていかなきゃ生きていけなかった時代なんですよね。松永はグレていったけど、ちゃんと芯に人を束ねる強さと優しさがある。

――やりたいことがある、けれど、それは簡単には叶わない…それは現代の私たちにも通じる、共感できるようなシーンもありますね。

北山 そう。そういう意味でも、実は松永は根本的には普通の男なんですよね。

――黒澤明作品については? 意識的に観ていた時期があったということですが。

北山 もちろん作品的な凄さは皆さんご存じのこととして、『羅生門』でもそこがめちゃくちゃ印象に残っているんだけど、ぬかるんだ雨の中での馬術、ヤバくない!?(笑)と。あの時代、どうやってあそこまでの雨を降らせているのか、そして、そこで馬に乗る俳優さんたちの馬術の上手さよ!“これ、どうやって撮ってるんだよ?”という興味で、黒澤映画にハマっていくうちに、内容の凄さも自然と入ってきましたね。

――北山さんは、作り手でもありますもんね。

北山 そういう興味もありますね。撮る人、つまり作り手がどう撮りたいか。それを演じる俳優が理解するってすごく大事だと思うんです。今回も、稽古期間は決して長くはないんだけど、深作さんがどうしてほしいかの理解がみんな深くて。だから今回、共演のみなさん咀嚼が早いって思いました。誰かに決めてもらわないと動けないなんていう人、ひとりもいないんです。こうじゃなきゃダメなんていう人もいない。まだみんなで模索はしているけれど、すごくやりやすい環境で、やらせてもらっています。

――混沌とした時代背景ですが、それだけに究極のロマンスがあると。いがみ合いながらも心の繋がりが見えてくる。

北山 そう……男の目線だとそうであって、女性の目線だと“男ってバカよね”ってところもありません? “でも、なんで、こういう男を好きになっちゃうんだろうね”って(笑)。

――女性目線ですと、バカよね……と思いつつ、そういうところがかわいいなと思ってしまいがちであったり(笑)。

北山 そうなっちゃうか。特に大人の女性とか、そう思ってくれそうですね(笑)。まぁ、 最終的には男が家族を守るために……っていう家族の話でもあると思うんですよね。男は家族のために戦うっていうね。

画像4: 北山宏光が舞台主演に挑む!
黒澤明の名作『醉いどれ天使』
俳優としての覚悟と現在地――

――近況もお伺いしたく。

北山 僕の近況と言えば、ブルガリアですね! 僕、ブルガリア共和国の友好親善大使になったんですよ。日本人初!です(笑)。で、実際にブルガリアにも行ったんですけど、まだぜんぜん見きれてないし、黒海のほうにも行ってみたいんですよね。ブルガリアって四季がある国で、温泉大国でもあって。街中に温泉が湧いてるんですよ!首都ソフィアでも沸いていて、飲んだりもしてるんです。

――四季があって、温泉大国とは、日本人が馴染みやすいお国柄で。

北山 そうなんです。日本人がきっと好きになる国。食べ物で言うと、トマトがめっちゃ美味しかった。ヨーグルトはデザートだけじゃなく、スープやソースにしたりもして、ヘルシーな食文化がある。ブルガリアワインも美味しかったなぁ。アジアとヨーロッパのいいところと言うか、この2つの文化の入口になるのがブルガリアだと思いました。さらにバラの名産地でもあって、カザンラクという都市にある「バラの谷」は、東京都23区の2倍の広さもあるんですよ。

――さすが友好親善大使です。今のプレゼンだけでも、ブルガリアに行ってみたくなりました。

北山 役目、果たせてる(笑)。国の西側が首都のソフィアで、さっき行ってみたいって言った黒海が東側で。黒海のほうにはリゾート地があるんですよ。リゾートでのんびりもしてみたい。で、そこから南下するとエジプトなんです。僕、エジプトにもすごく興味があって、行ってみたいって思っていたから。次はブルガリア東部からのエジプトっていうコースを狙ってます。

――でも、お忙しいからなかなか次の旅は難しいのでは?

北山 いや、僕は友好親善大使なんで! 来年にはまたブルガリア、行きます(笑)。ドイツを経由してもよさそうだなと思ってます。

――ぜひ、Instagramのほうでブルガリアのこと、ご紹介ください。写真も見たいです。

北山 そういえば、インスタでブルガリアのこと触れてないな。ストーリーだけかもしれません。そうですね、これから発信していきます。

――国内カルチャーではいかがでしょう?

北山 食べるのが好きだし、仕事合間にゴルフ行ったりは通常で……あとは、アニメを見てるかな。ヒロアカ、また始まったね!

――『僕のヒーローアカデミア』のテレビアニメですね。

北山 ヒロアカは最高だよ(笑)。毎回泣いちゃうからな。

――お好きなヒロアカのキャラクターは?

北山 結局ね、爆豪(勝己)とか、かわいいと思っちゃうよね(笑)。デクもいいんだよな。もうね、総じていい。世界観からしていい! 映画『チェンソーマン』も観に行かなきゃと思ってます。そうそう、ブルガリアでも日本のアニメが大人気なんですよ。やっぱりアニメは日本が世界に誇れる文化ですね。

画像: 北山宏光(HIROMITSU KITAYAMA) 1985年生まれ。2023年11月にデジタルシングル「乱心-RANSHIN-」でソロデビュー。楽曲制作やライブの演出も手掛けるほか、俳優活動など幅広く活躍。近年の主な作品にドラマ『君が獣になる前に』(2024年)、『DOCTOR PRICE』(2025年)がある。

北山宏光(HIROMITSU KITAYAMA)
1985年生まれ。2023年11月にデジタルシングル「乱心-RANSHIN-」でソロデビュー。楽曲制作やライブの演出も手掛けるほか、俳優活動など幅広く活躍。近年の主な作品にドラマ『君が獣になる前に』(2024年)、『DOCTOR PRICE』(2025年)がある。

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画像5: 北山宏光が舞台主演に挑む!
黒澤明の名作『醉いどれ天使』
俳優としての覚悟と現在地――

舞台『醉いどれ天使』

原作:黒澤明 植草圭之助
脚本.:蓬莱竜太
演出.:深作健太
出演:北山宏光
渡辺 大 横山由依・岡田結実 (Wキャスト) 阪口珠美 /佐藤仁美 大鶴義丹 ほか

【東京公演】
日程: 11月7日(金)~11月23日(日)
会場: 明治座
【名古屋公演】
日程: 11月28日(金)~11月30日(日)
会場: 御園座
【大阪公演】
日程: 12月5日(金)~12月14日(日)
会場: 新歌舞伎座

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