TEXT BY CHIKAYO TASHIRO
会社を立て直す“成長&チーム団結”の物語
『テプン商事』
1997年、韓国が通貨危機に陥り、倒産する会社が相次いだ厳しい時代に、亡き父親の跡を継いだ、当時は無職で自由奔放だった息子が会社を立て直していくという、成長&チーム団結のドラマです。復讐というワードこそないですが、主人公テプンの邪魔をする憎らしい敵役が現れて、そこにチームで対抗していき、学びがあるという『梨泰院クラス』的な面白さがあります。

主演のジュノ(右)とキム・ミンハ(左) Netflixシリーズ「テプン商事」独占配信中
このドラマ、テプンを演じたジュノがとっても良かったです。'97年時代のジュノの、イケイケでちょいと気だるいセクシーな雰囲気がいい感じで、そこから父の思いを感じて自分が会社を守るべく、素直に頭を下げて一からやっていこうとするまっとうな姿にまず感動します。なにせ会社運営が波乱万丈なので、ジュノの喜怒哀楽の感情が豊かで、普段もこんな感じなんだろうなと思わせる自然な表情も引きつけます。それでいてヒーロー的な正義感があって人好きのする青年なので、みんなが手を差し伸べたくなる魅力があります。『梨泰院クラス』におけるパク・ソジュンがついていきたくなる上司だとしたら、『テプン商事』のジュノは、一緒に手を携えて頑張っていってあげなきゃと思わせるような存在。素直に人の手を借りられる甘え上手で、本当にチャーミングな青年でした。等身大男性の魅力を120%出していたんじゃないかと思います。
商社が舞台なので、こうやってガッツで仕事していくんだなという実感が伝わってくるのもお仕事ドラマとして面白かったですし、早い段階からラブ要素が入ってきたのも意外ながら、公私をなかなか分けられなくてラブが駄々洩れしちゃうテプンも微笑ましかったです。28年前の韓国の街並み、ファッション、小物の再現に郷愁を感じますし、会社の物語だけでなく、登場人物たちの家族愛や人と人との情やつながりがちょいちょい差しはさまれていたのにもじーんとさせられました。苦しい時だからこそ助け合い、力を合わせてなんとか乗り越えていく人々の絆にとても心温まる作品です。
■Netflixシリーズ「テプン商事」独占配信中
働く人たちの日常を描く静かな感動作
『ミセン-未生-』
プロの棋士を目指していたものの挫折して、コネで商社に入社することになった青年グレの静かなる奮闘を描く成長ドラマです。グレはそれまで囲碁しかしてこなかったので世間知らずで、なにをするにもおぼつかない青年。亡き父の残した身体に合わないスーツを着て会社に行きますが、身の置き所がなく、「努力が足りないから世界から捨てられたんだ」と思いこんでいます。そんな風に一見いたいけな子犬のようでありながらも芯があるので、徐々に一目置かれるようになっていきます。囲碁のキャリアが長いので強気に出る勝負師の気質も持っているし、囲碁で学んだこと、師匠からの教えも仕事に生きていきます。グレを演じるイム・シワンは本当に肩身の狭そうな感じを醸し出し、生気を感じさせない顔をしています。彼の、無になることができる静かなる存在感がすばらしく、「彼以外の人にこの役ができただろうか?」と思ってしまったほど。

主人公グレ役のイム・シワン ⓒCJ E&M Corporation,all rights reserved.
主人公はグレですが、彼の目を通して同期の社員や上司といった、会社に生きる人の人生が描かれていくのもいいのです。グレの同期のメンバーはみんな優秀ですが、各部署に配属されると、理不尽な目にあったり、パワハラにあったりします。さらに彼らの上司もその上司にキツくあたられたり、どなられたり、嫌な接待をしなければならなかったりという哀感や泣き笑いがしっかり描かれています。会社員経験のある人は「そういうことある!」と感じ、奥さんが見たら「うちの旦那はこんなに過酷な中で戦っているのか」と思うでしょうし、どの層が見てもどこかに共感できると思います。

ⓒCJ E&M Corporation,all rights reserved.
タイトルになっている“未生”は、囲碁の用語で「完生(=完全に生かされている状態)になる余地を残している石」のこと。主人公の上司の「俺達はまだみんなミセンなんだ」と言ってグレを励ます名セリフとしても登場します。韓国ドラマというと、激しい愛や因縁、出生の秘密といったドラマティックな設定が思い浮かびますが、そういうものがなくても、もがきながらがんばって働く人たちの日常は十分に感動的なのだということを教えてくれます。静かな感動がじわじわと広がってくる名作です。
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名監督が描き出す朝鮮時代の企業バトル
『商道 ‐サンド‐』
朝鮮時代に実在した大商人で、庶民に財産を分け与えたというイム・サンオクを主人公に、敵対する2つの商団の競争を描きながら、ライバル集団の跡継ぎと目されている娘との、ロミオとジュリエットのような恋を交え、主人公がどのようにして朝鮮一の商人になったかをダイナミックに見せていくドラマです。『宮廷女官チャングムの誓い』『イ・サン』『トンイ』などを生み出したイ・ビョンフン監督が描き出す面白さ保証付きのエンターテインメント時代劇です。

イム・サンオク役のイ・ジェリョン ©MBC, iMBC All Rights Reserved.
中国語の通訳を目指していたイム・サンオクは、非情な大商人に濡れ衣を着せられ、父親を殺されてしまい、その復讐を誓って商人を目指すのですが、新たな主人の元で商才を磨き、頭角を現していきます。これは現代に置き換えてみると、まさに政界・官界を巻き込んでの企業バトル。どうやって売りさばくのか、どうやって相手の先手を打つのか、どちらがうまく商いを成功させるのか、また倒産しかけた会社をどう立て直していくのか、才知をかけた戦いが展開されていくので、回を追うごとにその面白さから目が離せなくなります。

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「商売とは金ではなく人を残すもの」。これは師匠が主人公に言って聞かせる名言ですが、この志を主人公がどのように遂げていくのかが見どころといえます。ライバルは時として卑劣な手段に出るのですが、主人公は師匠の教えを守ろうと、常に正々堂々たる道を行くんです。その生きざまが高潔で、商売人のあるべき姿を教えてくれます。特にビジネスマンが見ると自分が置かれている状況と重なり合い、より一層のめりこめるでしょう。主人公になったつもりで、仕事への意欲が自然と湧いてくるのではないでしょうか。
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田代親世 韓流ナビゲーター
韓流解説、韓流イベント司会の第一人者。公式サイト「田代親世の韓国エンタメナビゲート」やYoutube「ちかちゃんねる☆韓流本舗」「韓ドラ・マスター親世と尚子の感想語り」などで韓流情報を発信しているほか、会員制のコミュニティ【韓流ライフナビ】を主宰。ツアーやイベントを企画・開催している。






