インスピレーションの源は、時代と文化を超えた“空想の旅”。桜の季節に来日したクリエイティブ・ディレクター、セルジュ・ルフューが語るカルヴェン・ガールズとは

BY CHIHARU ITAGAKI, PHOTOGRAPH BY TAKAHIRO IDENOSHITA

画像: 日本を訪れるのは3回目だというセルジュ。「過去2回は仕事の都合で、ごく短期間の滞在でした。今回はやっと、少しゆとりのあるスケジュールで来ることができて嬉しい」と語る。取材当日は、日本のEVISUジーンズのデニムジャケットを着ていた

日本を訪れるのは3回目だというセルジュ。「過去2回は仕事の都合で、ごく短期間の滞在でした。今回はやっと、少しゆとりのあるスケジュールで来ることができて嬉しい」と語る。取材当日は、日本のEVISUジーンズのデニムジャケットを着ていた

 カルヴェンと聞いて頭に浮かぶのは、ガーリッシュで知的、かすかにウィットの効いたパリジェンヌらしいウェアの数々だろう。現クリエイティブ・ディレクターのセルジュ・ルフューは、1945年にオートクチュールメゾンとして創業したこのフレンチブランドを率いて2シーズンめ。この3月に、就任以来初となる来日を果たした。「今回初めて見ることができて本当に嬉しい」という桜のほころぶ東京で、最新の2018-’19年秋冬コレクションについて聞き、カルヴェンに新しい風を吹き込む彼の美意識に迫った。

――昨年2月に、カルヴェンのクリエイティブ・ディレクターに就任。まずは何から仕事を始めましたか。

「最初にしたのは、マダム・カルヴェンの手がけたオートクチュールピースのアーカイブを見せてもらうこと。パリ・ガリエラ宮のモード美術館に、250ピースのアーカイブが保存してあるのです。実際に自分の目で見て初めてわかることもありますし、今後の方向性を考えるためにも、大事な作業でした」

――実際にアーカイブに触れてみて感じたことは。

「ディテールへのこだわりと質の高さが非常に印象的でした。そして、マダム・カルヴェンのライフスタイルを間近に見る思いがしました。これこそがカルヴェンというブランドのDNAになっているのだと思う。マダムのクリエーションに触れたことは、とてもインパクトの大きい経験であり、私のインスピレーション源になっています」

――具体的にどんなところがインスピレーション源になりましたか。

「例えば、彼女が愛した『旅』というテーマ。これはカルヴェンの大きな魅力のひとつなので、私もそのまま用いることにしました。また、遊び心のあるコントラストのつけ方も魅力です。彼女は50年代に、アフリカの民族的なモチーフをドレスにあしらっている。当時、これは非常に斬新だっただろうと思います。こういったコントラストのつけ方を、私は現代に合わせて再解釈していきたいと思っています」

画像: 今シーズンを象徴するルックのひとつ。透かし編みのニットの下からハイネックのシャツがのぞく、どこか懐かしいトップスのスタイリングに対して、素材のコントラストを効かせたスカートが遊び心を感じさせる COURTESY OF CARVEN

今シーズンを象徴するルックのひとつ。透かし編みのニットの下からハイネックのシャツがのぞく、どこか懐かしいトップスのスタイリングに対して、素材のコントラストを効かせたスカートが遊び心を感じさせる
COURTESY OF CARVEN

――「旅」というのは2018-’19年秋冬コレクションのテーマでもありますね。どんな「旅」が発想源になったのでしょうか。

「だいたい私が考える『旅』というのは、頭の中でする、空想の旅なのです。旅というのは、必ずしもどこかに出かけないとできないものではありません。昔の人が使っていた引き出しを開けてタイムスリップ気分を味わうことも、一種の旅なのだと思います。このようにさまざまな側面をもつのが、私の考える『旅』です」

――「空想の旅」というのはユニークな表現ですね。

「そもそも、私の美意識が磨かれたのも、こういった空想の旅の中だったのです。私がファッションの世界の扉を開いたのは、8歳のとき。突然ひらめいて、母にファッション誌を買ってもらい、当時のデザイナーたちが作った服を見て、妄想の中で早くもどこかを旅していました。このとき以来、身の回りにあるものや人々の、何万、何億というイメージを見て、その中に没入することで私の美意識が育まれていったのだと思います」

――今回のコレクションのインスピレーション源になったイメージには、具体的にどんなものがありましたか。

「今シーズンの、文化や時代を超えたミックス感の元となったイメージのひとつは、日本の海女さんの写真でした。彼女たちの黒いウェットスーツと、プリントの布地のコントラストから影響を受けました」

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