マラケシュの街はサンローランにとって創造の源であり、まさに“ミューズ”だった。 今年10月に完成したミュージアムでは、 驚きと夢に満ちた彼のクリエーションの真髄に触れることができる

BY JEANINE CELESTE PANG, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

画像: 1992年にフランスの『エル』誌が写真家のアンドレ・ラウをマラケシュに送り、イヴ・サンローランのアイコニックな衣装をカトリーヌ・ドヌーヴに着せて撮影した。デザイナーと彼のミューズを、彼の終の住みかである豪華なヴィラ・オアシスで写した一枚 ©PHOTO ANDRÉ RAU

1992年にフランスの『エル』誌が写真家のアンドレ・ラウをマラケシュに送り、イヴ・サンローランのアイコニックな衣装をカトリーヌ・ドヌーヴに着せて撮影した。デザイナーと彼のミューズを、彼の終の住みかである豪華なヴィラ・オアシスで写した一枚
©PHOTO ANDRÉ RAU

「ここでは彼の作品の中でも、驚きと夢のあるものにスポットをあてたかった」と言うのはピエール・ベルジェ=イヴ・サンローラン財団のバイス・プレジデントで、ジャルダン・マジョレル庭園のディレクターでもあるマディソン・コックスだ。緋色のうね織りの生地に、紫と鮮やかなピンクのブーゲンビリアの刺しゅうが施された、クチュールのケープ。さらに、バンバラ族の伝統衣装からヒントを得た1967年のオートクチュール・コレクションで発表された、アフリカ風デザインのビーズが縫い込まれたミニドレスなどが、常設展示室に飾られる予定だ。フランス人建築家であり、舞台デザイナーであるクリストフ・マーティンが劇場効果を盛り上げる仕掛けを施した館内には、サンローランの音声や彼の言葉、写真、映像などがちりばめられ、それが「マジック」の要素を加えていると同美術館のディレクターであるビヨン・ダルストロムは言う。

画像: 美術館のディレクター、ビヨン・ダルストロムが常設展の展示の中で気に入っている衣装のひとつ。「イヴ・サンローランの混合主義とスタイルがひとつの形で表現されている。伝統的なフェズ帽子に新たな解釈を加え、マティスが描いた《ルーマニアのブラウス》と組み合わせている」と彼は言う ©MUSÉE YVES SAINT LAURENT PARIS

美術館のディレクター、ビヨン・ダルストロムが常設展の展示の中で気に入っている衣装のひとつ。「イヴ・サンローランの混合主義とスタイルがひとつの形で表現されている。伝統的なフェズ帽子に新たな解釈を加え、マティスが描いた《ルーマニアのブラウス》と組み合わせている」と彼は言う
©MUSÉE YVES SAINT LAURENT PARIS

画像: サンローランと、生涯にわたって公私のパートナーだったピエール・ベルジェ。ふたりは1966年に休暇でマラケシュを訪れ、メディナでの彼らの最初の家の鍵を持ってパリに帰った。その家は「蛇の家」と呼ばれる ©DR

サンローランと、生涯にわたって公私のパートナーだったピエール・ベルジェ。ふたりは1966年に休暇でマラケシュを訪れ、メディナでの彼らの最初の家の鍵を持ってパリに帰った。その家は「蛇の家」と呼ばれる
©DR

画像: イヴ・サンローラン、「蛇の家」で。1966年以降サンローランは、パリのアトリエに戻るまで、彼のすべてのコレクションのデザインとスケッチをマラケシュで描いた ©PIERRE BERGÉ

イヴ・サンローラン、「蛇の家」で。1966年以降サンローランは、パリのアトリエに戻るまで、彼のすべてのコレクションのデザインとスケッチをマラケシュで描いた
©PIERRE BERGÉ

 建物そのものも非常に印象的だ。モロッコのモダンと伝統を取り入れて、地元産の人造大理石、赤レンガの格子状の装飾、叩き仕上げのコンクリートなどが使われ、ゆるやかにカーブした玄関部分は、布のひだを表現している。「私たちは建物を彫刻のようにデザインした。容積と高さのバランスが命だ」と語るのはスタジオKOの共同創設者のオリヴィエ・マーティだ。館内には書店、図書室、視聴覚室、そしてフランス風の料理を出すカフェがある。カフェのテラスからは、周囲の風景を映し出すプールも眺められる。室内にはステンドグラスの窓から光が差し込む。ガラスの色は玄関ホールの片側が青と緑、そして反対側は赤とオレンジになっており、サンローランが愛した画家アンリ・マティスの色彩からインスピレーションを得ている。

「サンローランはマラケシュとパリの二面性を持っていた。色彩と漆黒、男性性と女性性、直線とアラベスク模様」。ダルストロムは言う。「そのすべてが、イヴ・サンローランの本質なのだ」

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