BY JEANINE CELESTE PANG, TRANSLATED BY MIHO NAGANO
「ここでは彼の作品の中でも、驚きと夢のあるものにスポットをあてたかった」と言うのはピエール・ベルジェ=イヴ・サンローラン財団のバイス・プレジデントで、ジャルダン・マジョレル庭園のディレクターでもあるマディソン・コックスだ。緋色のうね織りの生地に、紫と鮮やかなピンクのブーゲンビリアの刺しゅうが施された、クチュールのケープ。さらに、バンバラ族の伝統衣装からヒントを得た1967年のオートクチュール・コレクションで発表された、アフリカ風デザインのビーズが縫い込まれたミニドレスなどが、常設展示室に飾られる予定だ。フランス人建築家であり、舞台デザイナーであるクリストフ・マーティンが劇場効果を盛り上げる仕掛けを施した館内には、サンローランの音声や彼の言葉、写真、映像などがちりばめられ、それが「マジック」の要素を加えていると同美術館のディレクターであるビヨン・ダルストロムは言う。
建物そのものも非常に印象的だ。モロッコのモダンと伝統を取り入れて、地元産の人造大理石、赤レンガの格子状の装飾、叩き仕上げのコンクリートなどが使われ、ゆるやかにカーブした玄関部分は、布のひだを表現している。「私たちは建物を彫刻のようにデザインした。容積と高さのバランスが命だ」と語るのはスタジオKOの共同創設者のオリヴィエ・マーティだ。館内には書店、図書室、視聴覚室、そしてフランス風の料理を出すカフェがある。カフェのテラスからは、周囲の風景を映し出すプールも眺められる。室内にはステンドグラスの窓から光が差し込む。ガラスの色は玄関ホールの片側が青と緑、そして反対側は赤とオレンジになっており、サンローランが愛した画家アンリ・マティスの色彩からインスピレーションを得ている。
「サンローランはマラケシュとパリの二面性を持っていた。色彩と漆黒、男性性と女性性、直線とアラベスク模様」。ダルストロムは言う。「そのすべてが、イヴ・サンローランの本質なのだ」