BY ALEXANDER FURY, PHOTOGRAPHS BY FEDERICO CIAMEI, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)
ヴェルサーチの2018年春夏メンズ・コレクションの発表を2日間後に控えた、6月のある木曜日。ミラノのジェズ通りにある本社の正面から、がっしりした体格の犬の調教師が現れた。ドナテラ・ヴェルサーチの飼い犬、ジャック・ラッセル・テリアのオードリーを連れて散歩に出かけるところだ。玄関の先、ガラス扉の向こうに見える日当たりのいい中庭には、緑色に塗られた錬鉄製のテーブルと椅子がいくつも置かれている。ヴェルサーチが自宅の裏庭で夏のバーベキュー・パーティの準備をしているようにも見えるが、じつはここが今回のランウェイ・ショーの舞台となる場所だ。
その様子があまりに家庭的でさりげないので、このカーサ・ヴェルサーチ(ヴェルサーチの家)が実際は"パラッツォ・ヴェルサーチ(ヴェルサーチ宮殿)"であることを一瞬忘れそうになる。この18世紀の建築の正面にはヴェルサーチのロゴであるメデューサが印象的に散りばめられ、5つ星ホテルのフォーシーズンズからブロックの端まで伸びている。勘違いしがちだが、ここは誰かのための家ではなく、数百万ドル規模のファッションブランドの帝国の本拠地なのだ(ブランドのクイーンであるドナテラ・ヴェルサーチはここに住んでいないものの、アトリエの下にはゲストをもてなすために用意された、素敵な内装が施された宿泊施設がある)。