兄ジャンニの死後20年目の節目となる今年、2018年春夏メンズ・コレクション直前2日間のヴェルサーチを追った

BY ALEXANDER FURY, PHOTOGRAPHS BY FEDERICO CIAMEI, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

 ドナテラ・ヴェルサーチは、先月62歳になった。20歳くらい若く見え、16歳に負けないほどエネルギッシュで、とにかく信じられないような人物だ。気分がいい時はよりいっそう魅力的ですばらしい人物になるが、ここ最近はまさにその状態のようだ。「とてもリラックスしてるわ」と彼女は満足そうに言う。彼女が今いるのは、糖蜜色の大理石や磨きあげられた木材が随所に施された、ヴェルサーチの“聖域”とも言うべき例の宿泊施設である。彼女は 宝石や貴石で彩られたテーブルの前に置かれたベルベット生地のソファにもたれて、いかにもヴェルサーチらしいバロック式のモチーフが彫られたクリスタルのタンブラーから飲み物をすする。

「今回のコレクションの仕上げは火曜日から始めたわ。私ってまるで精密な機械のように働くのよ。この日までにこれをやれと言われたら、やり遂げるの!」と笑う。

画像: 最終フィッティング | 木曜 午後6時15分 スペインとクロアチアのハーフである20歳のモデル、ピエロ・メンデズが着ているのはルック32番。「コーニス」モチーフが施されたシルクのブレザーとその下にまた別のヴェルサーチ・プリント。このルックのもととなったのは、パラッツォ・ヴェルサーチが建てられた18世紀頃の装飾だ。それはブランドの設立者であるジャンニのインスピレーションの源のひとつでもあった

最終フィッティング | 木曜 午後6時15分
 スペインとクロアチアのハーフである20歳のモデル、ピエロ・メンデズが着ているのはルック32番。「コーニス」モチーフが施されたシルクのブレザーとその下にまた別のヴェルサーチ・プリント。このルックのもととなったのは、パラッツォ・ヴェルサーチが建てられた18世紀頃の装飾だ。それはブランドの設立者であるジャンニのインスピレーションの源のひとつでもあった

 ドナテラ・ヴェルサーチが誰かの言いなりになっているとは想像しにくいが、彼女自身はそう主張する。

「いまや私たちデザイナー側には主導権はないと思うのよね」と彼女はニヤッとしながら言う。いかにもヴェルサーチらしく、物議を醸しそうな発言だ。「ミレニアル世代。彼らが主導権を握っているのよ。そして私たちは彼らが求めるものを理解することでしか影響力を持てないと私は思っているの」

確かに彼女の言う通りなのかもしれない。なにしろ、彼らが「これからの消費者」なのだから。どうやら、2018年春夏のメンズ・コレクションを制作するに当たってヴェルサーチが過去の作品のアーカイブを再吟味したのも、ヴィンテージ・ヴェルサーチを求めるモデルのケンダル・ジェンナーなどのミレニアル世代の影響があったからのようだ。ミレニアル世代が今求めているのは、ブランドの原点でもあるアーカイブプリント、デニム、セクシーカットだとヴェルサーチは言う。「アーカイブから掘り出してランウェイに送り出すのは、ある意味残念なところもあるの。だって、今やわたしのヴェルサーチなんだから」と彼女は冷静に分析する。

画像: 植物と音響と | 木曜 午後7時42分 パラッツォ・ヴェルサーチの中庭にある2本のキョウチクトウのうちの1本の隣に技術者が音響機材を設置。通常この木には屋根がかかっているが、今回ヴェルサーチは雨が降らないことを期待することにした。照明はランウェイを照らさず、観客と2本の木に当てられる

植物と音響と | 木曜 午後7時42分
パラッツォ・ヴェルサーチの中庭にある2本のキョウチクトウのうちの1本の隣に技術者が音響機材を設置。通常この木には屋根がかかっているが、今回ヴェルサーチは雨が降らないことを期待することにした。照明はランウェイを照らさず、観客と2本の木に当てられる

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