BY ALEXANDER FURY, PHOTOGRAPHS BY FEDERICO CIAMEI, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)
事実、今回のショーの中枢となるのは“カーサ・ヴェルサーチ”だ。地階の中庭に咲き誇るキョウチクトウの下でショーが開かれる。ここのところ何シーズンかは、立派だが人間味の感じられないミラノ郊外のコンサート会場を使ってきたが、今シーズン、ヴェルサーチは自身のルーツへと回帰する。錬鉄製のテーブルを取り囲むのは、ヴェルサーチの"グリーク・キー"モチーフを彷彿させる、直角に折れ曲がったガラスのランウェイ。本番2日前、この風景を目の当たりにして思わず「舞台装置は?」と聞きそうになった。だが舞台装置はない。特別な照明も、大げさな演出もない。繰り返しになるが、どこか控えめで地味で、そう、ヴェルサーチが裏庭で夏のバーベキュー・パーティでもやるみたいに思えるくらいだ。
年に2回開催するメンズ・コレクションのショーに伴うさまざまなプレッシャーに加え、ジャンニ・ヴェルサーチの死後20年、ドナテラ・ヴェルサーチがそのレガシーを継承して20年、というふたつの大きな節目の年にも関わらず、本番までの48時間のあいだ、彼女の日課はいつもと変わらない。「もちろんそうよ! 私はいつもどおりの生活を送る。毎日ちゃんと起きるし、毎日ジムにも通うわ。行くと元気になるから。たった40分のセッションでも、トレーニングをすると気分がいいし、強くなった気がするの。腹筋にハマってるのよ!」。ヴェルサーチの花柄が施されたスパゲッティー・ストラップのスリップドレスの上から、膨らみのまったくないお腹を軽く叩く。とても小柄なので、トレードマークの厚底のヒールで背を高く見せようとしている。最近こそランウェイのモデルに履かせることは諦めるようになったが、本人は何があっても履き続ける気のようだ。