ファッションは常に、次に何が来るか、ということをテーマにしてきた。今のデザイナーたちが描き出すのは、現実の暗い影を落とした、物憂げで辛辣な、虚飾を排した世界だ。だが、少し前までそのビジョンはもっと明るく、色鮮やかだった

BY MEGAN O’GRADY, PHOTOGRAPHS BY COLIN DODGSON, STYLED BY MARIE CHAIX, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

 昔の人々が思い描いた未来を、今振り返って見ると、それがどこまでも純粋な夢だったことに気づく。その感覚は、古い小箱から小学1年生のときのクラス写真を見つけて、宇宙飛行士とかノーベル賞を夢見ていた自分に再会するのに似ている。そもそもレトロフューチャーが心に響くのは、過去の人々が描いた未来像が完璧ではないからだ。こうなるだろうと思い描いた未来と、具現化した未来、つまり現実の間にあるズレが妙味なのだ。本来なら、現在の食事はレプリケーター(註:分子原料から複製物を作る装置でアメリカのSFシリーズテレビドラマ『スタートレック』に登場する)が作ってくれるはずだが、実際はまだフードデリバリー・サービスしかないし、ジェットパック(註:背負って使うジェット式飛行装置)で飛んで、街を行き来しているはずが、現時点ではセグウェイで地上を走るしかない。

画像: ドレス(参考色)¥266,000、ソックス¥18,000(ともに予定価格) プラダ クライアントサービス (プラダ) フリーダイヤル:0120-451-913

ドレス(参考色)¥266,000、ソックス¥18,000(ともに予定価格)
プラダ クライアントサービス
(プラダ)
フリーダイヤル:0120-451-913

 ここ半世紀を振り返っても、夢の力では打ち勝てなかった悲運な出来事は少なくない。1950年代後半から、女性解放を象徴としたミニスカート旋風が起きるが、その約10年後に発議された男女平等憲法修正条項は成立せず、続いてエイズが蔓延して多くの命を奪った。また、10年前の私たちはインターネットで民主主義を推進できるかもしれないと期待をしていたが、そううまくはいかなかった。

 それでも夢を見ることは、人間の素晴らしい本能だ。ジーン・ロッデンベリーは『スタートレック』で美しいユートピアを描いた。初代のシリーズは1966年から1969年に放映されたが、ストーリーの時代設定は2265年から2269年。人種や階級の差も、セクシュアルハラスメントもないこの理想郷で、黒人女性であるウフーラ通信官と白人男性であるカーク船長は、プロ意識と相互尊重の精神を守りながら仕事をしている(ふたりは念力に操られて口づけを交わすが、これがテレビ史上初の異人種間のキスシーンとなった)。宇宙船の通信官ウフーラのユニフォームは、赤のマイクロミニスカートだった(なお、アンドレイ・タルコフスキーやクリス・マルケルといった二度の破壊的な戦争の余波を受けて育ったヨーロッパの監督たちは、陰鬱な未来を描くことが多い)。

 だが1960年代末には“ラブ&ピース”のムードは消え去り、ベトナム戦争が激化する。最先端の流行を追う人々は、斬新さよりキッチュなスタイルを好むようになった。映画『バーバレラ』(1968年)で主役を演じたジェーン・フォンダが“着させられた”セクシーさ満載のワードローブがそのいい例だろう。戦争のない美しく平和な未来の地球からやってきた女宇宙士バーバレラは、メタリックのキラキラした服をまとっていた。しかし70年代に入るとウーマンリブ運動が広まり、女性たちは家庭や職場を支配する“陰の権力”に立ち向かっていく。そんな彼女たちがバーバレラのようなシルバーラメのブラジャーやブーティを身につけるはずがなかった。

画像: ジャケット¥730,000、スカート¥490,000 トム フォード ジャパン(トム フォード) TEL. 03(5466)1123

ジャケット¥730,000、スカート¥490,000
トム フォード ジャパン(トム フォード)
TEL. 03(5466)1123

画像: コート(参考商品) Vetements( vetementswebsite.com ) パンプス(参考色)¥185,000 バレンシアガ ジャパン(バレンシアガ)

コート(参考商品)
Vetements(vetementswebsite.com

パンプス(参考色)¥185,000
バレンシアガ ジャパン(バレンシアガ)

 未来は不思議なことに、ようやく実態をつかめたと思うと、また遠くに行ってしまう。そして私たちと夢物語だけを置いてきぼりにする。過去の誰が想像しただろう。21世紀になっても自由恋愛(註:結婚を束縛として拒否し、自由な愛のかたちを尊重する)は浸透していず、個人の自由も抑圧されたままであると。

『スタートレック』のウフーラが、今もなおアイデンティティ・ポリティックス(註:人種、ジェンダーなど属性に起因する社会的不公正を取り除く運動)が必要だと知ったら、どう思うだろう。いわゆる最後のあがきなのかもしれないが、モード界はこんな状況下でも快美な未来を夢見ている。23世紀の銀河間空間では平和と平等が保たれ、「惑星連邦(註:『スタートレック』に登場する恒星間国家のひとつ)」における権力の座は女性が大半を占めるだろうと。あるいは人類はこのまま地球に住み続け、ネオプレン(合成ゴム素材)のボディスーツにUPF素材(註:紫外線遮断の効果がある)のマントを羽織っているかもしれないと。

 まさにこんなイメージの未来を、フランス人若手デザイナー、マリーヌ・セールが形にしている。2019年春夏のショーでは、古いシルクスカーフをアップサイクル(註:不用品などを加工して付加価値を高めること)した、スカベンジャー風なのにゴージャスなドレスを披露した。その中に着ていたのは透け感のあるウェットスーツ。これさえあれば、温暖化が進み、海面が足もとまで上昇しても怖いもの知らず、というわけだ。

MODEL: CYRIELLE LALANDE(WILHELMINA MODELS). HAIR BY SOICHI INAGAKI(ART PARTNER). MAKEUP BY LAUREN PARSONS(ART PARTNER). SET DESIGN BY ANDY HILLMAN AT STREETERS. CASTING BY MADELEINE OSTLIE.

MANICURE: CHISATO YAMAMOTO(DAVID ARTISTS USING NARS). PHOTO ASSISTANTS: WILL GRUNDY, PETER CARTER AND JACK GRANGE. HAIR ASSISTANT: SOICHI INAGAKI. MAKEUP ASSISTANT: ANASTASIA HESS. STYLIST’S ASSISTANT: VICTOR CORDERO. SET ASSISTANTS: SASKIA WICKINS, LIZZY GILBERT AND RHYS MORRIS

 

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