ファッションは常に、次に何が来るか、ということをテーマにしてきた。今のデザイナーたちが描き出すのは、現実の暗い影を落とした、物憂げで辛辣な、虚飾を排した世界だ。だが、少し前までそのビジョンはもっと明るく、色鮮やかだった

BY MEGAN O’GRADY, PHOTOGRAPHS BY COLIN DODGSON, STYLED BY MARIE CHAIX, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

 未来への危機感が募る今、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を掲げるファッションは以前より不吉なムードを漂わせている。ジェスキエールによるルイ・ヴィトンの「2019年春夏コレクション」には、花柄のジャカードのフライトスーツ、宇宙服風の袖、炭酸カリウム鉱山の蒸発池(註:米ユタ州にあり、青の濃淡が美しい)のドローン撮影写真を使ったSF風プリントなどが登場し、不自然なほど陽気だった。2018-’19年秋冬のグッチで、アレッサンドロ・ミケーレが着想源にしたのは、フェミニストの学者ダナ・ハラウェイの名作『猿と女とサイボーグ』(1984年)だ。モデルたちは3Dプリントでつくった自身の生首のレプリカを手に現れた。

画像: コート(参考商品) バレンシアガ ジャパン (バレンシアガ) TEL. 0570(000)601

コート(参考商品)
バレンシアガ ジャパン
(バレンシアガ)
TEL. 0570(000)601

 また2018-’19年秋冬のバルマンでは、スタイリッシュなホログラフィのパンツを発表。化学防護服のようなジャンプスーツやバラクラバ(ウールの目だし帽)を披露した2018-’19年秋冬の「カルバン・クライン205W39NYC」を除いて、ファッション全体に“現実を知らない無垢さ”のようなものが感じられるのだ。そこに現れたのは気候変動や国境の壁といった現実問題や、未来の具体的なイメージではなく、“まだ希望を持てるかもしれない時代”への希求だった。

 確かにファッションとは未来を予測する場ではないし、事実をそのまま反映する必要もない。そもそもディストピアなどうんざりするものだ。だが現在の状況をつぶさに捉えながら、そこから何か新しい刺激を探そうとする私たちは、未来についてあれこれと想像を巡らせる。宇宙のワームホール(註:ブラックホールとホワイトホールを結ぶ時空間)に暮らすとき、あるいはスペース X ロケットで誰もが火星に行けるようになったとき、人々はどんな装いをするのだろう。地球化した惑星にもナイトスポットがあって、そこではスパンコールで飾ったシックなメッシュのドレスを着るのだろうかと。ただ問題なのは、今“不可能という神秘の扉”の向こうで何が起きているか、突き詰めて考えようとする人など誰もいないということだ。

画像: コート¥870,000、靴¥103,000 ボッテガ・ヴェネタ ジャパン (ボッテガ・ヴェネタ) フリーダイヤル:0120-601-966

コート¥870,000、靴¥103,000
ボッテガ・ヴェネタ ジャパン
(ボッテガ・ヴェネタ)
フリーダイヤル:0120-601-966

 高性能のタイムマシンのように、ファッションは時空を行ったり来たりできる。だが楽観主義が根づいたモード界は、何度も未来をテーマとして選んできた(“服で自己主張をする人”がいるとずっと信じられているのもこの楽観主義によるものだ)。興味深いのは、未来志向でありながら、実際は“過去から見た未来”、つまり過去をもとに今らしさを生み出しているというパラドックスだ。が、考えてみれば納得できる。今という瞬間は、万物が美しく交錯するひと続きの時間の、延長線上にあるのだ。

 それは過去と、過去から見た未来をミックスした日替わりのサラダのようなものとも言える。私たちは、今という混沌の時代について事細かに語る気がしないので、胸に刻まれた、複雑に暗号化された過去を選び取る。自分好みの時代を寄せ集めるのだ。ただこんな状況で、ファッションは未来に向かって進化できるのかと案じる人がいるかもしれない。

 だが単に今のファッションには時間の概念が存在しないのだ。すべてが時代錯誤のようでありながらそれでいて時代錯誤ではなく、すべてがヴィンテージのように見えるが、ヴィンテージとは異なる。私たちが今着ているのはこんな服だ。ここ数年のコレクションを見れば、それは明らかだろう。

画像: ドレス(参考商品)、靴¥94,000(予定価格) バーバリー・ジャパン(バーバリー) TEL. 0066-33-812819 ソックス/スタイリスト私物

ドレス(参考商品)、靴¥94,000(予定価格)
バーバリー・ジャパン(バーバリー)
TEL. 0066-33-812819

ソックス/スタイリスト私物

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