BY LINDSAY TALBOT, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO
サルヴァトーレ・フェラガモのクリエイティブディレクター、ポール・アンドリューは、イギリスのバークシャーで子供時代を過ごした。父親がエリザベス女王御用達のアップホルスタリー(布張り装飾)の職人で、常に美しい布や装飾材料に囲まれて育った。「ウィンザー城の家具や壁の布張り装飾を手がけていた父を見て、僕はクラフツマンシップの魅力に開眼したんだ」
10代のアンドリューがモード誌の切り抜きを部屋に貼り、アメリカの「ヴォーグ・パターン(型紙)」を入手すると、祖母は彼にミシンを差し出した。その後、ファッションを学ぶため、バークシャーのカレッジ・オブ・アート&デザインに入学。ポール・ポワレに着想を得た彼の卒業制作は、ロンドンの先駆的セレクトショップ「ブラウンズ」のトップバイヤー、ヤスミン・シーウェルが買い占めた。シーウェルの紹介で、1999年からアレキサンダー・マックイーンの見習いに、その後はナルシソ・ロドリゲス、カルバン・クラインなどでキャリアを積んだ。2012年には自身のシューズブランドを設立。彼の靴は、ロバート・マザーウェル、ピエール・スーラージュなどの抽象画に影響を受けた、カラフルな’70年代風スタイルが特徴だ。フェラガモはその感性に目を留めて、2016年に彼をウィメンズ・シューズのデザイナーに指名。昨冬にはブランド全体のクリエイティブディレクターに昇格した。
今季、彼が提案するのは贅沢ながら機能性も重視したメンズ&ウィメンズウェアだ。たとえばキャラメル色やブルーのレザーのコートやフライトスーツ、フランネルやカシミヤのダブルスーツ、フェラガモらしいバロック柄のシルクドレス。だが92年の歴史を誇るフェラガモの基本は靴だ。アンドリューも「主導権は靴にある」と言い、まず靴からデザインする。着想源はフィレンツェのスピーニ・フェローニ宮にある約15,000足のアーカイブ。最近は創業者フェラガモの代表作の“進化版”も発表している。フィレンツェ、ロンドン、NYなどを行き来する彼は言う。「今の人たちはまたドレスアップしたがっているよね。素晴らしいこと!」
「モデルのヴェロニカ・クンツが着たパプリカ色のコートは、2019-’20年秋冬コレクションのなかで特に気に入っているもの。フェラガモのすべてに贅沢なくつろぎ感を添えたいと思っている僕の考えが表れているから。手縫いのしなやかなディアスキンのコートに、パリッとしたボタンダウンを合わせたところも好きなんだ。最近は誰もが旅に夢中だよね。このコートを見ると、これをさっとスーツケースに詰めて旅に出る女性の姿が浮かんでくる」
「ヴィクトリア朝の造花を集めている。ブリキ製で、セラミックで覆われた造花。植物学の研究材料みたいだよね。一番好きなのは中央のタチアオイ。子供のとき住んでいた家の庭に、タチアオイや果樹が生い茂っていたのを思い出すから」