BY MAKIKO TAKAHASHI
コロナ禍で鬱々(うつうつ)と過ごす中、「トモ コイズミ」の服を見たら元気が出た。喜びや希望に満ちているから――。去年から今年、そんな声を何度も聞いた。代表作は花飾りのようなラッフルで造形したファンタジーあふれるドレス。パステルやビビッド、くすんだ色を10種以上組み合わせたカラフルさも印象的だ。フランスのジュエラー、フレッドやイタリアのエミリオ・プッチなど、ハイブランドとのコラボでも知られる。トモ コイズミは、今、最も注目されている若手ブランドといってもいいだろう。
東京オリンピックの開会式で国歌を歌ったMISIAに提供した虹色のドレスも話題を呼んだ。デザイナーの小泉智貴は「ひとめ見て美しく、ワクワクするものが作りたい」と話す。「服を通して喜びをシェアしたい」が信条。京都・二条城で披露した最新作には、丹後ちりめんなど老舗機業から提供された生地を使ったドレスも。刺繡には、鳳凰や竜など伝統的な吉兆や厄よけモチーフを用いた。小泉のフィルターを通した日本文化や職人技への敬意の表現がユニークだ。着るのは年齢もジェンダーも多様なモデルたち。「シルエットもお雛さまや菊人形からイメージした。暗い気分のときこそ明るさを届けたくて」
小泉の生まれは千葉県。ファッション好きな母親の影響を強く受けた。親類が営む葬儀会社のきらびやかな装飾や花輪などを見て育ち、独特の色彩やどこか非現実的なデザイン感覚を身につけた。中学生の頃、雑誌でジョン・ガリアーノのオートクチュール作品を見て衝撃を受け、「自分も作れたら」と独学で服作りを始める。2011年、千葉大学在学中にブランドを立ち上げた。Perfumeらの衣装を作るうちにSNSに載せた作品が英国の著名スタイリストの目に留まり、マーク・ジェイコブスの支援を受けて2019年、30歳でニューヨーク・コレクションにデビュー。一躍、世界に知られるようになる。
小泉の活動で面白いのは、若手ブランドを扱う企業と組むなどして、日本の若い才能を支援していること。「自分が得たラッキーやチャンスを独り占めせず還元し、循環させたい」と言う。また、「かっこいいのが好きじゃない」という感覚も個性的だ。「かっこよさには、“こうしておけばいい”みたいな答えがある。自分は子どもが見てもわかる、純度の高い美しいものが作りたい」「儲けることに興味はないんです」と言う。パリ・コレや商業的な成功に重きを置かず、働き方や生産サイクルに自由度を求める。“所有”よりも“シェア”を選ぶ。「今はSNSなどで必要とするところには情報が届く。等身大のスタイルでも世界基準のものを作ることができる時代なのでは」。このような感覚こそ、これからの時代の新潮流になるのかもしれない。