TEXT AND ILLUSTRATION BY ITOI KURIYAMA
天気予報で連日のように「熱中症に警戒してください」と叫ばれるシーズンに突入しました。炎天下でロケをしていたら「栗山さんみたいに着飾りたい性分の人にはつらい天候ですね」と気の毒がられましたがまさに私にとって夏は大敵。いつものように重ね着やツルツル&キラキラ素材にこだわっている場合ではありません。きっとサンドレスにサンダルといったリゾート風スタイルが最適なのでしょうが、あいにくそうした方向性には今のところ食指が動かない。私の趣味嗜好の範囲内なら、通気性の良い綿のTシャツを着るしかありません。
Tシャツといえば、先日惜しくもこの世を去ったジェーン・バーキンが若い頃にジーンズとスニーカーを合わせてノンシャランに着こなしていた姿などは永遠の憧れです。本連載ではこれまで特徴のある私物ばかりを紹介してきましたが、フランソワ・オゾン監督の映画『17歳』(2013)で当時60代後半のシャーロット・ランプリングがトレンチコートをさらっと羽織っていたのもかっこよかったし、今話題の、上質で高価でありながらロゴや色柄、デザインで主張をしない「クワイエット ラグジュアリー」もスマートな志向であるとは思っています。でも、シンプル・ベーシックな格好は、かなり着用者自体に個性がないと魅力的には見えません。自分の快適さを優先するならそんなことは気にせずとも良いのでしょうが、私は装いをコミュニケーションのツールだと考えていますから、中身がないのに抑えた服装をして何のメッセージも発さない、という結果は避けたい。そこで、シンプルなTシャツを着るのであればパンチのあるアイテムを合わせるか、アクセサリーで盛る。今夏活躍しているのは、2010年春夏コム デ ギャルソンの肩甲です。
肩甲と言いましたが、正式名称は何だったか。このシーズンはフェミニンな透けるベージュのドレスに、西洋の甲冑を思わせるパワフルなアクセサリーを装着していて、そのバランスに心奪われ、思わずトータルルックで手に入れたのでした。
この肩甲、肩パッドの役目も果たしてくれます。なんてことのない白Tでも、これを身につけるだけでもはやモード界では定番となっているパワーショルダーのシルエットとなり、戦士のような強さももたらしてくれます。ジーンズもちょっと変わったデザインにすれば、話の種になること間違いなし。
それに、今月初めに発表されたバレンシアガの最新クチュールコレクションのラストルックは鎧のようなドレスでしたし、今クローゼットの奥から10数年ぶりに取り出すのが絶好のタイミングのような気も。中身に自信がないゆえ着飾るという面もある私を防護するという意味合いでもぴったりの見た目なのかもしれません。
いやでも、「おしゃれは我慢」が信条ではありますが、この地獄級の暑さではアクセサリーの重みでさえ負担になります。涼を運ぶのは難しいにしても暑苦しく見えないようにせねばという気持ちはあるものの、きっと何もつけない方が楽だろうに、と周囲に思われているに違いありません。
この調子で果たして酷暑を乗り切れるのか。早く過ごしやすい季節になってほしいものです。
栗山愛以(くりやまいとい)
1976年生まれ。大阪大大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションについて考察。コム デ ギャルソンのPRを経て2013年よりファションライターに。モード誌を中心に活動中。Instagram @itoikuriyama