エルメスのレディスプレタポルテ部門を担う、ナデージュ・ヴァンヘが抱く、多様な関心を垣間見る

BY LAURA MAY TODD, TRANSLATED BY MAKIKO HARAGA

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 2024-’25年秋冬のエルメスのコレクション「ライダー」はライダースジャケットが着想源だ。タートルネックとメタルリベット、タイトなベルトのバーガンディ色トレンチコート、ウルトラハイウェストのライディングパンツなど、すべてレザーだ。「中性的なものをセクシーに」とヴァンヘは話す。「6 代続くメゾンに新しい世界観を加える。時代性と伝統の融合が私の仕事です」

画像: 「ゲルダ・シェーパーズは南アフリカ出身のアーティストで、私たちは19歳か20歳くらいのときに出会った。キャンバスいっぱいに絵筆を走らせる彼女の色使いが、私はとても好き。ゲルダはわかりやすい絵を描くことを好まないけれど、彼女の人生にとって大切な存在である人々を主題に選んでいることが多い。この不思議な絵には抽象的な世界観をもたせつつも、現実に存在するものを描き出そうともしている。私のものの見方に疑問を投げかけてくれるようなアートに出合うと、うれしくなります」 GERDA SCHEEPERS, “ALL EYES,” 2024 © GERDA SCHEEPERS, COURTESY OF THE ARTIST AND BLANK PROJECTS, CAPE TOWN

「ゲルダ・シェーパーズは南アフリカ出身のアーティストで、私たちは19歳か20歳くらいのときに出会った。キャンバスいっぱいに絵筆を走らせる彼女の色使いが、私はとても好き。ゲルダはわかりやすい絵を描くことを好まないけれど、彼女の人生にとって大切な存在である人々を主題に選んでいることが多い。この不思議な絵には抽象的な世界観をもたせつつも、現実に存在するものを描き出そうともしている。私のものの見方に疑問を投げかけてくれるようなアートに出合うと、うれしくなります」

GERDA SCHEEPERS, “ALL EYES,” 2024 © GERDA SCHEEPERS, COURTESY OF THE ARTIST AND BLANK PROJECTS, CAPE TOWN

画像: 「南アフリカ人建築家のスマイヤ・ヴァリーによる橋の設計図に基づいて生成された画像。彼女のデザインを構成している重要な点は、楽観と共感。私はこの橋が象徴しているものが素晴らしいと思っています。この橋はある意味で、人々が国をまたいで移動することを象徴しているし、障害を乗り越えて前に進められるようにすることも示唆している。機能的でありながらも、そこには詩的な要素がふんだんに盛り込まれています。この橋の建設はベルギーのヴィルヴォールドで進められていて、そこはアントワープ王立芸術アカデミーから車で1時間弱くらいのところ。完成して見にいくのが待ち遠しい」 SUMAYYA VALLY/COURTESY OF COUNTERSPACE

「南アフリカ人建築家のスマイヤ・ヴァリーによる橋の設計図に基づいて生成された画像。彼女のデザインを構成している重要な点は、楽観と共感。私はこの橋が象徴しているものが素晴らしいと思っています。この橋はある意味で、人々が国をまたいで移動することを象徴しているし、障害を乗り越えて前に進められるようにすることも示唆している。機能的でありながらも、そこには詩的な要素がふんだんに盛り込まれています。この橋の建設はベルギーのヴィルヴォールドで進められていて、そこはアントワープ王立芸術アカデミーから車で1時間弱くらいのところ。完成して見にいくのが待ち遠しい」

SUMAYYA VALLY/COURTESY OF COUNTERSPACE

画像: 「母の影響でエジプト人歌手ウンム・クルスームを聴くようになりました。彼女は若いとき、歌手であり続けるために自らを少年と偽らざるを得なかったそうです。私は最近そのことを知りました。才能に恵まれながらも、クルスームは女性が活躍しづらい環境に身を置いていたのです。私はアラビア語の歌詞をすべては理解できないので、彼女の音楽を聴くと、神秘的な霞(かすみ)に包まれているような気持ちになります」 MOVIE POSTER IMAGE ART/GETTY IMAGES

「母の影響でエジプト人歌手ウンム・クルスームを聴くようになりました。彼女は若いとき、歌手であり続けるために自らを少年と偽らざるを得なかったそうです。私は最近そのことを知りました。才能に恵まれながらも、クルスームは女性が活躍しづらい環境に身を置いていたのです。私はアラビア語の歌詞をすべては理解できないので、彼女の音楽を聴くと、神秘的な霞(かすみ)に包まれているような気持ちになります」

MOVIE POSTER IMAGE ART/GETTY IMAGES

画像: 「パリにあるギャラリー『Hors-Séries』で買った花瓶で、アメリカ人アーティストのルイザ・マイゼルの作品。ざらざらとした、自然な感じを残しているところが気に入っています。花瓶として使ったり、彫刻としてったり。今はリビングに置いて、花を活けています」 COURTESY OF NADÈGE VANHÉE

「パリにあるギャラリー『Hors-Séries』で買った花瓶で、アメリカ人アーティストのルイザ・マイゼルの作品。ざらざらとした、自然な感じを残しているところが気に入っています。花瓶として使ったり、彫刻としてったり。今はリビングに置いて、花を活けています」

COURTESY OF NADÈGE VANHÉE

画像: 「これは誰もがロックダウンのさなかにあったときに製作した2021年春夏シーズンのルックブックの一部。この時期、人々はボディを露出していませんでした。ハグも握手も許されなかったから。人と人の間に大きな距離ができてしまったときだからこそ、私は官能を呼び戻したかった。ニットウェアには人を癒やす力があるし、背中はファッションではフェティシズムの対象になる部位。このドレスは、エルメスが1837年に初めて作ったアイテムである鞍のかたちにインスパイアされたもの。ランウェイショーでは実質的に正面からしか服を見ることができないので、写真家のサム・ロックが撮影したこの一枚のほうが、より深い表現になっています」 SAM ROCK/ART + COMMERCE

「これは誰もがロックダウンのさなかにあったときに製作した2021年春夏シーズンのルックブックの一部。この時期、人々はボディを露出していませんでした。ハグも握手も許されなかったから。人と人の間に大きな距離ができてしまったときだからこそ、私は官能を呼び戻したかった。ニットウェアには人を癒やす力があるし、背中はファッションではフェティシズムの対象になる部位。このドレスは、エルメスが1837年に初めて作ったアイテムである鞍のかたちにインスパイアされたもの。ランウェイショーでは実質的に正面からしか服を見ることができないので、写真家のサム・ロックが撮影したこの一枚のほうが、より深い表現になっています」

SAM ROCK/ART + COMMERCE

画像: 「シャンタル・アケルマンは映画監督として特異な存在で、彼女が振付家のピナ・バウシュを追ったドキュメンタリー作品『ある日、ピナが…』(1983年製作)はとても感動的。踊りでキスを表現するダンスシーンが特に好き。赤いドレスを着た女性のあとに黒いスーツの男性が登場し、ふたりで互いに振り向くさまがまるで時計の2 本の針のよう。動きはとても少なくて、ターンをするだけ。生と死、万象と虚無が同時に描かれています」 CHANTAL AKERMAN,STILL FROM “ONE DAY PINA ASKED . . . ,” 1983, COURTESY OF ICARUS FILMS

「シャンタル・アケルマンは映画監督として特異な存在で、彼女が振付家のピナ・バウシュを追ったドキュメンタリー作品『ある日、ピナが…』(1983年製作)はとても感動的。踊りでキスを表現するダンスシーンが特に好き。赤いドレスを着た女性のあとに黒いスーツの男性が登場し、ふたりで互いに振り向くさまがまるで時計の2 本の針のよう。動きはとても少なくて、ターンをするだけ。生と死、万象と虚無が同時に描かれています」

CHANTAL AKERMAN,STILL FROM “ONE DAY PINA ASKED . . . ,” 1983, COURTESY OF ICARUS FILMS

画像: 「エルメスのオフィス(パリ郊外のパンタンにある)のムードボード。貼っているのはフィッティングの様子やジョージア・オキーフの作品の写真。エルメスのひし形のシルクスカーフ『ロザンジュ』に、私は強いこだわりがあります。ムードボードについては、最近少し懐疑的。世の中には画像があふれていて、どれが誰のアイデアで、どこから出てきたのか、把握するのが難しい。2024-’25年秋冬のコレクションは、私が持っているライダースジャケットとルシアン・フロイドの肖像画を創作の起点にしました COURTESY OF NADÈGE VANHÉE

「エルメスのオフィス(パリ郊外のパンタンにある)のムードボード。貼っているのはフィッティングの様子やジョージア・オキーフの作品の写真。エルメスのひし形のシルクスカーフ『ロザンジュ』に、私は強いこだわりがあります。ムードボードについては、最近少し懐疑的。世の中には画像があふれていて、どれが誰のアイデアで、どこから出てきたのか、把握するのが難しい。2024-’25年秋冬のコレクションは、私が持っているライダースジャケットとルシアン・フロイドの肖像画を創作の起点にしました

COURTESY OF NADÈGE VANHÉE

「今年6 月にマンハッタンで開催した2024-’25年秋冬のランウェイショーは特別。パリ以外で開催した初めてのショーだったから。私はニューヨークの音楽、文学、アートにとても影響を受けたので、それらのインスピレーションを再構築したかった。コレクションのコンセプトは主張する女性らしさ。配色はメゾンに伝わるロカバール(19世紀の馬着に着想を得たストライプのウールブランケット)へのトリビュート。このコレクションに限らず、私は自分のお気に入りのルックを決めるのはしたことがないです」

©FILIPPO FIOR

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