BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
1585年にブドウ栽培者としてスタート、現在では240ヘクタールの自社畑をもつブルゴーニュの大ドメーヌが「ルイ・ジャド」だ。ジャック・ラルディエールは40年以上の長きにわたり、醸造責任者としてドメーヌの大看板を背負ってきた。彼の在職中に生まれたキュヴェも多く、最終的な銘柄の数は132に上る。
驚くべきは、どのキュヴェにもそれぞれの畑のテロワールが反映されていることだ。「ジュヴレ・シャンベルタン」、「ヴォーヌ・ロマネ」などのグラン・クリュから、「ブルゴーニュ ピノ・ノワール」といったカジュアルなA.O.C.ブルゴーニュまで、すべての畑を同等の価値として捉え、それぞれの畑の特徴を尊重したジャック・ラルディエールの哲学によるていねいな造りは、多くのワインファンを魅了した。彼は、多彩なテロワールに正確にアプローチすることから評論家やワインファンから“天才”とも称えられたが、2012年に定年を迎えて「ルイ・ジャド」を卒業した。
だが、これは物語の終わりではなかった。ほどなくして、ラルディエールはアメリカ・オレゴンにおいて、醸造家として新しいプロジェクトをスタートさせた。それが、「ルイ・ジャド」にとって国外で初の冒険ともいえる「レゾナンス」だった。彼は在職中から何度もワイナリーがあるオレゴンのウィラメット・ヴァレーに足を運び、“土地のパワー”を確かめたという。
「じつは、もう10年以上前からプロジェクトは始まっていたんだ。でも、私はまだ『ルイ・ジャド』の仕事があったから、『レゾナンス』に専念するのは難しかった。定年になり、やっと自由に動けるようになったよ」と彼は言う。「オレゴンは、ワインを造るにはまだ若い土地といえる。2013年にスタートして5年目を迎えたけれど、今、どんなスタイルのワインになるかを観察しているところなんだ。私にとっては未知の土地だし、ましてやブドウの熟成は毎年違うからね」
では、なぜ「ルイ・ジャド」は新しいプロジェクトの地にオレゴンを選んだのだろうか。ラルディエールに尋ねると、明快な答えが返ってきた。「『レゾナンス』があるウィラメット・ヴァレーに、繊細な空気と居心地のよさを感じたんだ。この地には強いエネルギーがある。『ここはワインの場所だ』と直感したよ(笑)。ここで造られたピノ・ノワールを試飲して、この地でならエレガントなスタイルのワインが造れると確信したんだ」
ラルディエールは、なにより“土地のエネルギー”を重視する。ワインを造る人間は、土地が発するバイブレーションを感じとることが大切だというのが彼の持論だ。生物科学者を父に持ち、幼少時よりシュタイナー教育を受けて育った彼にとっては、人間も自然界の中の存在のひとつ。だから、彼にとって自然と共鳴しあうことは、ごく日常的でナチュラルなことなのだ。テロワールとは、天と地とのバイブレーションが生み出すもの。ワインはその産物なのだという。
「高いバイブレーションをもつ土地に生まれたブドウは、“美しく貴族的なグラン・ヴァン”になると信じている。それは、私たち人間の細胞に訴えかけるほど強いパワーを持っている。“グラン・ヴァンを飲むと幸福な気持ちになる”というのは、そういうことなんだ。だから、私はカジュアルなワインではなく、エレガントなグラン・ヴァンを造りたいと、つねづね思っている」
最後に、彼はこう語った。
「オレゴンでは、ブルゴーニュと同じスタイルのワインを造るつもりはないよ。私は、ここで造るワインには、オレゴンで造られたという“サイン”を表現したい。それがテロワールを反映することだと信じているんだ」
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