愛媛県佐田岬半島で柑橘の木々を自然栽培で育て、オーガニック養蜂を行う長生博行。彼を突き動かすのは、ふるさとの自然を守りたいという強い思いだ

BY YUMIKO TAKAYAMA, PHOTOGRAPHS BY BUNGO KIMURA

 長生が幼少の頃から親しんできた佐田岬は、いまだ日本の原風景が残る場所だ。山にはミカンをはじめさまざまな柑橘の花が咲き、実がたわわに実る。その山の豊かな森が河川を育み、その清流は蜜蜂が必要な水場にもなる。恵まれた環境とはいえ、オーガニックで養蜂を行うのは容易なことではない。日本はオーガニック養蜂の歴史が浅く、経験値も資料もデータも少ない。長生はヨーロッパやニュージーランドの論文などを独自に翻訳し、佐田岬の環境条件に合う養蜂方法を探して試行錯誤を重ねてきた。

画像: 長生はセイヨウミツバチとニホンミツバチを養蜂している。写真はセイヨウミツバチ。六角形の部屋にたっぷりの蜜が詰まっている

長生はセイヨウミツバチとニホンミツバチを養蜂している。写真はセイヨウミツバチ。六角形の部屋にたっぷりの蜜が詰まっている

 通常は、ミツバチに寄生するダニを予防し、駆除するために殺虫剤や抗生物質を使用する。長生は、それらを用いない養蜂のやり方を模索しつづけている。気が遠くなるような時間と手間をかけて、蜜蜂と巣箱の世話をする。それでも去年は350箱中、200箱の巣箱のミツバチが寄生ダニの被害にあった。だが、長生の志も目標も変わらない。
「私は柑橘の栽培のほか、クレーンの免許を持っているから月曜から金曜までクレーン車も動かす。養蜂だけで食べていこうとしたら、こんなことは到底できません。これ1本じゃないからできることだとも思う。でも、誰かがやらなきゃいけないと思うからやるんです」

画像: 長生が天塩にかけて育てたミツバチのハチミツ。まるで水のようにさらっとして、ピュアに澄み切った優しい甘さ。季節や蜜源によって風味も異なり、それぞれの花の香りが漂う 「春の花」はちみつ<120g>¥1,000/完熟屋 完熟屋 清澄白河店 TEL. 03(6386)6746 公式サイト ※ 季節によって購入できるはちみつの種類は異なります

長生が天塩にかけて育てたミツバチのハチミツ。まるで水のようにさらっとして、ピュアに澄み切った優しい甘さ。季節や蜜源によって風味も異なり、それぞれの花の香りが漂う
「春の花」はちみつ<120g>¥1,000/完熟屋

完熟屋 清澄白河店
TEL. 03(6386)6746
公式サイト
※ 季節によって購入できるはちみつの種類は異なります

 佐田岬の山を育む清流は、森の豊かな養分を運んで海につながり、海では健康な海藻やプランクトンが育ち、魚介類が集まる。長生は養蜂の合間に海に足を運び、ひじきを収穫する。香りが高く、シャキシャキと歯ごたえがあり、味が良いと評判だ。「この辺では昔からどこの家庭も半農半漁はあたりまえで、ワカメもひじきも子どもの頃から取りにいっていましたね。佐田岬では、いい海藻が育つんです。でも最近は昔に比べると藻場が減ってしまった。何かが原因でバランスが崩れてしまっている」

画像: 森の恵みが海を豊かに育む。海を覗くと、海藻がのびやかに揺らいでいる

森の恵みが海を豊かに育む。海を覗くと、海藻がのびやかに揺らいでいる

 それは地球温暖化が原因かもしれないし、農薬や化学肥料、殺虫剤、あるいはそのほかの要因もあるのかもしれない。長生は自然を守り、山里、海を健康な状態に保つことは自分たちの役割だと考えている。私たちは自然の恩恵に生かされているからだ。そして、われわれは百年先の子孫たちの生きる世界まで責任を持つべきだと語る。「(自然環境の大切さに)気づいたものから、スタートせなぁあかんのです」。四季折々の佐田岬の豊かな森や、花々の香りのするピュアな甘さの長生のハチミツには、彼の強い信念も込められている。

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