フードライター北村美香が自信をもっておすすめする美味の店。その技と思いを凝縮した「食べるべきひと皿」とともに、おいしさの理由をひもとく連載最終回

BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY YUKO UEHARA

 夏から秋にかけて、京料理の食材の代表格である鱧。京都ではどの料理屋でも食べさせてくれるが、「包丁の技ひとつで全く違う味になる」のだとか。藤山さんは料理によって厚みや幅などの包丁の入れ方を変えている。皮を切らずに身だけ切るとよく言われるが、ほんの0.0数ミリでも皮に切れ目を入れるのが藤山流。皮がふわっとなるのだという。

 今回は皮目だけ炙った鱧の「鱧茶漬け」、お造りを酢飯で握った「鱧握り」、葛をふって湯引きにした「つらら鱧」と、鱧の三変化を見せてくれた。

画像: 「鱧茶漬け」。皮目だけ炙り、香ばしく仕上げた鱧に塩味メレンゲの組み合わせは京料理の新味。昆布のやわらかな風味が際立つだしをかけて

「鱧茶漬け」。皮目だけ炙り、香ばしく仕上げた鱧に塩味メレンゲの組み合わせは京料理の新味。昆布のやわらかな風味が際立つだしをかけて

 炊き立てのご飯に淡い塩味のメレンゲをのせ、皮目を炙った鱧、生からすみ、塩昆布をのせたお茶漬け。鱧の香ばしさに、メレンゲのサクサク感とからすみの旨味が絡み合い、塩昆布がアクセントになっている。雅な味だけが京料理ではないと藤山さんは言う。町衆の食文化もすんなり取り入れ、たとえばお茶漬けといった“ケ”の料理を“ハレ”の料理に仕立てるのも京料理の醍醐味。まさに、その醍醐味を味わえる一品だ。

 食材の鮮度の関係で鱧のお造りにはまずお目にかかれないのに、藤山さんは生のまま皮をすいて酢に浸け、酢飯と握りに。醬油、酒、みりんを煮詰めたものを塗り、わさび、梅肉を乗せる。生の鱧のねっとり感が酢飯とよく合う。

画像: 「鱧握り」。「お造りでも充分ですが、酢飯と合わせることで、鱧の甘みが際立ちます」。酢どり茗荷の色合いもみずみずしく

「鱧握り」。「お造りでも充分ですが、酢飯と合わせることで、鱧の甘みが際立ちます」。酢どり茗荷の色合いもみずみずしく

画像: 「つらら鱧」。繊細なフォルムのガラスの器は鈴木玄太作。葛たたきにした鱧はまずつるんとした食感を楽しみ、ふわりとした身の旨味を味わう。きゅうりの爽やかなソースでさらりと

「つらら鱧」。繊細なフォルムのガラスの器は鈴木玄太作。葛たたきにした鱧はまずつるんとした食感を楽しみ、ふわりとした身の旨味を味わう。きゅうりの爽やかなソースでさらりと

 鱧に葛をまぶし、湯引きにしたものが「つらら鱧」。透明感のある鱧の身をつららに見立てた優美な命名だ。きゅうりをすりおろし、だしと薄口醤油と合わせたソースをかけて、いっそうの清涼感を演出する。「昔は、担ぎ手が淡路島などから山を越えて京都へ運んできても生きていたほど、鱧は生命力の強い魚です。その力強さを味わってほしいですね」

 他の素材との取り合せやお客さまの好みで、料理を当日になって変えることもあるため、同じ料理に出合える可能性は低いが、どんなときでも洗練された美味に必ず出合える。いまは京都時代の食材ネットワークをフル活用しているが、今後、東京を起点としたネットワークを開拓しようとしているというから、新しい味わいが増えていくのも楽しみだ。秋は松茸、冬の蟹など、贅沢食材も登場する。京都を訪れることなく京料理を楽しめる貴重なお店として、覚えておいてほしい。

銀座ふじやま
住所:東京都中央区銀座3-3-6モリタビルディング7F
営業時間:17:00〜24:00
不定休
電話:03(6263)2435
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