BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY YUKO UEHARA
京都にはさまざまな魅力があるが、なかでも「京料理」は日本の、いや世界の食通を惹き付けてやまない。今春オープンした「銀座ふじやま」は、東京・銀座でそんな生粋の京料理を味わえる店だ。日ごろ何気なく使う“京料理”という言葉に、定義はあるのだろうか。店主の藤山貴朗さんは「京料理とは、京都の風土に根ざした料理のことです」と語る。
「京都で手に入る食材を使い、都の粋をふんだんに盛り込んだもの。いまは流通事情が格段によくなり、京都近郊の産地から食材が届く時間は、京都も東京もそれほど変わりません。ですから銀座でも、これが京料理ですと胸を張ってお出しすることができるのです」
藤山さんは京都に生まれ、18歳で料理の道に入り、24歳から名店「和久傳」で活躍。室町店や高台寺本店の料理長、グループの総料理長を任されたのち、1年の準備期間を経て今春、東京・銀座に自身の店を構えた。生粋の京都育ちの名料理人がなぜ銀座に出店したのだろう。
「確かに、京都でお店を出すほうが自然な流れでしたね。東京には基盤がなく、周囲にも驚かれました。しかし有名店の料理長という立場を離れ、東京の真ん中で京都の味を伝えてみたい。自分の名前だけで勝負しようと、40代半ばでのチャレンジです」とにこやかに話す。
店は新しいビルの7階だ。エレベーターを下りれば、数寄屋造りの清々しい空気に包まれる。藤山さんがひとつひとつ選んだ木材がふんだんに使われ、床は栗材、床柱は漆を掻いた跡が残る漆の木。丹後の山でみつけたそうだ。広々としたレッドシダーのカウンターは木目を際立たせる浮造り(うづくり)。椅子はデンマークの家具デザイナー、ニールス・モラーやカイ・クリスチャンセンのもの。日本や韓国のアンティークの調度品が置かれ、この日の掛け軸は東大寺の上司海雲和尚の筆による大田垣蓮月の歌と、細部に至るまで心憎いまでの数寄が凝らされている。
料理は季節のおまかせコースのみ。旬のものを藤山さんが入念に選び、手をかけて出してくれる。今回のひと皿は、夏から秋にかけての鱧。関西で培ってきた食材のルートを使い、鱧や白身魚などの魚介類、野菜などを手に入れている。京料理のベースとなる水は丹後から。「だしをひいたときに東京の水では違和感がありました。だしの味は私の料理の基本です。ここだけは変えてはいけないと、水を丹後から運ぶことにしました」
だしは利尻昆布に、本枯れ節の荒節、まぐろ節を合わせて。藤山さんの料理の根底に流れているのは、味のやわらかさ。食材の風味を際立たせながら、どの料理にも丸みを帯びた上品さが漂う。料理を支える土台であるだしの味がやわらかいからだろう。