BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY TOMOHISA KINOSHITA
“世界最高級のマルベック”と評され、そのエレガントな味わいでアルゼンチンのマルベックの品質の高さを世に知らしめたのが「ヴィーニャ・コボス」だ。2013年、著名なワイン評論家ジェームズ・サックリング氏が「2011 コボス マルベック マルキオリ・ヴィンヤード ベルドリエル ルハン・デ・クージヨ」にアルゼンチン産ワインとして初の100点をつけたことは、ワイン業界で大きな話題となった。
ワイナリーのオーナーは、カリフォルニアに拠点を置くポール・ホブス氏。「ロバート・モンダヴィ」「オーパス・ワン」「シミ・ワイナリー」などの醸造家として活躍した人物で、彼を天才と評する人も多い。
カリフォルニア以外のニューワールド産地のポテンシャルに興味を持っていたホブス氏が1989年にアルゼンチンを訪れ、あるセラーで廃棄物同様に放置されているマルベックを目にしたことが、メンドーサでのワイナリー設立のきっかけとなった。彼はアルゼンチンの気候と土壌を研究し、「アルゼンチンがワールドクラスのワインをつくるならシャルドネではなく、マルベックである」という結論を出したのだ。
現在、そのホブス氏の右腕として醸造責任者の責務を担っているのがアンドレス・ヴィニョ―ニ氏だ。まだ35歳と若いが、17歳で醸造の仕事を始め、すでに18ヴィンテージを体験している実力者。「ヴィーニャ・コボス」へは2015年から参画している。彼は、ホブス氏との出会いをこう振り返る。
「両親がふたりとも醸造家で、幼い頃からワインづくりの手伝いをしてきましたが、当時、僕は経済学を学んでアメリカでMBAを取ろうと思っていました。親しい友人が『ヴィーニャ・コボス』で働いていたので、彼にその報告をしに訪れたところ、偶然ポールに会ったんです。驚きましたね。僕にとってワインづくりの“アイドル”がそこにいたのですから。そこで彼から、『それだけのキャリアがあるのになぜアルゼンチンを離れるの? 現場でもいろいろ学べることがあるから、うちに来ては?』と言われたんです。アイドルの誘いですからね。断れませんよ(笑)」
彼が目指しているのは、ブドウ本来の味わいが生きた、ピュアで繊細でエレガントなワイン。“濃い”と言われるマルベックでも、そういうワインができることを証明したいと語る。果皮が厚いマルベックは、俗に“黒ワイン”と呼ばれることがあるほど色が濃く、果実味が豊かで芳醇なワインに仕上がる。アルゼンチンでは、マルベックの栽培量がいちばん多いが、高級品種との認識はされておらず、エレガントとは言えないスタイルのものはまだまだ多い。だからこそ、マルベックの地位を上げたいというのが、アルゼンチン人である彼の願いだ。
「マルベックは、醸造によってはソフトで飲みやすいワインになります。果実味たっぷりで、リリース直後に飲んでもシンプルにおいしいし、長期間の熟成にも耐えうる。柔軟性のあるワインで、これからの可能性は高いと思います」。そして、世界的話題をまいたサックリングの評価について、こんなふうに続けた。
「一度100点をもらってしまうと、もう後戻りはできません。周りから期待されるぶん、クオリティの高いところで戦わざるを得ない。でも、僕たちは評論家のためにワインを造っているわけではないので、それは努力の結果に過ぎない。もちろん、高得点をいただけるのはありがたいことですが(笑)。僕らはそれよりも、誰にでも『おいしい!』と言ってもらえるワインをつくりたいと思っているんです」
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