BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHNSUKE SATO
カリフォルニアの「フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー」が一躍有名になったのは、2015年のこと。同年4月にホワイトハウスで行われた安倍首相とオバマ大統領(当時)の公式晩餐会において、同ワイナリーの「涼風シャルドネ」がふるまわれたのだ。つくり手はフリーマン・アキコさん。日本人醸造家によるワインがホワイトハウスで使われたのは初めてのことで、全米でも注目を集めた。だが、話題となったのは、なによりそのエレガントな味わいだった。
彼女は、もともとワインづくりを志して渡米したのではなかった。留学生としてニューヨークの大学で西洋美術史を学び、卒業後はメトロポリタン美術館のエデュケーターとして活躍。その後、夫のケン氏の転勤でカリフォルニアへ移住、週末はふたりでナパ・ヴァレーのワイナリーめぐりをしていた。
そんなワイン好きが高じ、「ワイナリーをもつこと」がいつしかふたりの夢となった。理想としていたのは「ブルゴーニュのようなエレガントで繊細なワイン」。栽培する品種も、ピノ・ノワールとシャルドネのみと決めた。300以上のブドウ畑や候補地を巡り、冷涼なソノマのロシアン・リヴァー・ヴァレーに土地を見つけ、2001年についにワイナリーを設立した。
「ワインづくりはまったくの素人でしたから、最初は『テスタロッサ』でワインメーカーを務めていたエド・カーツマンさんにコンサルタントをお願いしたんです。彼のあとをいつもついて回って、一からワインづくりを覚えていきました」とアキコさんは述懐する。早く仕事を覚えたくて、ブドウ果汁を流す重いホースを抱えたり、樽を運搬したりと力仕事にも体当たりで取り組んだ。
「力仕事は大変でしたが、ていねいにつくれば、ブドウは期待に応えてくれると気づきました。それが楽しくて、ますますワインづくりにのめりこみました」と笑顔を見せる。そんな彼女をケンさんは影で支え、外部との交渉事などを一手に引き受けてくれたという。
アキコさんのワインの魅力は、何といってもエレガントさと繊細さにある。かつてのカリフォルニアワインは芳醇で濃厚なスタイルが多かったが、例えば前出の「涼風シャルドネ」はレモンのような心地よい酸味とミネラル感が際立ち、名の通りの涼やかさを感じさせる。また、ふたりが愛してやまないピノ・ノワールは、「フリーマン ピノ・ノワール ソノマ・コースト」、「フリーマン ピノ・ノワール ロシアン・リヴァー・ヴァレー」、「グロリア・エステート『輝』ピノ・ノワール ロシアン・リヴァー・ヴァレー」など、いずれも個々のテロワールを反映したつくりで、ピュアで美しい酸味とどこかクールな果実味が特徴だ。
そして今年、初めて日本にお目見えしたのが「フリーマン ユーキ・エステート ピノ・ノワール ソノマ・コースト」。このワインを生み出すのは太平洋から8kmほど内陸に入った標高300mの丘に位置する自社畑で、朝夕の寒暖差も大きい。酸味を残しつつ、きれいな果実味のブドウが育つという。ちなみに「ユーキ」とはアキコさんの甥の悠樹さんのこと。2007年に購入した畑だが、2011年に当時5歳の悠樹さんが初めてカリフォルニアを訪れ、畑を走り回る姿を見て「ともに成長できるように」との願いを込めて命名したという。
最後に、アキコさんは自身が目指すワインづくりについて語ってくれた。
「今は、土地がブドウを通じて語りかけてくるものを表現するのが醸造家の仕事なのではないかと考えています。理想はブルゴーニュワインですが、ここでそれを目指してもブルゴーニュにはなり得ません。土地の特徴を最大限に生かして、きちんと酸があり、バランスがよいワインをつくりたい。『これがカリフォルニア?』と驚かれたらうれしいですね(笑)」
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