さまざまな分野で活躍する“おやじ”たち。彼らがひと息つき、渋い顔を思わずほころばせる……そんな「おやつ」とはどんなもの? 偏愛する“ごほうびおやつ”と“ふだんのおやつ”からうかがい知る、男たちのおやつ事情と知られざるB面とは。連載の最終回は、ブックディレクターの幅 允孝さん

BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA

 週末もやっぱり、幅さんは本を読む。「荒木町にあるワインバーを土曜の昼間だけ間借りして、知人が手廻し焙煎の珈琲屋『芳』をやっていまして。僕はそこで本の選書をやっているので、入れ替えがてら、ほぼ毎週通っています。深煎りコーヒーを飲み、『大角玉屋』のいちご豆大福を持ち込んで食べ(笑)、読書をするのが何よりの至福。時空が歪んだような不思議な空間なので、集中できるんです」

画像: 「つきたての餅とつぶ餡といちごのバランスがいい大角玉屋の『いちご豆大福』には、ネルドリップで丁寧に淹れたコーヒーがよく合う。先日は、物理学者であり随筆家でもある寺田寅彦さんの『読書と人生』(角川ソフィア文庫)を読みました。寺田さんの言葉が無数に浮かんでいるような本で、『隣のおっちゃんがぼそっと何か言ってたなぁ』くらいの、即効性よりは遅効性のある作品」 「いちご豆大福」¥300 大角玉屋 四谷店 TEL.03(3358)8612

「つきたての餅とつぶ餡といちごのバランスがいい大角玉屋の『いちご豆大福』には、ネルドリップで丁寧に淹れたコーヒーがよく合う。先日は、物理学者であり随筆家でもある寺田寅彦さんの『読書と人生』(角川ソフィア文庫)を読みました。寺田さんの言葉が無数に浮かんでいるような本で、『隣のおっちゃんがぼそっと何か言ってたなぁ』くらいの、即効性よりは遅効性のある作品」

「いちご豆大福」¥300
大角玉屋 四谷店
TEL.03(3358)8612

 本にまつわるどんな質問や要望も、幅さんは懐深く受け止め、無尽蔵のデータから、ドラえもんの四次元ポケットみたいに、その人(や集団)の人生が豊かになるような一冊をそっと差し出す。そんな幅さんにとって本はどんな存在で、どう向き合っているのだろう?
「本を生業にしていますが、知性にしたいとか、助けや救いを本に求めているわけではなくて、ただ自分が知りたいから読んでいるだけ」。読書帳やメモをとるわけでもなく、「体が覚えているものがすべて。自分という器に本の情報を注入したとき、体の中でどんな化学反応を起こして、どう駆動するかということに興味があるんです。図らずも、目の前に疑問がわいたり、現実世界で何か不条理なことが起こったとき、本の中に登場した人物の感情をトレースしたりして、自分の中の引き出しがすっと開くことはありますが」

 また、本の魅力についてはこうも語る。「今やソーシャルメディアや現代のエンターテイメントは、受動型やシェアベースの作品が多く、常に何かとつながっている状態。一人にならざるを得ないものがどんどん減っています。“孤独”とは怖いものや恐ろしいものと捉えられることもありますが、あえて孤独に陥ることができる読書の時間は、新しい意味や価値を見出す豊かで贅沢な時間なんじゃないかな? と。また読書は、書き手が必死に絞り出し、研ぎ澄まされた言霊を、読み手が1対1で受け取る精神の受け渡しのようなもの。こっちが質問したくても、返事をしてくれないから自分で考えないといけない。でも味わううちに、何となくヒントのようなものは見つけることができる。夏目漱石の『草枕』なんて、何度でも発見があって面白すぎますよ」

「僕にとって本はあくまでも人であり“他者”。救済を期待しすぎていないから、長く付き合えているのかもしれないし、都合のいいときに、都合がいい分だけ読める。それが人だと怒らせてしまうかもしれないけれど、本は静かに待っていてくれるんです(笑)」。幅さんに習って、風の向くまま、気の向くまま、今日の自分に合う本をフラットな気分で手に取り、読んでみよう。時々おやつをつまみながら。

画像: 幅 允孝(YOSHITAKA HABA)さん 有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。人と本の距離を縮めるため、公共図書館や病院、動物園、学校、ホテル、オフィスなど様々な場所でライブラリーの制作をしている。最近の仕事として札幌市図書・情報館の立ち上げや、ロンドン、サンパウロ、ロサンゼルスのJAPAN HOUSEなど。2020年7月に開館した安藤忠雄建築の「こども本の森 中之島」ではクリエイティブ・ディレクションを担当。近年は本をリソースにした企画・編集の仕事も多く手掛ける。早稲田大学文化構想学部、愛知県立芸術大学デザイン学部非常勤講師 Instagram: @yoshitaka_haba PHOTOGRAPH BY KAZUHIRO FUJITA

幅 允孝(YOSHITAKA HABA)さん
有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。人と本の距離を縮めるため、公共図書館や病院、動物園、学校、ホテル、オフィスなど様々な場所でライブラリーの制作をしている。最近の仕事として札幌市図書・情報館の立ち上げや、ロンドン、サンパウロ、ロサンゼルスのJAPAN HOUSEなど。2020年7月に開館した安藤忠雄建築の「こども本の森 中之島」ではクリエイティブ・ディレクションを担当。近年は本をリソースにした企画・編集の仕事も多く手掛ける。早稲田大学文化構想学部、愛知県立芸術大学デザイン学部非常勤講師
Instagram: @yoshitaka_haba
PHOTOGRAPH BY KAZUHIRO FUJITA

※ 掲載商品の価格は、特に記載がないかぎり、「税込価格」で表示しています。ただし、2021年3月18日以前に公開した記事については「本体価格(税抜)」での表示となり、 掲載価格には消費税が含まれておりませんのでご注意ください。

 

This article is a sponsored article by
''.