TEXT&PHOTOGRAPHS BY JUNKO AMANO
京都には独自の進化を遂げた中華がある。最近では京都中華と呼ばれることもあり、ここ数年、京都にやってくる友人から「中華を食べたい」というリクエストをよく受ける。そこで今月は地元人に愛される町中華を紹介。第1弾は”京都中華”の名店「廣東料理 平安」をご案内します。
祇園「廣東料理 平安」
ニンニクや香辛料が控えめのあっさり薄味の京都中華。京都で生まれ育った私は、正統な広東料理だと思って食べていたものが、実は京都だけのスタイルだったと大人になってから気づき、驚いた。
京都中華の先駆けと言われる「第一樓」や「鳳舞」はどちらも今はもうないが、現在もお弟子さんたちが活躍していて、今回紹介する「廣東料理 平安」も「第一樓」出身の元木登さんが営む店だ。
祇園という場所柄、芸舞妓さんがお座敷に上がる前も安心して食べられるよう、創業時からにんにくは不使用。鶏ガラを10時間炊いた出汁に、かつおを加えたまろやかなスープをベースに、日本酒や濃口醬油、穀物酢といった和食のような調味料で仕上げていく。そのため、あっさり親しみしやすい優しい味わいで、それをはんなり京都っぽいと称する人も。
メニューには、京都中華を代表するメニュー「からしそば」もあり。こちらは、からしで和えた中華麺の上に具だくさんのあんかけがのった麺料理で、「第一樓」の料理人だった高華吉さんが考案。「第一樓」や「鳳舞」の系譜を継ぐ店で出されていることが多い。
「廣東料理 平安」では、酢で練った洋辛子を使い、辛さを選べるのが特徴。
辛さの段階を中学生(辛さ控えめ)、高校生(標準)、大学生(辛め)と表現するのも平安流。「辛さは?」と聞かれた時、「社会人」と答える激辛好きもいるそう。
からしそばが運ばれてきたら、まずは具材と麺を豪快にかき混ぜて。麺をすすると、鼻がつんっとなる辛さを感じ、それがクセになり、箸が進む。鶏スープをベースにした餡もしみじみとした味わいで、辛子との相性も抜群。ごろりと大ぶりにカットされた鶏肉や海老やタケノコ、木クラゲなど、たっぷりの具材も食べ応えがあり、シャキシャキのレタスもいいアクセントになっている。最後は酢を加えてさっぱり味変するのもオススメだ。
この一皿でおなかいっぱいになるとわかっていながらも、注文せずにはいられないのが春巻きだ。
京都中華では、小麦粉や卵を使った生地をクレープのように薄く焼いた皮で巻いた春巻きを出すことが多く、一般的な春巻きのバリバリ食感とは違う、サクサク感がたまらない。なかでもこちらの春巻きは皮が薄く、エアリー!
厨房には、春巻きの皮を焼く専用の中華鍋もあり。「ほかの料理に使ったらあきません。薄くきれいに皮が焼けるようならしてあるんです」と、元木さん。具材も、豚肉、海老、シイタケなど、シンプルに。とろみをつけず、タケノコのシャキシャキ感も小気味よく、薄味であっさり。重たさがなく、パクパクいけてしまう。
80歳の元木さんが厨房で中華鍋をふる姿も愛おしく、夫婦二人で営まれている和やかな雰囲気も通いたくなる理由。
長年通っていた京都中華の店が、店主の高齢化などで、どんどん減ってきているなか、いつまでも元気で店を続けてほしい。
廣東料理 平安
住所:京都市東山区縄手通富永町131たから船ビル1F
営業時間:12:00~14:00、17:00~22:00
定休日:水曜、木曜
TEL. 075-531-2287