TEXT BY YUKIHIRO NOTSU, ILLUSTRAION BY YOKO MATSUMOTO
楽曲に読む、フレデリック・ショパンの生きた時代

先月行われた第19回ショパン国際ピアノコンクール、ライブ配信も行われたのでご覧になった方も多いのではないだろうか。日本時間だと夕方と、深夜から明け方にかけての配信だったので、寝不足になりながらも、若きコンテスタントたちの演奏に聴き入った。その全てを聴いたわけではないが、数々の素晴らしい演奏と才能に出会えた3週間となった。
フレデリック・ショパンは、1810年、ポーランドの首都ワルシャワ近郊のジェラゾヴァ・ヴォラ村で生まれた。当時のポーランドは、18世紀のロシア・プロシア・オーストリアによるポーランド分割を経て、フランスに次いでロシアの実質的な支配下に置かれており、独立を求める蜂起が度々起こっていた。後に青年ショパンが活動の場を求めてウィーンそしてパリへと向かい、二度と祖国へ帰ることがなかったのはこうした政治状況があったためである。
ショパンの祖国への愛は、《革命のエチュード》として知られる練習曲作品10−12ハ短調をはじめ、ポーランドの民族舞踊に起源を持つ《ポロネーズ》や幾多の《マズルカ》といった作品で描かれている。
2025年・若きピアニストたちの演奏覚え書き

今回のコンクールにおいては、第2次予選では指定された《ポロネーズ》から1曲、第3次予選では指定された《マズルカ集》から1曲、そして本選ではコンチェルトの前に《幻想ポロネーズ》が課題曲として課された。
有名な《英雄ポロネーズ》を弾いたリ・ティエンヨウがポロネーズ賞に輝き、マズルカ賞はポーランド出身イェフダ・プロコポヴィチに授与された。二人の演奏をアーカイブであらためて聴いてみたが、名曲を軽やかに颯爽と弾ききったリ、そしてマズルカはかくあるべしという信念はありながらも決して押し付けがましくないプロコポヴィチ、どちらの演奏にも納得させられた。
第1位となったエリック・ルーは、とりわけ第3次予選の深く染み入る叙情的な演奏が印象に残った。第2位のケヴィン・チェンは第2次予選での冴え渡る技巧で見事に聴かせた練習曲全曲が衝撃的。第3位のズートン・ワン、そして第4位となった桑原志織はどのラウンドでも安定した演奏を聴かせてくれる安心感があった。桑原と第4位を分け合ったリュー・ティエンヤオは、天真爛漫な演奏が魅力的だ。なんと、まだ16歳(本選翌日に17歳になったという)というから末恐ろしい。
コンクールはあくまでスタートラインの一つ。若手ピアニストたちが時を経てどのように成熟していくのか期待したい。過去にはポリーニやアルゲリッチ、ツィメルマンを輩出したショパンコンクール。果たして20年後、30年後に今回のコンテスタントたちはどんなピアニストになっているのだろうか? 熟成したブルゴーニュを味わいつつ想像を膨らませてみるのも楽しい。

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<参考文献>
ヤクプ・プハルスキ『ショパン−その足跡をたどる第一歩』(関口時正訳、2025年、全音楽府出版社)
ひのまどか『ショパン』(2020年、ヤマハミュージックエンタテインメント)
『ショパンの手紙』(小松雄一郎訳、1965年、白水社)
小坂裕子『フレデリック・ショパン全仕事』(2010年、アルテスパブリッシング)

野津如弘(のつ・ゆきひろ)●1977年宮城県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、東京藝術大学楽理科を経てフィンランド国立シベリウス音楽院指揮科修士課程を最高位で修了。フィンランド放送交響楽団ほか国内外の楽団で客演。現在、常葉大学短期大学部で吹奏楽と指揮法を教える。明快で的確な指導に定評があるとともに、ユニークな選曲と豊かな表現が話題に。
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マツモトヨーコ●画家・イラストレーター 京都市立芸術大学大学院版画専攻修了。「好きなものは各駅停車の旅、海外ドラマ、スパイ小説、動物全般。ときどき客船にっぽん丸のアート教室講師を担当。
『マツモトヨーコ絵画展ー日々のかけらー』開催。会場:ギャラリー新居東京 東京都中央区銀座1-13-4 会期:2025年11月20日(木)より12月6日(土)。11:00~18:00 日曜休廊(※24日祝日は開廊)
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