BY KYOKO SEKINE
世界的に日本食や日本茶ブームが広がる中、東京新橋に“お茶”をテーマにしたホテル「ホテル 1899東京」が誕生した。2018年12月1日開業のホテルを訪れると、そこかしこに新築の木の香りが漂っていた。まだ全体に初々しさが残る、ピッカピカのニューフェイスだ。
2017年9月、本連載で紹介した「龍名館お茶の水本店」とは姉妹関係にある「ホテル 1899東京」は、同経営会社の運営する3軒目のホテルとなる。ホテル名の“1899”は、本家である老舗「龍名館」が、明治32年、1899年に旧名倉屋旅館の分店「旅館龍名館本店」として創業したことに由来しているという。
住所は新橋とあるが、実際のロケーションはJR浜松町駅と新橋駅のあいだにある。JR新橋駅からは徒歩では約9分、浜松町からは徒歩約13分、都営三田線の御成門駅には最短で徒歩約6分と、都心にしてはどの駅からもやや距離がある。それについてホテル関係者は「それでもこのホテルに泊まってくださる方に」と言う。1分を争う多忙なビジネスマンよりも、むしろ、増え続けるインバウンドの観光客や、ヘルシーにこだわる女性客などに支持していただけたら――というのだ。なかなか面白い発想だと思う。
ホテルの魅力とは、駅近だけではないのである。型にはまらず、むしろコンセプトが独創的でブレないことこそが大切だ。明快なコンセプトを掲げ続けることが、やがて強い信頼と人気につながる。このホテルのコンセプトは、ずばり「お茶と共に過ごすゆるやかな時間」。世界的なブームでもある“日本茶”をテーマにするというのは新しい発想であり、こうしてホテル選びの選択肢が広がるのも利用者には嬉しいことだ。
1階には「DELI & BAR 1899 TOKYO」という食事と喫茶のできるデイダイニングバー(14時~15時はクローズ)があり、このスペースが滞在者の朝食の場ともなる。店舗の隣にある専用のドアを入り、専用エレベーターに乗り2階へと上がれば、そこが明るい白木造りのロビー階だ。チェックインをするフロントが設けられており、向かいのカウンターバーはウェルカムティーのほか、15:00~22:00のあいだ滞在者が好きな時間に利用することができる。
客室があるのは3階~9階までで、全63室が4タイプに分かれている。広さは18㎡~最大33.6㎡とコンパクトだが、いずれも細部にまでお茶や「和」へのこだわりがデザインされており、ていねいな造りに居心地のよさを感じる。小上がりの造られた部屋、洗面キャビネットがバスルームではなく寝室内に“水屋”’としてセットされているなど、斬新さも随所に見られる。
新しいホテルだけに、室内では電気や冷暖房のスイッチ、チェックアウト、TV操作など、すべての作業がタブレットで行われるが、苦手な人はスイッチでの手作業も可能といった配慮がある。また、置かれたスマートフォン端末も滞在中は無料。10カ国との無料通話やインターネットが楽しめる。
ところで、このホテルは“お茶”がテーマなだけに、スタッフには「茶バリエ」と称するお茶の専門家が13名いる。そのうち5、6名は日本茶協会認定の日本茶アドバイザー有資格者だという。また、ロビーにはこのホテルのために作曲されたオリジナルのBGMが静かに流れている。ほかにも、石川県能登半島で100年以上の歴史をもつ蔵元「数馬酒造」とコラボした日本酒「一八九九」も販売されるなど、いくつものこだわりが隠れている。こぢんまりとした静かな都心のホテルで過ごすゆったりとした時間はとても貴重であり、一人で泊まりに行きたくなる隠れ家のような趣がある。
ホテル1899東京(HOTEL 1899 TOKYO)
住所:東京都港区新橋6-4-1
電話: 03(3432)1899
客室数:63室
料金:¥23,000~(朝食込みの1室料金。消費税込)
※季節により変動、前払い制
公式サイト
せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および 関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
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