BY KYOKO SEKINE
明治32年に旧名倉屋旅館の分店として「旅館龍名館本店」の名で創業した歴史ある老舗旅館が、2014年8月、「ホテル龍名館お茶の水本店」として115年の歴史を次世代に継承すべく再生、大きくイメージを変えてリニューアルオープンした。日本旅館から一転、旅館の雰囲気を残しつつも、スタイリッシュになったホテルの周辺には、専門学校や大学、老舗の店舗、古本屋、純喫茶など、今も昔も文教地区“お茶の水”として歩んできた土壌がある。東京随一の下町情緒を誇る“神田”もお隣という粋な土地柄ゆえに、神田明神などの大がかりな祭事も伝承されている。高層ビルが乱立する街となった今も、どこか江戸&東京の気合が見え隠れするエリアだ。
ホテルは御茶ノ水駅から徒歩3~4分ほど、近代的なビル街にあるが、表通りから折れた横道にあるエントランスには、すでに隠れ家ホテルの趣が漂っている。一方、表通りに面した1階にある"お茶と和食"がテーマのレストラン「GREEN TEA RESTAURANT 1899 OCHANOMIZU」は、パティオにパラソルが立ち並び、気持ちのいい空間になっている。
レストランは開業以来、独自の料理を提供。とくに健康志向の女性たちの人気を呼んでいる。ランチはリーズナブルかつバラエティ豊富。夜は、日本茶の特徴や洗練されたおいしさ、多彩な楽しみ方にこだわって、「茶を食す」をテーマにしたオリジナル料理がふるまわれる。「お茶のあるおもてなしの食風景」をコンセプトにした独自路線がいい。
今年で3回目となった夏季限定「抹茶ビアガーデン」では、和紅茶、抹茶、ほうじ茶の「お茶ビール」、オリジナルカクテル「抹茶ワイン」、“茶バリエ”が茶葉に応じて淹れる本格茶、さらには本格料理にまで、お茶が巧みに利用されていた。
さらに、日本茶の効能を勘案して、「朝の茶事」としてそれぞれの客室に用意したお茶を愉しむようゲストにリコメンドしている。個人的なことで恐縮だが、日本茶抜きには1日が始まらなかった私の亡父がつねづね口にしていた「朝茶はその日の難逃れ」や「朝茶は福が増す」。そうした日本ならではの思想が、このホテルには伝承されている。私自身も、小学生の頃から今なお朝の日本茶は習慣となっている。「ホテル龍名館お茶の水本店」では、客室に薫り高い狭山茶のホテル・オリジナルブレンドが用意されている。どうぞお忘れなきよう。
地元密着型、唯一無二の、またメイド・イン・ジャパンのホテルらしいこうした伝統に触れ、外国人ゲストが喜ばないはずはない。また時差の関係、旅程のスケジュールの都合などでアーリー・チェックインやレイト・チェックアウトが必要なゲストには、客室とは別にリフレッシュ・シャワールームが用意されるなど、こまやかな気遣いも嬉しいサービスである。
ホテル龍名館お茶の水本店
(HOTEL RYUMEIKAN OCHANOMIZU HONTEN)
住所:東京都千代田区神田駿河台3-4
予約電話:03(3251)1135
客室:全9室
料金:¥62,000~
(和楽コンフォートツインルーム1泊2名の室料。消費税・サービス料込)
※日によって料金が異なるため、要問合わせ
公式サイト
せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および 関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
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