BY MICHAELA TRIMBLE, TRANSLATED BY IZUMI SAITO
ヘブリディーズ諸島は、スコットランド本土の険しい西岸に沿って北大西洋にひろがる180以上の島々で構成される。カナダ東岸にニューファンドランドが発見される以前、ここはイギリスの領地開拓の最後のフロンティアであった。沿岸付近を取り囲む79島の“インナー・ヘブリディーズ”と、より外洋に散らばる100以上の島と岩礁からなり人も殆ど住まない“アウター・ヘブリディーズ”。このふたつのエリアからなるヘブリディーズ諸島は、スコットランド文化の神秘のひとつとされてきた。石器時代に定住が始まって以来の歴史が、この諸島のあちらこちらに、今もそのままの姿で残されている。ヘザーに覆われたケルト人やノース人の遺跡、古代の荒れ地や中世の古城、灰色にくすんだ石造りの漁村などを目にすることができる。十字型の配置に石が立てられたルイス島の「カラニッシュ・ストーン遺跡」は、エジプトのピラミッドよりも古い時代のものとされている。
列島最西端のセント・キルダ島は、スカイ島から西へ100マイル以上離れており、島と言うより風に吹きさらされた岩の集まりである。これら遠方の島々は船で訪れるのは不可能に近い。しかし、カルマック社が運行するフェリー網のおかげで、東側にある島々を渡ることは驚くほど簡単だ。スカイ・ブリッジで本土と結ばれるスカイ島は、国際ハブ空港であるインヴァネス空港からも近く、ヘブリディーズ諸島のフードシーンの成長を牽引する事実上の首都のような存在だ。北部では、アウター・ヘブリディーズ諸島の最大の島、ルイス島がハリスツイードの織物工場を訪れる者を魅了し、その南のハリス島は、地域の植物から抽出して作られるジンで知られようになってきた。魅力的な荒涼とした大地、吹きさらしの白い砂浜、そしてオーロラを見ることができる広い空。ヘブリディーズ諸島には、イギリス最後の本物の大自然が生きている。
「STAY」
「ミント・クロフト」
贅沢に田舎暮らしを味わえるB&B。スカイ島の6エーカーの有機農園にある、2棟の伝統的なヘブリティーズ式農家を改装して作られている。居心地のよい朝食ルームに並ぶのは、ハイランド・パースシャー産ハチミツを添えたオーガニックポリッジ、インヴィエレイブ社のスモーク鯖のパテを塗ったトースト、そして敷地内で飼われている鶏が産んだ卵。オーナー夫妻のシャズとアリ・モートンが自らもてなす。「ブラックハウス」と「ストーンストア」と呼ばれる2つのスイートルームは、元の建物の頃から何世紀に渡って残るむき出しの石壁を留め、新たに作られた床から天井まで届く窓からはスニゾルド湾の向こうにハリス島とルイス島が一望できる。本館から古い切り通しを抜けると砂利の海岸に降りることができ、宿泊客はそこでオジロワシやミンククジラ、アザラシやイルカに遭遇できるかもしれない。
www.mintcroftskye.com
「ルーズ・キャッスル」
ルイス島のストーノウェイの森の中に佇むルーズ・キャッスルは、フライング・バットレス(アーチ状の飛梁)やガーゴイル像も備えたネオ・ゴシック様式の歴史的建造物で、元々はビクトリア朝のアヘン貿易で爵位を授けられたジェームス・マセソン男爵のカントリーハウスとして建てられたものだ。2016年に改装を終え、新しくオープンしたこのホテルは、元の建物の壮大さが再現され、そこに23室のミニマリスティックなゲストルームが、豪華な9つのアパートメントの間を縫うように設えられている。地元で織られたハリスツイードのクッションが、つややかなミッドセンチュリーの家具とコントラストを生み出す。1階にはナン・アイリーン博物館があり、有名なルイス島のチェス駒(セイウチの牙から掘られた数百年前の93個のチェス駒)のうち、6つを収蔵している。
www.lews-castle.co.uk
「ハーバー・イン」
インナー・ヘブリディーズ諸島の最南端の島、アイラ島では住人のほぼ3分の1がボウモアの町(人口863人)に住んでいる。つまり、町に5つある白塗りのコテージ、もしくはハーバー・インの7つの客室の一つに宿泊することは、まるで親戚の集まりに参加するような感覚だ。モダンで快適な客室には、この島の伝統的世界のエッセンスも加わる。近くのアイラ・ウール工場で織り上げられたボウモアツイードのテキスタイルで仕立てた家具、馬蹄形をしたインダール湖の景色などだ。しかし、このホテルの本当の魅力は、世界最古のスコッチの貯蔵庫、伝説の「No.1ヴォルト(第一貯蔵庫)」があるボウモア蒸留所へのアクセスだ。訪れた人は、その貯蔵庫で1779年から続く同社の舞台裏を覗きつつ、10〜25年物のウイスキーを味わうことができる。
www.bowmore.com
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