ホテルジャーナリスト、せきね きょうこが独自の視点でおすすめの東京ホテルを案内。連載第47回目は、まるで現代アートの美術館。日本庭園に寄り添う高層ホテル「コンラッド東京」

BY KYOKO SEKINE

 近年、アートをテーマにするホテルがにわかに増えているなか、当時、すでに日本気鋭のアーティストの作品を厳選して館内を飾ったのが、汐留の東京ウォーターフロント・コンプレックス内に2005年7月1日に新規開業した「コンラッド東京」だった。どこよりも早くアートをテーマにした当時の総支配人は、「ホテルそのものがアートのように」と思いを馳せ、ホテルを飾る使命とアーティストの人選を村井久美氏に託したのである。すべてを託されたアートプロデューサーの村井久美氏は、かつてインタビューでこう語っていた。「作品性を損なわず、自然の脅威にも耐え、建築と共にずっと愛される作品をと作家たちに問いかけた」と。その意志を汲んだ25人の選ばれし作家は、氏の思いをそれぞれに受け止め、それが「コンラッド東京」を飾る作品となって表れた。作家たちの妥協のない創作の世界を堪能できる館内は、アート好きにはたまらない空間であろう。

画像: 隣接する浜離宮恩賜庭園の水場から見たコンラッド東京。まるでホテルの庭の様に公園風景は心を癒してくれる

隣接する浜離宮恩賜庭園の水場から見たコンラッド東京。まるでホテルの庭の様に公園風景は心を癒してくれる

 コンラッドは、誰もが知る「ヒルトン」のラグジュアリーブランドとして位置づけされており、どの国においてもブランド力を感じさせる豪華設備や独特のモダニズムで知られている。日本初登場となった東京の開業時、世界のコンラッドとして25周年を迎えていたものの、日本での知名度は高くなかった。むしろホテルの魅力として、ロケーションの素晴らしさや、スターシェフ、ゴードン・ラムゼイ監修の同名レストラン(現在は別のレストラン、モダンフレンチ「コラージュ」)を前面に打ち出していたのを覚えている。確かに、ロケーションは素晴らしく、ホテルの真下に見下ろす徳川将軍家の別邸「浜離宮恩賜庭園」はあたかもホテル所有の庭園のように見え、ベイビューの各客室からは、太平洋に続く東京湾のパノラマを見晴らせ、東京ベイエリア一帯を堪能できるのである。

 ラグジュアリーを理想とするコンラッド・ブランドの中でも、東京は独自の地域性をアートやインテリア、食事にも投影し、居心地の良い高級ホテルとして旅慣れた世界のトラベラーに好評だ。もともとコンラッドは、世界共通のコンセプト「Sense of Place」を掲げており、すべてのコンラッドがそれを変わらぬ哲学としている。そのコンセプトに基づく東京のキーは”アート”にあり、「墨絵」と「門」というテーマがアイキャッチとして採用された。「墨絵」はホテル内の要所に飾られ、また「門」を意味するアートは客室階の廊下に表現された。

画像: エントランスロビーを飾るアートワークは田中信行氏の「Purification」(浄化)。美術館のようなホテルストーリーは、この赤と黒の印象的な作品に始まる

エントランスロビーを飾るアートワークは田中信行氏の「Purification」(浄化)。美術館のようなホテルストーリーは、この赤と黒の印象的な作品に始まる

画像: 28階のエレベーターホールにある、浜離宮をモチーフに描かれたアルミ製のアートワーク。「水と歴史」をイメージした越前谷嘉高氏の作品で、黒松、梅の花、千鳥と水の世界を描いている

28階のエレベーターホールにある、浜離宮をモチーフに描かれたアルミ製のアートワーク。「水と歴史」をイメージした越前谷嘉高氏の作品で、黒松、梅の花、千鳥と水の世界を描いている

 まずはホテル1階のエントランスからアートの旅が始まる。中央部には朱色と黒のオブジェが立ちゲストを歓迎している。その迫力に足を止める人も多く、滑らかで不思議な光沢のある日本的な朱色や漆黒に目を奪われる。田中信行氏が日本伝統の漆の仕上げを施した「Purification」(浄化)というアートワークだ。1階からエレベーターでレセプションやロビーラウンジ、レストランのある28階まで上ると、高い天井のホールの壁には、浜離宮をモチーフにし、「水と歴史」を描いた越前谷嘉高氏の作品がある。黒松、梅の花、千鳥と水の世界を描いたアルミ製のアートワークだ。作品のすべては紹介しきれないので、ここで一区切りするが、こうしてホテルの館内全体にさまざまな作品が飾られ、ひとつひとつ作品を注視すると、本当に、美術館巡りをしているような満足感に包まれるのだ。

画像: 「ベイビュー スイート キングベッドルーム」<72㎡> 写真は寝室。この隣にはリビングルームスペースがある

「ベイビュー スイート キングベッドルーム」<72㎡>
写真は寝室。この隣にはリビングルームスペースがある

画像: 日本料理「風花」会席メニューの“お凌ぎ”として提供される“雲丹かけ御飯’”絶品 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF CONRAD TOKYO

日本料理「風花」会席メニューの“お凌ぎ”として提供される“雲丹かけ御飯’”絶品
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF CONRAD TOKYO

 数々の受賞歴を誇るコンラッド東京には、現在、4カ所のレストランとバー&ラウンジがあり、どのレストランでも食事は好評だ。季節感をそのまま目で楽しみ、舌で満喫できる日本料理「風花」や、アートにインスパイアされたモダン中国料理「チャイナブルー」などは創業当時から厚い支持を保っている。ロビーエリアの高い天井やドラマチックな造りはスタイリッシュでダイナミック。とても都会的で、東京らしい趣には訪れるたびに魅了されている。

コンラッド東京(CONRAD TOKYO)
住所:東京都港区東新橋1-9-1 
電話:03(6388)8000
客室数:全291室
料金:¥46,000~¥128,000(スタンダードルーム1泊1室の室料。消費税・サービス料別)
公式サイト

せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
www.kyokosekine.com

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