古より異国の文化が交差し、独創的な“和華蘭(わからん)”文化を築いてきた長崎県。この土地を訪れないと出合えない異次元のような景色や、豊かなテロワールと海の幸に恵まれた、長崎ならではの美酒と肴やイタリアン。市街を走る路面電車、伝説の島へ私たちを運ぶクルーズ船などどこもが絵になる地へ。豊かな風土に彩られた日本に存在する独自の「地方カルチャー」= “ローカルトレジャー”を探す長崎への旅に、クリエイティブ・ディレクターの樺澤貴子が誘う

BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY YUKO CHIBA

*記事内で紹介している内容や価格は、記事公開時点のものです。

異次元との巡り合い

《VISIT》「軍艦島コンシェルジュ」
今も生き続ける、“望郷”の遺跡

【2025年3月公開記事】

画像: いつまでも記憶に刻まれる軍艦島

いつまでも記憶に刻まれる軍艦島

画像: 生活エリアを船から間近に見つめて

生活エリアを船から間近に見つめて

 軍艦島と聞くと、どんなイメージを描くだろうか──日本の近代化を支えた炭鉱開発と、海に浮かぶ廃墟。そんな栄枯盛衰のコントラストが瞼をよぎる。1974年の閉山後に無人島となり人々の関心が薄れつつあったが、2015年に世界文化遺産に登録されると、灯りの消えた島が再びスポットライトに照らされる。さらに昨年は、軍艦島を舞台に据えたテレビドラマも放映され、小さな島の存在が大いに話題を呼んだ。

 長崎のローカルトレジャーを巡る幕開けに、伝説の島の“今”を、この目で確かめたいという気持ちが湧き起こる。

画像: ミュージアム内は、迫力の写真と映像に満ちて

ミュージアム内は、迫力の写真と映像に満ちて

画像: クルーズ船「ジュピター」。全て予約制で、シートはスタンダード、プレミアム、スーパープレミアムの3種類

クルーズ船「ジュピター」。全て予約制で、シートはスタンダード、プレミアム、スーパープレミアムの3種類

 島に上陸する許可を得たクルーズ船は、5社のみ。そのなかから、乗船ターミナル付近で「軍艦島デジタルミュージアム」を運営する「軍艦島コンシェルジュ」をセレクト。まずは、島の歴史を仮想体験することに。軍艦島は、クルーズツアーに参加すれば必ず上陸できるとは限らない。天気がよくても、強風で波が高いと船をつけることができないため、実際に島に降りられるか否かは運次第。さらに、上陸できたとしても、建物の倒壊の危険が及ばない見学コースを巡ることしか許されない。制限をかけられると“知りたい、体験したい”という気持ちが高まるのは人の常だ。

 そこで、「軍艦島デジタルミュージアム」内でVR体験を試みる。映像の一番の魅力は、立入禁止区域である、1916年築の日本最古の高層鉄筋コンクリートの住居棟にドローンが潜入していること。建物内を浮遊するように、リアルな映像が上下左右いずれの角度からも眺められるのだ。そんなバーチャル映像の精度とスピード感に、かつての暮らしの残像を重ね、いざ乗船ターミナルへと向かう。

画像: 船上からの距離でも内部の輪郭がはっきり確認できる

船上からの距離でも内部の輪郭がはっきり確認できる

画像: 写真は第2見学スポットから撮影した煉瓦造りの“第3立坑巻座跡”

写真は第2見学スポットから撮影した煉瓦造りの“第3立坑巻座跡”

 専用ターミナルから出航し、船で向かうこと約45分。島を周遊すると思っていた以上に小規模なことに加え、この狭小空間が世界一の人口密度を誇っていたことに驚きを覚える。取材日は天候に恵まれ、運良く上陸。炭坑エリアに設けた3箇所の見学広場を巡る。遠巻きに眺める生活エリアには、幹部職員が暮らした高台の住居棟や日本最古の鉄筋高層アパート30号棟、小・中学校が目視でき、屋上に設えられた滑り台や神社も、かろうじて姿をとどめていた。

 復路の途中、ふと見上げると、崩壊した建物から木の枝が伸びていることに気づき、風化したモノクロームの世界に見つけた生命の断片に古の栄華が蘇る。無人島となった1974年から50余年を迎えた今、観光客が賑わう声に彩られることを、誰が想像したことだろう。そんなことを思いながら、航跡の向こうに輝く軍艦型のシルエットを見つめた。

画像: 無機質なコンクリートの塊の中に見つけた、命の宿る木の枝

無機質なコンクリートの塊の中に見つけた、命の宿る木の枝

画像: 白波の美しい航跡とともに、軍艦島の残像が今も思い出される

白波の美しい航跡とともに、軍艦島の残像が今も思い出される

受付場所は「軍艦島デジタルミュージアム」にて
住所:長崎県長崎市松が枝町5-6

ツアー申し込みは「軍艦島コンシェルジュ」※必ず公式サイトで詳細等の確認を
電話:095-895-9300
公式サイトはこちら

《STAY》「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」
時を慈しむニュークラシックホテル

【2025年3月公開記事】

画像: ステンドグラスがモダンな彩りを映す「レストラン カテドレクラ」

ステンドグラスがモダンな彩りを映す「レストラン カテドレクラ」

 日本、中国、オランダの歴史が交差する背景から、長崎は“和華蘭(わからん)”文化の街と言われている。旅の拠点となるホテルにも異国情緒を求めたいと訪れたのは、2024年12月にオープンした「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」。IHGホテルズ&リゾーツが展開するブランドで、国内5軒目となる「ホテルインディゴ」には、土地の物語を秘めたデザインが、其処ここに表現されている。

 その筆頭が、アーチ窓や白い鎧戸をまとった本館の赤煉瓦造りの建物といえる。前身は修道院などで使用された127年の歴史を誇る「マリア園」。歴史的な建物の美観を保ちながら、約3年もの年月をかけて内部を鉄筋などで補強し、ホテルへとコンバージョン。ロビーには長崎更紗のタイルをアシンメトリーに配し、ラウンジには浮世絵に描かれた長崎港をカーペットにデザイン。到着した瞬間から、歴史的な建物が放つ時空の迷宮へと誘われるようだ。

画像: ホテルが立つのは、重要文化財の「旧グラバー邸」や国宝「大浦天主堂」といった文化財が連なる国選定重要伝統的建物群保護地区

ホテルが立つのは、重要文化財の「旧グラバー邸」や国宝「大浦天主堂」といった文化財が連なる国選定重要伝統的建物群保護地区

画像: 本館と北館を結ぶ通路からは、港も垣間見える

本館と北館を結ぶ通路からは、港も垣間見える

 デザインのインスピレーションソースは、 長崎貿易で栄えた“和華蘭”の要素を礎としている。

 客室を見渡せば、五島列島の名産である椿のモチーフが家具のデザインにさりげなく取り入れられ、土地の風物詩ともいえる“尾曲がり猫”のシルエットが、バスルームやミニバーに隠されている。さらに、ベッドサイドのランプシェードは、日蘭貿易により日本で初めて長崎に伝わったとされる洋傘をモチーフとして取り入れるなど、微に入り細に入り、物語が展開されている。
 
 街歩きで心に響いた片鱗を、ホテルの中で答え合わせをするように見つけていく、知的な遊び心に胸が高鳴る。

画像: 正面玄関の上部に座したミカエル像の背中を眺める、本館2階の部屋

正面玄関の上部に座したミカエル像の背中を眺める、本館2階の部屋

画像: 洋傘を肩にかけるように、あえてシェードを斜めに設計

洋傘を肩にかけるように、あえてシェードを斜めに設計

 また、ホテル内にある「レストラン カテドレクラ」でいただくディナーも語りどころに満ちている。室内は、リブ・ヴォールト天井を施した高さ10mに及ぶ旧聖堂を、レストランへと改装。創業当時のデザインを模した幾何学的なステンドグラスが、幻想的な光のアートを描き出す朝食のひとときはもちろん、深遠な気配が漂うディナータイムも特別感に包まれる。

 春先のディナーは、地産の鯛やタコをXO醬を加えた出汁とともにいただく袋包み「カルタファタ」や、地元のぶらぶら漬けとサワークリームを合わせたスモークサーモン、長崎牛の香草パン粉焼きなどがテーブルを飾る。

画像: アーチ状の聖堂はレストランへと改装

アーチ状の聖堂はレストランへと改装

画像: 長崎産の柑橘類であるユウコウをソースに用いたメイン料理

長崎産の柑橘類であるユウコウをソースに用いたメイン料理

 ディナーをいっそう美味しくいただくため、夕食前に訪れたのは、ホテルの裏手から急な坂道をしばらく登った鍋冠山公園の展望台だ。取材に訪れたのは早春のみぎり。夕刻ともなると足元には冷んやりとした気配が立ち込めていたが、金色の夕日が樹々や港町、海原にまで満遍なく注ぎ、生きとし生けるものを温かなピンク色に染めていた。

 そろそろホテルに戻ろうとしたその時、一隻の船が港に入港するのが見えた。異国の船が立ち寄ったのか、日本の船が帰り着いたのかは窺い知れないが、流麗な曳航をただ見つめる、格別な豊かさを味わった。

画像: 鍋冠山公園の展望台から長崎港を見下ろして

鍋冠山公園の展望台から長崎港を見下ろして

住所:長崎県長崎市南山手町12-17
電話:095-895-9510
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《CAFE》「珈琲 冨士男」
純喫茶の実直な珈琲とサンドイッチ

【2025年3月公開記事】

画像: 昭和ノスタルジー漂うレトロな空間

昭和ノスタルジー漂うレトロな空間

 本連載で、数々の喫茶空間を紹介してきたが、ここ「珈琲冨士男」も再び訪れたい場所として記憶に刻まれた。入り口に視線を送ると「ただいま美味しいコーヒーが入りました」という札が店先に下げられている。その言葉からマスターのさりげない矜持を受け止め、行列に並びながら、噂のたまごサンドと一杯の珈琲に思いを馳せる。

 創業は1946年。オーナーの川村達正さんの父方の叔父が初代をつとめ、遠藤周作の『砂の城』にもその名が登場する名店である。高齢の叔父に代わり、川村さんが文豪をも魅了した珈琲店を受け継いだのは約20年前のこと。コーヒーのサードブームが到来し、シングルオリジンの豆を浅煎りで振る舞うカフェが増えるなか、「珈琲 冨士男」ではオリジナルのブレンドにこだわった。

画像: 店名の書体からも、洒落たセンスが漂う

店名の書体からも、洒落たセンスが漂う

画像: カウンターの奥で指揮をとるマスターの川村さんを筆頭に、どのスタッフも手際よく、待ち時間さえも心地よいほど

カウンターの奥で指揮をとるマスターの川村さんを筆頭に、どのスタッフも手際よく、待ち時間さえも心地よいほど

 豆は4種類のアラビカ種を基本に、隠し味程度にロブスター種をほんの少し加えたもの。各々の個性を限りなく引き出すため、それぞれに最適な焙煎を施した後に豆をブレンドする。つまり、非常に手間のかかるアフターミックス製法を用いているのだ。

 こうして理想の焙煎に仕上がった豆を、川村さんは1杯ずつではなく、深みを増すために7杯だてでハンドドリップする。豆は、あえて少しだけ雑味を感じるように細かく挽き、ネルドリップに豆を入れ、お湯を当てて少々蒸らす。“少々”の蒸らし時間を尋ねると「豆の状態によりけり」とのこと。大切なのは時間を計ることではなく、目の前にある“豆の顔色”だという。たっぷりとドリップされた珈琲は、たくさん炊いたご飯のように、全体に柔らかな奥行きが感じられるようだ。癖がなく、ほどよい苦味でおかわりしたくなる風味だ。

画像: 珈琲は7杯だてにすることで、オリジナルの焙煎がいきてくる

珈琲は7杯だてにすることで、オリジナルの焙煎がいきてくる

 珈琲とともに待ちかねていたサンドイッチは、たまごサンドとフルーツサンド。前者は、塩と胡椒だけで味付けしたフワトロのスクランブルを挟んだもの。後者は、季節によってフルーツが変動。秋から冬にかけてはイチジク、春が近づくとイチゴ、夏にはスイカも加わる。

 何より驚いたのは、フルーツサンドのオーダー後に、カウンターから生クリームを撹拌する音が聞こえてきたことだ。行列ができる店舗でありながら作り置きに頼らず、朝のうちに純度の高い生クリームを7割程度に仕込んでおき、パンにのせる直前に仕上げることで、しっかりと固さが出てパンやフルーツと調和するとか。雄弁に蘊蓄を語らず、内に秘めた含蓄が立ち込める。そんな喫茶店であった。

画像: 絶妙な“ふわとろ”のスクランブルエッグ

絶妙な“ふわとろ”のスクランブルエッグ

画像: 写真はミックスサンド。見事にスライスされたキュウリがたっぷりと敷き詰められて

写真はミックスサンド。見事にスライスされたキュウリがたっぷりと敷き詰められて

住所:長崎県長崎市鍛冶屋町2-12
電話:095-822-1625
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大人のイタリアン

《EAT》「Trattoria UGO(トラットリア ウーゴ)」
食材と人への“想い”をスパイスに秘めて

【2025年3月公開記事】

画像: 1000本以上のワインが揃う「Trattoria UGO」

1000本以上のワインが揃う「Trattoria UGO」

画像: シチリアの「デシモーネ陶板」が看板のアクセントに。作品は室内にも飾られ、陽気な光を降り注ぐ

シチリアの「デシモーネ陶板」が看板のアクセントに。作品は室内にも飾られ、陽気な光を降り注ぐ

 長崎の旅を終え、もう一度訪れるなら真っ先に胃袋を満たしたいと思えたのが、こちら「Trattoria UGO(以下、ウーゴ)」だ。長崎市の浜町アーケードからほど近いビルの1階、控えめな看板に、実のところ一度は通り過ぎてしまったほど。ドアを開けると、入り口には経年を重ねたヨーロッパのクロークを設え、客席に据えた椅子はすべてデンマーク製のビンテージ。一見すると飾り気のないようで、店の主人の思い入れが、多くを語らずちりばめられていた。

「ウーゴ」のオーナーシェフは、フィレンツェやリボルノにほど近い田舎町で修行をした吉田 太さん。「その日、その季(とき)に一番美味しいものを食べていただきたい」という理由から、夜のおまかせコースのみを振る舞う。

画像: 壁には吉田さんが切り取ったイタリアの情景が飾られて。カウンターやテーブル席に加え、個室もある

壁には吉田さんが切り取ったイタリアの情景が飾られて。カウンターやテーブル席に加え、個室もある

 待ちかねていたコースは、デザートを含め全8品。1皿目は、ピエモンテ州の伝統料理をアレンジした「自家製フレッシュチーズとパプリカソース」。提供時間に合わせて仕上げられた、ほんのり温かい自家製フレッシュチーズに、煮詰めることで風味が凝縮したパプリカのピューレが伴走。香り高いオリーブオイル「ノヴェッロ」と塩のみで食したとは思えないほど、高揚感に包まれた。

 続くアワビのフリットは、柔らかく蒸されたアワビとカリっと揚げられた衣のコントラストが絶妙。添えらえたアワビの肝ソースが2口目のアクセントに。五島産の天然のカンパチを主役にした一皿には、イタリアの古代小麦で食感を足し算に、コリアンダーシードのペーストが個性を放つサラダ仕立てに。雲仙の生産者が開発した「グラウンドペチカ」というジャガイモも、コクのある奥行きの一役を担っていた。

画像: 塩で〆たカンパチは、ねっとりとした甘みがたまらない。皮目を炙ることで香りと食感も増す

塩で〆たカンパチは、ねっとりとした甘みがたまらない。皮目を炙ることで香りと食感も増す

画像: この一皿のために長崎を訪れたい、しいたけのタリアテッレ

この一皿のために長崎を訪れたい、しいたけのタリアテッレ

 メイン料理を前に言葉を失ったのは、同店のスペシャリテともいえる5品目、「永尾さんの原木しいたけの手打ちタリアテッレ」だ。メニューにまで冠した生産者の存在は、対馬の穴子漁師との縁を繋いだ地元の方からの紹介と聞く。情熱を携えた料理人には、“健やかな食の本質”を貫く生産者と繋がる扉が開かれるのだろう。期待を秘めて永尾さんのもとへ出向いた吉田さんだが、会ってすぐにはやんわり断られる。それでも根気強く思いを伝え続けた、ようやく譲ってもらう約束を結ぶ。なんでも、永尾さんのしいたけを長崎で扱うのは、この10年でUGOだけというから、その希少性が窺い知れる。

 人の目にふれぬ密やかな森の営みを、誰にも言わず隠し持ったような原木のしいたけ。旨み、香り、食感のなかに、森の沈黙が厚みを増し、言葉に尽くし難いふくよかさを抱いたような味わい。その戻し汁にバターを加えたスープを、自家製の手打ちタリアテッレがたっぷりと吸い込んだ一皿は言わずもがな。

画像: ソムリエを務める妻の綾子さん。ナチュールワインも早くから注目し、生産者のストーリーに満ちたセレクトが楽しめる

ソムリエを務める妻の綾子さん。ナチュールワインも早くから注目し、生産者のストーリーに満ちたセレクトが楽しめる

 タリアテッレに合わせる赤ワイン「ロアーニャ」を綾子さんが選び抜くと、その一杯に秘められたストーリーをご主人が語る。「ワインの作り手は、樹齢を重ねた葡萄にこだわるルカさん。しっかりと根を張り、大地の贈り物を受け止めた葡萄こそが美味しいワインになると、ルカさんから教わりました」と。

 おまかせコースは、生産者からバトンを受け継いだ地球の恵みを、演出にとらわれず、手間暇と工夫の極めみが織りなすものだった。食べ終わってふと浮かんだのは「最後は“愛”なのではないか?」ということ。何を大切に生きるべきかを、味わえた時間だった。

画像: シェフとソムリエ、店の夫婦の塩梅も心地よさを醸している

シェフとソムリエ、店の夫婦の塩梅も心地よさを醸している

住所:長崎県長崎市油屋町1-10
電話:095-829-2648

《EAT&STAY》「レストランHAJIME/陶々亭」
個性と洗練が隣り合うオーベルジュ

【2025年3月公開記事】

画像: 蔦に覆われた塀越しに、歴史ある建物の趣が顔を覗かせて

蔦に覆われた塀越しに、歴史ある建物の趣が顔を覗かせて

 長崎の唐人屋敷が軒を連ねる界隈から、ほど近くに佇む「陶々亭(とうとうてい)」。店を訪ねようと坂道をのぼると、目を染めるのは常緑の樹木の蔦を纏った石塀だ。まるでゴブラン織の衣装のようだと、横目で眺めるうちに塀が途切れ、威風堂々たる和風建築が現れる。明治41年に建てられた、貿易商・青田家の邸宅だ。気品ある建物の姿はそのままに、高級中華料理店「陶々亭」として店を構えたのは戦後まもない昭和24年のこと、その暖簾は5年前まで静かに受け継がれていた。

 ハレの日に訪れる中華店として、一目置かれる中華の名店が生まれ変わったのは、2023年のこと。「陶々亭」の名前を引き継ぎながら、「レストランHAJIME」を内包する、客室わずか3室のオーベルジュとして誕生した。

画像: 床の間の設えにもモダンな感性が光る、池を望む掘り炬燵タイプの個室。ルイスポールセンの照明「アーティチョーク」がエッジィなアクセントに

床の間の設えにもモダンな感性が光る、池を望む掘り炬燵タイプの個室。ルイスポールセンの照明「アーティチョーク」がエッジィなアクセントに

「長崎の地形はどことなくアマルフィやパレルモに似て、食材の宝庫。長崎弁で“地元”を意味する“じげもん”の食材を巡る、テーブルの旅にお連れします」。そう語るのは、ナポリで修行した高阪二木シェフ。春先の“じげもん”は、そら豆や春キャベツ、ホタルイカやヤイトガツオなど。対馬産の天然の黄金穴子や五島のシマサザナミ鶏、佐世保のさとむら牧場のチーズをはじめ、ジビエの季節には島原産の羊肉や対馬の鹿肉もメニューを彩る。
 
 こうした一家言ある食材に、“本気の遊び心”を加えることも高阪シェフが大切にしていること。たとえばアミューズで出される「フォアグラのチョコレートガナッシュサンド」は、出雲で偶然見つけた「隠岐野上ブルーカカオ」が発想源。「苦いけれども、どこか面白みを感じた」というカカオ100%の第一印象を、しっとりとしたガナッシュのクッキーに仕立て、フォアグラをサンドした。「料理は面白いか、面白くないか。前者はリアルな美味しさに、心の旨みも加えてくれる」。

画像: アニューズが、お皿に敷き詰められた石に紛れるように佇む

アニューズが、お皿に敷き詰められた石に紛れるように佇む

画像: メイン料理「壱岐牛のロースト 筍添え」。料理に合わせて選び抜いた波佐見焼の器も見所。メイン料理に添えた自家製ブリオッシュも絶品だった

メイン料理「壱岐牛のロースト 筍添え」。料理に合わせて選び抜いた波佐見焼の器も見所。メイン料理に添えた自家製ブリオッシュも絶品だった

 発見に満ちたコース料理を終えた夢心地のまま、瞬時にベッドへ向かえるのは、オーベルジュに泊まる特権だ。「陶々亭」では、レストランの2階に設えた「母屋」、吹き抜け空間が開放的な「離れ」、建物の裏手に佇む隠れ家のような「蔵」の3室がある。卓越した日本の建築美を礎に、どこか異国の風を感じるのは、長崎らしい伝統の形といえる。

 撮影の途中、庭を眺めるとハンサムな野良猫が通りすがりに足をとめ、こちらと目が合うと素っ気なく去っていった。その後ろ姿に、どこか愛嬌を感じたのは長崎特有の尻尾がクルンと曲がった「尾曲がり猫」だったのだろうか。尻尾の記憶は定かではないが、メインに添えられていたブリオッシュの味は、今もはっきりと記憶に刻まれている。

画像: 一番広さをほこる「母屋」のベッドルーム。続きの間には庭を見下ろす広縁つきの居間がある

一番広さをほこる「母屋」のベッドルーム。続きの間には庭を見下ろす広縁つきの居間がある

画像: 和風建築の佇まいに、どこか異国の風がわたる

和風建築の佇まいに、どこか異国の風がわたる

住所:長崎県長崎市十人町9-4
電話:095-801-1626
公式サイトはこちら

美酒と肴

《EAT》「タイチ寿司」
長崎のソウルフード“白鉄火巻き”

【2025年4月公開記事】

画像: 「タイチ寿司」のカウンターにて、大将の手際のよさに目を奪われる

「タイチ寿司」のカウンターにて、大将の手際のよさに目を奪われる

画像: 路地裏に構えた暖簾は、もうすぐ60年目を迎える

路地裏に構えた暖簾は、もうすぐ60年目を迎える

 海の幸に潤う長崎。ならば、美味しい寿司を食したいとリサーチを重ねるなか、多くのレコメンドがあがったのが「タイチ寿司」だった。独特の文化を育む長崎らしく、一風変わった鉄火巻きが食べられると聞く。17時の開店まで身を持て余したため、初めて訪れる眼鏡橋の姿をカメラに収め十分にお腹を空かせ、店へと向かう。商店街の路地裏に構えられた店は、1967年の創業。引き戸をあけると、長崎弁で大将の木本太市さんが笑顔で出迎えてくれた。

画像: 1634年に中島川に架けられた、流麗なアーチを描く唐風の石橋

1634年に中島川に架けられた、流麗なアーチを描く唐風の石橋

 オーダーしたのは“白鉄火巻き”である。鍛冶場で真っ赤に熱した鉄に喩えられたことに由来する、赤身のまぐろを材料にした鉄火巻き。長崎市には、その名に矛盾する白鉄火巻きが存在する。その理由を大将に尋ねると、「ねっとりとした食感のマグロよりも、コリコリとした白身に新鮮な美味しさを求めてのこと」だとか。しかも、魚種を特定せずに、その時々の水揚げに応じて最も旨味のある魚をセレクト。脂の乗ったブリやハマチ、カンパチ、ときには長崎弁でヒラスと呼ばれているヒラマサを使う。

 今宵の“白身”は、ヒラス。一口目は、醤油をつけずに味わう。確かに身が締まった食感はプリプリ、シコシコ。独特の淡白で上品な甘みも、噛むほどに味わえる。二口目は、九州特有の甘口の醤油とともに。あっさりとした白身魚が仄かに艶めくような味わいへと変わる。

画像: 白鉄火巻きは2本で¥1,500(税抜)

白鉄火巻きは2本で¥1,500(税抜)

 手際よく寿司を巻いている間も、大将の会話のおもてなしも止まるところを知らない。実は軍艦島で生まれ育ち、父親は約5000人の島民を口福で満たしてきた飲食店「厚生食堂」を営んでいたという。店には、厚生食堂時代の器なども残されており、軍艦島ファンにとっては、在りし日の島の暮らしを語ってもらえる貴重な場所といえる。

 白鉄火を食べ終わった頃、大将に勧められるままに、珍しい生のカラスミの握りや、2日間に及び昆布で締めたという貝割れ大根の握りを味わう。身の回りにある食材に工夫を凝らし“ありそうで、ほかにはない”寿司を生み出す。そこに余計な能書は必要ない。目の前に出された一貫に嬉々として向き合いながら、視線はショーケースで次のネタを追っていた。

画像: 気取りのない軽やかなカウンター越のトークもご馳走のひとつ

気取りのない軽やかなカウンター越のトークもご馳走のひとつ

住所:長崎県長崎市銅座町5-16
電話:095-826-2744
公式サイトはこちら

《BUY》「小野原本店」
飴色の上質なからすみを探しに

【2025年4月公開記事】

画像: お得な片腹の製品に出合えるのは本店ならでは

お得な片腹の製品に出合えるのは本店ならでは

「からすみは長崎でつくるものを最良となす」──そう日記に記したのは、文豪・永井荷風。それほどまでに、長崎産を評価していた。秋冬になると成熟した卵巣をもつボラの魚群が来遊した長崎では、江戸時代にその製法が考案され、からすみ発祥の地とされている。艶やかな琥珀色で雑味がなく、魚卵そのものから醸し出される濃厚な旨味と香りは、天下三珍として珍重され、150年もの間、将軍家に献上。歴史を重ねながら、製造技術に磨きをかけ今に受け継がれている。

 時の将軍と並ぶにはおこがましいが、この機会に自分へのご褒美に特別なからすみを求めたいと訪れたのが1859年創業の「小野原本店」だ。

画像: 店頭で商品を扱うのは7代目となる小野原善一郎さん

店頭で商品を扱うのは7代目となる小野原善一郎さん

 長崎からすみのこだわりは、ボラの卵と塩のみで作ること。卵巣から取り出し、血抜きをして丁寧に身をほぐし3〜6日かけて塩漬けをする。その塩は、先代から採用しているというオーストラリア産の、ミネラルの甘みと旨味が凝縮した天然塩。塩ひとつとっても、“変わらない”ことを伝統と呼ぶのではなく、時代ごとに最適な素材を追求しながら変化を重ね、ブラッシュアップしている。
 
 ねっとりとした独特の食感の秘訣は、天日干しが決め手となる。表も裏もしっかりと水分を飛ばし、飴色に仕上げるのが小野原本店のこだわりという。

画像: パスタやリゾットのアクセントに、香りと食感が楽しめる「からすみそぼろ(粗挽き)」

パスタやリゾットのアクセントに、香りと食感が楽しめる「からすみそぼろ(粗挽き)」

 ひとしきりの取材を終え、待ちかねた買い物タイム。ガラスのショーケースの中には、贈答用の姿の整った両腹のカラスミがすまし顔で並ぶ。ふと目を上げると、レジの付近に籠盛りになったからすみを発見。手作業の段階で腹が分かれてしまった“片腹”タイプだという。味は上等、姿が異なるのみ。当然ながら、少しお買い得になった代物を物色し買い求めた。

 旅から戻り、件のからすみを肴にキリリと冷えた白ワインで晩酌を楽しんだ。その喜びを、冒頭の文豪に真似て日記にしたためたことは言うまでもない。

画像: 店の歴史を語る建物は、有形文化財にも登録されている

店の歴史を語る建物は、有形文化財にも登録されている

住所:長崎県長崎市築町3-23
電話:0120-480-261
公式サイトはこちら

《BUY&BAR》「でじま芳扇堂(ほうせんどう)」
不易流行のクリーンな “どぶろく”

【2025年4月公開記事】

画像: 店名を冠したオリジナルのどぶろく。店内では女将さんが見立てた器とともに楽しめる

店名を冠したオリジナルのどぶろく。店内では女将さんが見立てた器とともに楽しめる

 米と麹を原料に、発酵と醸造が織りなす酒。その全ての素材を濾過せずに味わう“どぶろく”は日本最古の国酒とされている。精製された日本酒に対して、いささか雑味があるイメージを抱いていたというのが正直な心情。多彩な文化が交差する拠点として繁栄した出島にて、2023年にどぶろくの専門店が誕生したと聞いて、俄然、気持ちが向かう。

 訪れたのは、「でじま芳扇堂」(以下、芳扇堂)。街道沿いのビルの1階、入り口にはきっぱりとした藍の染め抜きの暖簾が掛けられ、その隣には、あえてガラス越しに中の様子が眺められるように麹室(むろ)を設計。ビールを手がけるアーバンブリュワリーなどはタンクしか見えないが、こちらでは麹を仕込む手仕事が見える。「モノ作りの気配を街の景色の中で可視化したかった」と、店主で醸造家の日向勇人さん。

画像: 店名は、扇形をしている出島の形にちなんだ

店名は、扇形をしている出島の形にちなんだ

画像: 醸造家の日向勇人さんと女将の咲保さん

醸造家の日向勇人さんと女将の咲保さん

 佐賀の歴史ある酒蔵で蔵人をしながら、酒造りにおける源流を追い求め続けた日向さん。人生を米作りに捧げた専業農家との出会いを機に、「農産物のすべてをお酒に変えたい」という思いから、辿り着いたのが米も麹も余すことなく味わい尽くす“どぶろく”だったという。日向さん曰く「素材の個性をドラマチックに表現するお酒」だそう。

 店の名前を冠したどぶろく「芳扇」は、単一生産者・単一圃場・単一品種によるシングルオリジンの原料米にこだわる。日本酒蔵で培った技術の粋を結集して、全ての工程を醸造家ただ一人で手仕事による本物の吟醸造り。造れる数量は一仕込みあたりわずか300本ほど。米の粒感を残し甘酸苦味が調和した「友」、さらりとしたテクスチャーでキレを重視した「波」、すり潰した米粒が滑らかなコクを感じさせる「雲」。スタンダードな「雲」に加え、大吟醸規格の限定どぶろく「吟雲」など、多数のバリエーションがある。

画像: ニュースタイルのどぶろくとして手土産にも喜ばれる「たすき」

ニュースタイルのどぶろくとして手土産にも喜ばれる「たすき」

 さらに、規格外で流通にのらない農産物を活かすために「たすき」という商品も月替わりで提案。季節の柑橘類や山葡萄やキウイ、バナナなどを発酵させた、一期一会のニュースタイルのどぶろくだ。

 魅力溢れる商品に迷ったら、店舗の奥に設えたバーでまずは体験していただきたい。オランダ貿易を通して出島から発信された歴史をもつチーズやバター、長崎の伝統野菜をアレンジした小料理など、どぶろくと引き立て合う肴とともに堪能できる。稀なる酒と小粋な器、センスの光る食の三位一体を堪能し、心も胃袋も喜びに満たされた。

画像: この日は「吟雲」を燗酒でオーダー。上品でクリアな甘さに、透き通った酸味が心地よい余韻となった

この日は「吟雲」を燗酒でオーダー。上品でクリアな甘さに、透き通った酸味が心地よい余韻となった

画像: 九州近県をはじめ、店主と女将の審美眼で集められた酒器も販売

九州近県をはじめ、店主と女将の審美眼で集められた酒器も販売

住所:長崎県長崎市出島町5-24
電話:080-7124-4509
公式サイトはこちら

家具とアート

《BUY》「AJIM(アジム)」
造船の街で生まれた美しくもタフな家具

【2025年4月公開記事】

画像: 安定した構造を前提としながらも、そのデザインにセンスが光る「AJIM」の椅子

安定した構造を前提としながらも、そのデザインにセンスが光る「AJIM」の椅子

画像: 素材違いの同じデザインも比較できるのもショールームならでは

素材違いの同じデザインも比較できるのもショールームならでは

 幾多の伝説の大型船舶を生み出した造船の街・長崎。その船舶に伴って、この街には船舶家具を製造する歴史も息づく。今回ご紹介するのは、“脚もの家具”と呼ばれる椅子やテーブル、ソファなどを得意とする「川端装飾」だ。1967年の創業から、船上に居住区を据えた大型のタンカー船やコンテナ船、豪華客船の家具を手がけてきた。
 船は、ひと度出航するとメンテナンスのタイミングは得にくい。「川端装飾」によれば次のタイミングまで10年以上だともいう。そのため、大海原の波の揺れや捻れにも負けない、強度こそが筆頭条件にあげられる。それでいて、長期にわたる海上生活を想定した、使い心地や寛ぎ感も欠かせない要素のひとつ。そんな海の上で培われた技術を活かし、デザイン面においても“用の美”を追求したのが、「川端装飾」から誕生した2005年に自社ブランド「AJIM(アジム)」である。

画像: 左:テーブルの脚は鉄橋から想起。右:スツールは、側面を港に欠かせない係留用ロープで装飾

左:テーブルの脚は鉄橋から想起。右:スツールは、側面を港に欠かせない係留用ロープで装飾

「AJIM(アジム)」のデザインは、創業のルーツを礎に、船の構造や港にまつわるモチーフからインスピレーションソースを得ている。船のスクリューや船体、鉄橋や係留用のロープをあしらったスツールなど……。研ぎ澄まされたデザインの背景に宿る物語を聞くだけで、船旅の途上にあるような高揚感がリビングにもたらされる。

 構造面においては、釘を使わず接合する部分の木材を凹凸に削り出して繋ぐ「ほぞ組み」を採用、非常に手間と技を要する技術を受け継ぎ、強度へのこだわりを徹底している。また、快適性へのこだわりとして、椅子やソファのフレームや座面、背もたれに至るまで、人の体に馴染む曲線を計算。部材に目を凝らすと角が削り落とされ、滑らかな触り心地と華奢に見える工夫も追求している。

画像: テーブルの天板にも無骨さを感じさせないように繊細なカーブを施して。椅子の背もたれのカーブも絶妙な座り心地をかなえる

テーブルの天板にも無骨さを感じさせないように繊細なカーブを施して。椅子の背もたれのカーブも絶妙な座り心地をかなえる

画像: 部材の角が削られた、ほぞ組みによる美しい繋ぎ目

部材の角が削られた、ほぞ組みによる美しい繋ぎ目

 機械の台数よりも職人の手の数のほうが多いことも、「AJIM(アジム)」の誇りだという。通常では削りづらいカーブには南京鉋を、ディテールを整えるのは豆鉋と呼ばれる極小の道具を用いるなど、きめ細やかで滑らかな木肌を引き出すのは、熟練の職人による鉋の仕事だとか。繊細な手仕事で、素材の持ち味を最大限に引き出すため、いつまでも触れていたくなる経年変化の美しい家具が生まれる。

 さらに、木材においても一家言を有する。国産のクリやアカガシを中心に、センダンと呼ばれる長崎県産の木材も積極的に用いている。赤みを感じるチェリー材のような木の味わいが職人の心と手を介して磨き抜かれ、ほかにはない家具へと変貌する。旅先で家具を誂える、そんな目的も大人の旅を心豊かにすることだろう。

画像: ふとした瞬間に指先で感じる滑らかさを目指し、無数の鉋を使い分ける

ふとした瞬間に指先で感じる滑らかさを目指し、無数の鉋を使い分ける

画像: 写真は工房の付近に構えていたショールーム。現在は市街地へ移転

写真は工房の付近に構えていたショールーム。現在は市街地へ移転

住所:長崎県長崎市小ケ倉町3丁目466-3 1F
電話:095-801-1001
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《SEE&BUY》「063 FACTORY(マロミ・ファクトリー)」
長崎一の花街に咲いたカルチャー交差点

【2025年4月公開記事】

画像: レコードやカセットテープなど、アナログカルチャーの美点も息づく

レコードやカセットテープなど、アナログカルチャーの美点も息づく

 長崎の旅の最後に訪れたのは、この地で最古の花街といわれ、幕末には坂本龍馬をはじめとする志士達も足を運んだとされる「長崎丸山」に佇むギャラリーである。その前身は1957年から地域に根差し愛されてきた理容店。現オーナー久米 保さんの実家でもある「理容マロミ」だ。

 老朽化に伴い、64年続いた店を2021年に閉店するにあたり、建物を解体するまでの期間限定で、地域の人が交流する場として店を解放したいと発案。「理容マロミの最後の壁画展」と題し、店内や外壁にアート作品を制作、飲食店と協力してアートイベントを開催した。

画像: 両親の残した理容店で、同ギャラリーを経営するオーナーの久米 保さん。自身も福岡で美容室を営む

両親の残した理容店で、同ギャラリーを経営するオーナーの久米 保さん。自身も福岡で美容室を営む

画像: 丸山公園をのぞむ、抜け感のある2階のギャラリースペース

丸山公園をのぞむ、抜け感のある2階のギャラリースペース

 理容店の記憶を街に留める思いから発したアートプロジェクトだったが、想像以上の話題を呼んだ。これを機に「誰もが気軽にアートやクリエイティブなカルチャーに触れられる場を再構築したい」と着想。2023年6月、理容店の名称“マロミ”を数字で語呂合わせしたギャラリー&カフェ「063 FACTORY」として誕生した。

 1階は、フードメニューに隠れファンの多いカフェスペース。たとえば、小腹を満たすならレモンの爽やかさが香る「チキン&パクチーサンド」や、濃厚なチェダーチーズがとろける「ツナメルトサンド」を。コーヒーをパートナーに甘味を楽しむなら、フランスのヴァローナ社製のハイカカオチョコレートを使った「チョコレイトバー」が看板メニュー。

 螺旋階段で繋がる2階には、公園を見晴らすギャラリースペースが設られている。水墨画からインスタレーション、版画やクレイオブジェなど、“今”という時代の感性を抽出した幅広い作家や作品にフィーチャー。「今後は、目の前の公園も巻き込んで海外のアートマーケットのような展開も思案中です」とオーナーの久米さん。訪れるたびに異なる心の扉を開いてくれることだろう。

画像: ガラス張りのソリッドな3階建ての空間

ガラス張りのソリッドな3階建ての空間

画像: 1階のカフェ。撮影に訪れた日は、長崎出身の水墨画家の浦 正(うら ただし)さんの個展を開催

1階のカフェ。撮影に訪れた日は、長崎出身の水墨画家の浦 正(うら ただし)さんの個展を開催

画像: ビターなガートショコラに生クリームを添えた「チョコレイトバー」

ビターなガートショコラに生クリームを添えた「チョコレイトバー」

住所:長崎県長崎市船大工町3-7
電話:092-737-7570
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 初めて訪れた長崎。今回はレンタカーで駆け足の移動となったが、市街を縦横無尽に走る路面電車で移動したら、また違った景色が見えただろう。初夏の風がわたる頃は、島原や五島などの島々も心地よさそうだ。離陸後、深淵な美しさに満ちた有明海を見下ろしながら、再びこの地を訪れることを願った。

画像: 夕暮れどき、どこか時間が止まったような懐かしさを誘う路面電車の光景

夕暮れどき、どこか時間が止まったような懐かしさを誘う路面電車の光景

画像: 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

樺澤貴子(かばさわ・たかこ)
クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

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