料理教室にも使われる広々とした厨房で料理する西井香春

PHOTOGRAPH BY PARKER FITGERALD

季節を映したその姿は簡素にして華。

洗練の精進料理を手から手へとつないできた

女たちの絆の物語がここにある


 武蔵野に佇む、臨済宗の尼寺「三光院」。京都の尼門跡寺院「曇華院(どんげいん)」の流れを汲む。4年前、初めて三光院の料理を前にして、胸が高鳴ったのを私はよく覚えている。とても簡素なのに、気品ある華やかさをまとい、旬の食材の風味をたっぷり湛(たた)えていた。その艶やかさは、京都でいただく数々の名店の料理とは別もの。味は家庭料理に限りなく近い。皿の上には、得も言われぬ香りがふわっと、力強く立ち上っている。天皇家の皇女や公家などの息女が代々住職を務めたのが、尼門跡寺院。そこで育った初代住職と二代目住職、ふたりの尼僧と、ひとりの女性が、曇華院から伝わる三光院の精進料理を守ってきた。三光院の創設以来、80年にわたる三代の女性たちの味わい深い物語が加味されて、尼門跡の精進料理は、この地で特別の輝きを放つようになったのだ。




三光院本堂を山門から見る。

一歩、足を踏み入れれば、そこは別世界。清らかな空気が漂う




 格式ある山門に足を踏み入れれば、凜として清らかな空気が漂う。苔むした庭には桜や椿、あじさい、山吹と、四季折々の花が咲き、松や銀杏、竹林が小さな森を形づくっている。石畳を進むと、「精進料理」と書かれた木の看板が見えてくる。予約すれば、誰でも本堂奥の十月堂で精進料理がいただける。月に数回、料理教室も開催している。


 野菜や穀物、果物、海藻類だけを用いる精進料理は、仏教の長い歴史の中で培われてきた。特に禅宗では、食事作りも修行のひとつ。禅宗各宗派の隆盛に伴い、精進料理も見事な発達を遂げた。


 ここの料理教室に通って驚いたのは、ほとんどの料理が簡単で、作りやすいこと。修行で忙しい尼僧が、時短で調理できるよう工夫を凝らしたレシピはいたってシンプル。主に寺の畑で採れる野菜を使うので、必然的に旬の素材を集めたものになる。やんごとなき姫宮であらせられた尼僧へお出しするため、味わいは洗練され、盛りつけは優美に。男性の修行僧の作る素朴な精進料理とは、一線を画す仕上がりとなっている。




「曇華院」から伝わる「お煮しめ」の美しさは秀逸。昼の精進料理には必ず供される。

大和いもを白く煮て、わさびを芯にした海苔巻き

3時間も炊いて柔らかく仕上げたごぼうの胡麻和え

しょうゆを極力使わず白く仕上げた高野豆腐

彩りに添えたかぼちゃの煮もの



 精進の歴史のなかでも、「うちの料理は、静かな深山の谷川の流れのようなものでございましょう」と、三光院の初代住職・米田祖栄尼(そえいに)は著書で語っている。たとえば、三光院で供されるお昼に必ず登場する「お煮しめ」(写真上)。大和いもの海苔巻きやごぼうの胡麻和え、高野豆腐、かぼちゃの煮もの。大和いもにはわさびを潜ませ、ごぼうは舌でつぶれるほど柔らかく、高野豆腐は白く仕上げる工夫が施されている。洗練された味わいと仕上がりの美しさは、曇華院に伝わる尼門跡の料理の精華だ。